第44話 変異種

 オレはたった今倒したオーガの厚みと、刀の刃渡りを比べていた。


 スキルを使わない状態じゃ刃全体を使ったとしても、一太刀では胴体切断まで持ってけないな、やっぱり闘気+風刃のコンボで、威力強化と斬撃距離を延ばすしか無いか。

 最初は遠距離攻撃出来るスキルが取れて、良かったくらいにしか思ってなかったけど、これは想像以上に便利だな。


 そんな事を考えているとアヤカから声を掛けられる。


「もう仕舞っても大丈夫ですか?」


「待たせてごめん、もういいよ」


 オーガを回収した後、ナナセ達は再度寝床の特定の為に移動を開始する。


 さて、幾らティナの索敵能力が高いと言っても、こんなクソ広い範囲をカバー出来る訳も無いからな、何かヒントになるような物を見つけない事には無理だな。

 連中の特徴や現状を一つ一つ考えてみるか。


 ・体長は約3m程で、人間よりもデカくてがっしりとした体型

 ・肩幅・足もかなりのサイズ

 ・当然その分体重は重くなる

 ・数は約数十の群れ

 ・現状森か山を拠点としてる可能性が高い

 ・力は強いが知能は低い(と思いたい)


 そんな奴等が森の中を動き回るとすると…………!

 人間よりもデカくて足のサイズもあるなら、草むらや藪何かは避けるよりも踏み潰すんじゃないのか!?

 それに体重が重ければ、そんなのが数十の群れで移動した痕跡が残らない訳がない。

 寧ろ知能が低いのであれば、森なんて似たような景色が連続の場所、どこかに分かりやすい目印を作ってても不思議じゃない。


「3人共、警戒しながら進んでる所すまない、今から言う物を探してくれ。藪や草むらが踏み潰された様な道、特にその近くで、木に何か擦れたような跡があれば尚良い」


「それって何か意味があるの?」


「オーガの図体であれば、人がかき分けて通る様な所も、踏み潰して行くんじゃないかと思ってね」


「木に何か擦れたような跡っていうのは何でですか?」


「デカい図体で下手な攻撃を弾き返す防御力があるくらいだ、多少木に擦れたりぶつかったりしても大して気にしないだろう、もしかしたら、ソレを目印にしてるんじゃないかと言う希望的観測もある」


「言われてみればそうですね、あの大きさに群れの数を考えれば、森に跡を残さずに移動するのは難しい、寧ろ頻繁に通る所なら残ってる可能性が高い」


「連中の知能の低さを考えれば不思議じゃない」


 その後オーガの接近に警戒をしながら森の中、特に草むら・藪に足跡や痕跡が残っていないか、通りかかる木に擦れた後が無いかを注意しながら進む一向。

 するとそこには、今まで意識をしなかったせいで見逃していた痕跡が直ぐに見つけることが出来た。

 それも一つ二つでは済まない痕跡の数が。


「こんなに見落としてたなんて」


「結構注意しながら進んでたと思ったんだけどなぁ」


「仕方ないさ。高ランクの群れが居る森での警戒優先度は、殆どの人がその魔物自体になりやすい。だから注意力がそっちに取られて、普段なら気付ける事でも見逃し易くなる。オレだって気付いたのは状況を整理して初めてなんだから」


「一応今の所は周辺に魔物の気配は無いです。このまま痕跡を辿って行きましょう」


 オレ達はティナの警戒を頼りに、痕跡を目印にして森の奥へと進んで行く。

 そして森から岩山を登って行くとその目印は顕著になって行く。

 まずは足に付いた泥が草木の少ない地面によく目立つ事。

 次に武器と思われる物が岩に当たったのか、体がぶつかったのかは分からないが、割れている、欠けている岩が所々続いている事。

 最後に、ティナが捉えた何者かの腐敗臭。

 森と比べて隠れられる所は少ないが、岩陰なんかを利用して進んで行くと、その腐敗臭の原因となるものを発見する。


「…この人達の臭いだったんですね……」


「これが……魔物に負けた際の冒険者の末路…」


 目の前には4人の冒険者の死体。

 恐らく一報が入る前にここに来ていた冒険者なんだろう、どの冒険者も腹と共に食われたのか、内蔵が残ってない空洞の胴体。

 腕と脚は食い散らかされ、既に誰の骨かも分からない。

 他の肉が付いた部分も同様に噛み千切られ、辛うじて人と判別出来るのは、無造作に地面へと投げ捨てられた顔の部分のみ。

 その表情も激痛と恐怖に塗れ、泣き叫ぶ様な顔ではなく。

 どう足掻いても自分達の力では覆せない現状、そして、その先に訪れる確実な死と言う現実絶望に全てを諦めた顔だ。


「オレは…こうなりたくないから色々と考えるし、その結果臆病者と呼ばれるのも構わない、但し、絶対に勝てない事はしない」


 今まで多くの魔物を倒して血や臓腑を見た3人も、それが人間となると訳が違うのか、明らかに気分が悪そうにしている。

 ただナナセはそれを見て少しホッとしている、何故なら人の死体を見て、3人がもっと取り乱すかと思っていたからだ。

 予想していたよりも、その反応が薄い事に安堵していたのだ。


 その後、冒険者の死体からそう遠くない場所に、岩肌に空いた大きな穴が見えてくる、そしてその周囲に居るオーガの群れ、恐らくあの穴を塒にして居るのだろう。

 もしかしたらあの冒険者達は、好奇心から痕跡を追ってオーガに見付かったのかもしれない。


「オーガの数が―――22匹か、森の方に出てる事も考えると、30くらいは居ると見た方が良いか」


「だね、実際私達は1回遭遇してるし、あの数しか警戒や狩りに回して無いなんて思えないし」


「場所も分かったし一度フィリップさんの下に戻りましょう、長居してバレたら元も子もないわ」


「ちょっと待って。穴の奥から何か近付いて来る気配がする、それもオーガとは匂いが違うのが。それを見てから戻りませんか?」


 奥からオーガと違う匂いがするって?

 なら冒険者達が言ってた上位種の存在か、もしくは全く別の何かか、まあ、それを調べるのも偵察の役目だしな。


「わかった。そいつを見てから戻ろう」


 周りのオーガに気付かれない様に岩陰に隠れながら待っていると、そいつが穴から出て来た瞬間、全てオーガがそいつに対してひれ伏す様なポーズを取る。

 その姿は体格こそオーガと同じくらい、いや少し小さいくらいのオーガだ、それでいて一番特徴的なのが、全身が真っ赤であると言う事だ、少なくともこちらから見えてる部分は全て赤い。

 オレ達は現状で偵察は成功したと判断し、この情報を知らせる為フィリップさんの下に急いだ。


 ―――――――――


 戻った後、オレ達は得た情報全てをフィリップさんに説明した。

 そしてあの真っ赤なオーガの事を話した瞬間


「赤いオーガだと!? それは見間違いとかじゃないんだな!」


 フィリップさんが声を上げる。


「ええ、特徴的な真っ赤な肌と、普通のオーガよりも少し小さいくらいでした。そいつが出て来た瞬間、周りに居たオーガがひれ伏してましたよ」


 知り得た情報を出来る限り正確に伝える、オレ達に取っては些細な事でも、場合によってはその些細な事が重要な事だったりもするからだ。


「オーガよりも小さくて、ひれ伏してた………間違いない。ブラッドオーガだ……」


 ブラッドオーガ?それが例の上位種の個体名か?

 オーガがBランクだし、その上と考えてAランクの魔物であれば狩れるが、一応フィリップさんには話して置くべきだろうか。


「そのブラッドオーガは上位種なんですよね? Aランクの魔物であれば」


「違うんだ……ブラッドオーガはなんだよ、それもAAランクの……」


「AAランク……」


 これはオレ達もまだ戦った事が無いレベルの魔物だ、Aランクと強さがどれくらい変わるのか。

 ただフィリップさんの様子から言えるのは、間違いなくやばい事態だって事だけだ。


「因みに、もしそいつと戦えばこの討伐隊はどうなりますか?」


「多分だが……少なく見積もって、8割近くはブラッドオーガだけで死ぬだろう、頼みの綱のBランクがそこまで数が居ないからな、せめてAランク冒険者が1チーム居ればそれを主軸にして戦えるんだが」


(どうする?恐らくオレ達も負傷する事になるけど、全力を出せば倒せなくもないと思う)


(負傷程度で倒せるのであれば、倒した方が良いと思います。これを放って置くと間違いなく被害は拡大するでしょうし)


(周りの目を気にしないで良いなら、私の魔法連射も使えるけど、絶対後で大変な事になると思うよ)


(私は戦力としては役に立てないので、皆の指示に従います)


 アヤカは倒す派、ユウカも倒す派だけど後々の処理が大変だよと、ティナはオレ達の指示に従うか……。

 これを機に、オレ達のランクの件の駆け引きに使うのも良いかもしれないな、上も面倒、下も面倒って話なら、下より上に居た方が良いだろうし。

 まぁ、ランクの件に関しては、皆に相談するまで駆け引き状態にしておくのがベストだな。

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