第43話 偵察

 冒険者のほぼ全員がテントではなく、単純な寝床を確保するだけの準備であった為、直ぐに野営の準備が終わり、続々とフィリップの下に集まり出す。


「まずはオーガ共がどこを寝床にしてるのかを知りたいが、誰か偵察に立候補する者、出来れば盗賊シーフ探索者シーカーがいいんだが、居ないか?」


 だがこの言葉に対して誰も声を上げる者は居なかった。

 ある意味でこれは当然であるとも言える。

 何せ相手は凶暴な魔物であるオーガ、しかも数は数十だ、そんな奴等を偵察する事がどれほど危険な事かを理解しているからだ。

 もし仮に居るとすれば、それは自殺志願者かお人好しの馬鹿しか居ないと、この場に居る者の多くが感じている。

 そんな中、誰かが言う。


「確か獣人って耳も鼻も人間より遥かに鋭いって聞くぜ、そいつ等ならオーガが近付いて来ても直ぐに気付いて、見つかる前にその場を離れられんじゃねーか?」


「そうだよ! そいつ等に偵察してもらおうぜ!」


「ふざけるな! 確かに人族より耳も鼻も鋭いが、そんなに遠くまで分かるような物じゃないんだよ!」


 獣人の男冒険者の言う通りだな、獣人全てが鋭いって訳じゃないだろうし、場合によっては大して変わらない人だって居るだろう、自分達がやりたくないのは分かるが余りにも酷過ぎる


「別にアンタにやれとは言ってないさ、だが1人居るだろ? 場違いにもここに居て戦力にならねえのが、戦えねえんならせめて偵察くれーはしてもらわなきゃな」


 そう言って男はナナセ達を見る。


 つまり、オレ達に自分達の代わりに死んで来いって言いたい訳か。


「お前! 幾ら何でもそれは!」


「だったらあんたがやってくれんのかよ?」


「それは……」


「俺は只ついて来て報酬だけ貰おうとしてる冒険者に、仕事を与えてるだけだぜ? せめて偵察程度はしてくれってな、それだけで報酬が貰えるんだ、楽な仕事だろ」


「そうだ! せめて偵察くらいして来い!」


「それくらいしかお前らの出来る事はねぇぞ!」


 周りの冒険者達も男の発言に協調しだしたな。

 まあ、言ってる事はもっともだが、頭から戦力にならないって思われてるのがなぁ、ランクが上過ぎても面倒は起こるし、下過ぎても起こる……中々面倒な話だ。


(ナナセさん……)


(大丈夫だ)


「偵察に行くのはいいけど、パーティーで行かせてもらって問題無いですね?」


「おお、1人は寂しいだろうからな! 好きにしろよ」


「了解……そうだフィリップさん」


「なんだ?」


「オーガの買取金額ってどれくらいなんです?」


 その瞬間何人かの冒険者が笑い出す。

 明らかにお前達には無理だという嘲笑の意味なのは、ナナセ達には十分伝わって来た。


 ランク的に勝ち目が無い奴が言う精一杯の強がり、とでも思われてるんだろうな、それが自分達の格を下げてると分からない時点でお察しだな。

 せめて口には出さずに心の中だけで思っていればいいのに。


「ぶっはっはっはっは! おいおい、どうやってEランクのお前らがBランクのオーガを倒すんだよ! 冗談きついぜ!」


「そうだ、もし1体でも倒せたら俺の有り金全部くれてやるよ!」


「そりゃあいい! 俺のもやるぞ!」


 笑って来た冒険者全員が同じ事を言うとは……けど大勢、しかもギルド職員の前で言った以上、嘘や冗談だったは通じない。

 有難く路銀の足しにさせて貰おう。


「その言葉、忘れないで下さいね? それで、1匹当たり幾らなんですか?」


「通常は大銀貨2枚だが、今回は討伐意欲を奮起させる意味も含めて、どんな状態でも買取金額を大銀貨5枚、更に討伐報酬で大銀貨5枚、合わせて金貨1枚だ」


 これはギルドもかなりの大盤振る舞い、違うな、街の目と鼻の先に高ランクの魔物が群れてるから、街の安全を最優先して確実に殲滅する為に高額な報酬にしたって方がしっくり来るな。


「了解です。それじゃオレ達は行きます」


 聞きたい事は聞けたので、オレ達はさっさと森の中に入る事にした。


「にしてもあの人達ムカつくなぁ! 自分達がやりたくないからってこっちに丸投げしてさぁ!」


「大声を出さないで、それじゃ偵察に来てる意味が無いわ」


「私のせいで皆を巻き込んじゃってごめんね」


「気にしなさんな。連中が態々取り分を分けてくれた上、サイフまでくれるって言ってるんだ、有難く頂こう」


 オレの言葉に3人は静かに頷く。


「それじゃティナは見つけた中で、数の少ない奴を優先して索敵を頼む」


「任せて下さい」


「アヤカは鞭形態で出来る限り、首の切断か脳の破壊で即死を狙ってくれ、息が残ってる場合はユウカが魔法で援護、その際には魔力干渉に注意してくれ」


「わかりました」

「おけ」


「早速2匹で動いてるのを見つけました。こっちです」


 ティナの案内する通りに進んだ先には2匹のオーガ、大きさは……3mくらいか、猫背掛かった姿勢で手には棍棒を持ち、発達した筋肉は防御力の高さが伺える。

 これは即死狙いは厳しいかもしれないな。


「あいつ等には一斉に攻撃をしますか?」


「いや、まずオレが1匹仕留めるから、残りのオーガがそれに気を取られた隙に攻撃してくれ」


「アヤカさん、これを使って下さい」


 あれはパワーシンボル。そうだ、あれを装備すれば力がプラスされるから仕留め易くなる!

 少し前に手に入れたばっかなのに、印象が薄くて忘れてた。


「ありがとうございます。使わせてもらいますね」


 アヤカがパワーシンボルを身に付けると、腕に丁度フィットする様に大きさが変更される。


「それじゃ補助魔法掛けるね」

中級炎補助魔法フレイムフォース中級雷補助魔法ライトニングリフレックス


「助かるよ」


 さて、あのオーガをどうやって倒すかだけども、確実なのはさっきも言った首を飛ばすか、脳を破壊するかだろう、それ以外には心臓だけども、オレにはその位置がどこか分からないからな。

 首を狙うにしても地に足をつけたままじゃ切断は出来ない、多分首の厚みの半分も行かないだろう、なら飛び掛かって斬るか?

 これも無いな、空中で軌道を変える術が無いまま飛べば、ダンジョンに居たコボルドナイトと同じ末路だ、同じ理由で脳の破壊も難しい……いや、待てよ、アレを使えばいけるか、問題は出来るのかって事と、威力がどれくらいかだけど、これは試してる時間は無いから信じるしか無いな。


「アヤカも、準備はいい?」


「大丈夫です」


 オレは《闘気Ⅰスキル》を使って一気にオーガと距離を詰める。

 補助魔法のおかげかオーガ達の動きがゆっくり見えるのに、こちらの動きはそのままだ、刀が首に届く位置に来てようやくオーガが動き出すが、もう遅い。

 刀を鞘から抜き、その首を目掛けて振るい当たる瞬間に。


「風刃!」


 次の瞬間オーガの首が飛ぶ。


 2つ同時にスキルは使えるのか、正直今までスキルは1個しか使えないとばかり思ってたけど、勝手な思い込みはダメだな


「グゴ?!」


 もう一匹のオーガはナナセを背後から狙おうとした時、首に違和感を覚える。

 ナナセに気を取られた瞬間、既にアヤカが近付き、攻撃の布石を打っていたのだ。


(鞭状態の剣で首を締め上げたって事は、恐らく最後にそれを……)


「ッハ!」


 アヤカの掛け声と共に剣が強く引かれる、同時にチェーンブレイドが絡んでいた部分は一気に斬り裂かれ首が落ちる。

 信号を送る部分を失った身体がゆっくり前に倒れて来る。


「危なッ」


「姉さん、倒し方がエグいって……」


「血や肉片が周りに飛び散って……」


「ごめんなさい!」


 アヤカを除いた3人が恐る恐る巻き付いていた部分を見ると、鋭い刃で最初に出来た裂傷部分を何度も斬られたせいで、その周りの皮膚・筋繊維どちらも原形を留めていない程ズタズタに千切られており、中々に凄惨な状態になっている。


「うわぁ、マジでズタズタじゃん、姉さん、もっと別の倒し方とか無かったの?」


「だ……だって、あの方法が一番安全に倒せると思ったんだもの!」


「まぁ、確かにそうだ、今のアヤカが出来る事で手っ取り早く、且つ、安全に倒すって事ならあれが最適解だろう、首を締め上げられた事で声も出せなくなるし」


 取り敢えずこの2匹を仕舞って次に進むか、一応オレ達の役割は偵察なんだし、オーガの寝床を探さないとな。

 あくまで倒すのはついでだ、ついで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る