第45話 ギルドとの駆け引き

「あの、フィリップさんはオレ達の事をどこまで聞いていますか?」


 オレは、バーナードさんから何を聞いているのか探る意味で聞いてみた。

 多分あの反応的に、討伐した魔物とかは聞いて無くて、本当に簡単な説明で済まされたか、オレが怒りを露にした瞬間を見ただけって事もあり得る。


「さっきは聞いてないと言ったが、バーナードからは君らがオーガ討伐の戦力になるのは間違い無いって事くらいさ、それ以上は何も聞かされてない」


 そういってフィリップは何とか策を出そうと頭を抱えて座り込む。


 成程、誤差程度の違いしかない情報だな、魔物の体格なんかで多少得意不得意はあるが、オレはAランクのレッドファングを、アヤカとユウカはBランクの魔物を軽く倒せる程度の力はある。


(Aランクまで倒した事があるって言っても大丈夫かね?)


(問題無いと思いますよ。更に言えば、森で倒したオーガを見せて言った方がより信憑性があると思います)


(ならオレが話を進めるから、タイミングを見計らって出してくれ)


(わかりました)


「戻って態勢を立て直そうにも、Dランク冒険者には荷が重過ぎる、はぁ………どうしたものか」


「もし…ブラッドオーガと戦える者がコルセアに居たらどうしますか?」


「どうしますかって、そりゃ頼むに決まってるだろ! ………もしかして、心当たりがあるのか!?」


 心当たりって言うか、目の前のオレ等なんだけど……流石にそこまでは察せないか、後はまぁ、少しだけ駆け引きを入れて、事が終わってから知らぬ存ぜぬを通せない様に、その言質を記録しておくか。


「因みにブラッドオーガを倒した場合、買取や討伐報酬はどうなります?」


「そうだな……」


 この機を逃せばブラッドオーガ討伐が不可能になるだけじゃなく、周辺の村や街に多大な被害を与えると感じたフィリップは直ぐに頭を切り替え、ギルドと相手の双方が納得させられるギリギリの額を即座に考える。


(ブラッドオーガの皮は防具の…特に鎧としては軽くて丈夫な良い素材だ、他にも心臓・膵臓・肝臓・脾臓・胆嚢・睾丸は薬の材料にもなるし、更に魔石があればその価値は倍になると言っていい。今回の様な緊急の討伐報酬も加味すれば………)


「買取で金貨60枚、もし魔石があった場合、それも売ってくれるなら追加で金貨60枚。そして、討伐報酬として金貨60枚だ」


 フルセットで物があるなら金貨最大180枚!?

 Aランクのレッドファングでさえ、魔石無しで金貨2枚だったのに対して、緊急とは言えケタ違い過ぎる!

 たった1ランク上がるだけでこれ程違いが出る理由ってなんだ。


「あの、Aランクのレッドファングと違って、額が跳ね上がってるみたいなんですけど」


「レッドファングの買取を見た事があるのか、なら話が早い、Aランクの魔物はがんばりゃBランク冒険者でも狩れる。だが、AAランクの魔物はそもそもAランク冒険者の数が少ない、魔物自体も強力なうえ、希少で価値が高い。それらの人材不足・希少性や効能的付加価値等の要因で、額が一気にぶっ飛ぶのさ」


 Aランクの魔物までは、需要と供給がある程度釣り合ってるからの金額で、その上であるAAランク以上となると、需要に対して供給が全然間に合って無いから跳ね上がるのか。

 成程、これは勉強になる。


「移動には乗って来た馬車を使っていい、大至急連絡を取ってくれ!」


「いえ、移動する必要は無いですよ」


「……はぁ? 移動する必要は無いですよって、ここにはC・Bランクの冒険者しか居ないぞ?」


「その心当たりってのが、オレですから」


「おいおい、こんな時に笑えない冗談は」


 ドサッ!


 フィリップが言葉を発している途中で何かが落ちる音がする。

 その音の正体は、出発して直ぐの頃に倒したオーガを、アヤカがストレージ・スペースから出した音だった。


「こいつはオレが倒したオーガです」


「ほう、バーナードが言ってた通り……何! これは本当にお前が倒したのか!?」


「はい、倒しました」


(なんてこった……こんな奴が討伐隊の中に混じってたなんてな、まさかとは……恐らく不意打ちだろうが、こんな事BランクどころかAランクですら出来るか怪しいレベルだぞ)


「…念の為ステータスを見せてもらえるか?」


「それはいいですけど、オレのだけで、且つ他言しないと約束してもらえますか?」


「勿論だ」


 オレはステータスを表示させる。


【名前】 カズシ ナナセ

【レベル】 19

【HP】2154 【MP】617 【力】1256 【魔力】466 【俊敏性】1154 

【体力】931 【魔法抵抗力】695 【物理攻撃力】1256+350 

【魔法攻撃力】466 【防御】466+50 【魔法防御】348


「なっ……このステータスで……レベル……19…だと? 在り得ない」


「いいえ、在り得ているから倒したんですよ」


「俺もAランク冒険者のステータスを見た事がある! 攻撃力や防御力は別としても、そいつはレベル110程でこれよりも基礎ステータスは低かったぞ!」


 どう言う理由でステータスが決まるかは分からないけど、多分オレがこの世界の人間じゃないからって事は、絶対に絡んでるだろうな。

 大事になるだろうから言わないけども。


「そんな事言われてもオレにだって分かりませんよ、こうなってるとしか言いようが無いですから。それでギルドとしての判断はどうしますか?」


「………お前達に頼みたい。どうかブラッドオーガ討伐に力を貸してくれ」


 そう言ってナナセ達に頭を下げて頼み込む。


「受けるに当たって、一つお願いが有るんですけどいいですか?」


「正直俺に出来る事は少ないが、聞かせてくれ」


「もしブラッドオーガの討伐に成功したら、オレ達のランクについて相談させてもらえますか?」


「ふむ……ランクに関しては俺の管轄外だから上にあげる約束は出来んが、今回の件を報告して上層部に掛け合う位は出来ると思う。もしそこでランクアップと言う話になれば、その場にお前達を同席させる事を約束しよう、それでいいか?」


「大丈夫です」


 これでランクアップとなっても、上がり過ぎない様にこっちで調整をかける事が出来るな、もし3人がランクアップを嫌がるのであればその場で断れる。


(まあ、ブラッドオーガを倒せる冒険者を、E・Dランクに置いとく様な勿体無い事自体しないがな、確実にランクアップはされる。そして物言いから、ランクを上げる事が目的で相談させろって感じじゃないな、そもそもそれが出来ないのは周知の事実、って事は……上がり過ぎを防ぐ為?なんでそんな事を?)


 ナナセの思惑を看破しつつ、何故そんな事をするのか理解が出来ないフィリップだったが、今はそんな事を考えている余裕は無い。

 オーガ含めブラッドオーガ討伐に向けて、強制招集とは言え、討伐に参加した全冒険者を集めて事の説明をする。


「全員聞いてくれ!偵察に出ていた者が戻り、オーガの巣と群れの凡その数を特定した!」


「オーガは何匹居るんだ!」


「数は約30匹前後! 巣の場所も、岩山の南と東の上り口の丁度中間地点! 出発は深夜、オーガが巣に戻り寝静まった時だ!」


「30前後か、Bランクパーティー以外は2パーティーで戦う形にしたとして、1パーティー当たり1~2匹か」


「いいや早い者勝ちだろ!」


 戦闘時に気が高ぶるのはいいんだが、次の情報を聞いてそれを維持出来るのが何パーティー…いや、何人居るか。


「そしてここからが本題だ! この巣の中には変異種、AAランクのブラッドオーガの存在が確認された!」


 その瞬間、騒がしく聞こえていた声が止み、一瞬で静寂に包まれた。

 ある者は驚きの表情を。

 別の者は絶望の表情を。

 それらとは違う者は、騒がしく話していたままの表情を。

 千差万別の表情で固まる冒険者達。


「ブラッドオーガと聞いて驚くのも無理はない! だが既にブラッドオーガと戦う者は手配してある、お前達はブラッドオーガを見付け次第即座に下がれ! 戦闘中の者は可能な限り早く倒した後に全力で逃げろ!」


「あ……あの、その手配した冒険者って言うのは、誰なんですか?」


 1人の冒険者が当然の質問をする。

 そしてその質問を皮切りに一斉に同様の質問が飛び交う。


「静まれ! 誰かまでは言えん、だが確実に居るという事だけは確かだ! 再度言う、見付け次第即座に下がれ! 戦闘中の者は可能な限り早く倒した後に全力で逃げろ、以上だ! 各自討伐に備えて休め!」


 最後の最後に物議を醸す結果になったな。

 でもまあ冒険者側の言いたい事は分かる、誰か言えない・見せられない、けど信じろ!なんて言われても難しい話だ、何せ自分の命が懸かってるんだからな。

 フィリップさん的には、オレ等の事を言っても信じてもらえないだろうし、オレもステータスを見せたく無いからの苦肉の策なんだろうけど、下手をしたら深夜になる前に逃亡する冒険者もでるんじゃないのかこれ………。

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