第41話 強制招集

 今日こそダンジョンへ金策に向かう為宿で朝食を取っていると、ギルド職員が息を切らせて駆け込んできた。

 その様子に他にも食事をしていた宿泊客が驚いている。


「あの!【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の皆さんで間違いありませんよね!」


「あ~…はい、そうです」


「冒険者ギルドから、緊急依頼による強制招集が掛けられていますので、食事を終えたらギルドにまでお越し下さい!お願いします!」


 それだけ話すとギルド職員はまた急いで出て行ってしまう。


「緊急依頼に強制招集って……何があったのかしら」


「凄い慌ててたみたいだし、やばい事でもあったのかも」


「なら言われた通り、食事が終わったら直ぐギルドに向かってみましょう、ナナセさんもそれでいいですよね?」


「……ああ」


 何か嫌な予感がするな、オレ達以外にも冒険者は居るのに、その人等には一切声を掛けて無かった。

 ギルドランクによる選別か?

 だとしたらEランクパーティーのオレ達の方が普通は弾かれるよな。

 どうあれ来いって言われたら行くしかないか。


 少し急いで食事を終わらせ、他の冒険者の視線を感じながら宿を出ると冒険者ギルドへと向かう。

 その道中も普段と違う騒がしさに包まれていた、いつもは飲んで騒いでいる冒険者達が寄合って何かを話している、しかもギルドの周りに人集りまで出来ている。


「ここまで人が集まるなんて、本当に何が起こってるんだ?」


「まずはギルドに入りましょう、ここじゃ何も分からないですし」


 確かにティナの言う通りだ、ギルドの外に居たんじゃ分かる物も分からないし、呼ばれてる以上は入るしかない。


 中に入ると一行に気付いた職員が直ぐに声を掛けて来る。


「【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の皆さんですね! 招集に応じて頂きありがとうございます!」


 招集に応じたってんじゃなく【強制】って言われたから来たんだよな、あと一体何があったのか簡単でもいいから、説明して欲しいんだけども。

 とてもそんな空気じゃなさそうだ。


「全員そのまま聞いてくれ! 既に知っている者も居るかも知れないが、街から西に行った所にある森に囲まれた山で、オーガの群れが確認された! それも数匹ではなく数十の群れでだ!」


 この言葉にギルド内が騒然となる。


 騒ぐのも当たり前だ、単体でも高ランクに分類されるオーガ、それの群れとか危険度が跳ね上がる、この場に居る冒険者がどれだけ犠牲になる事か。

 そんなのが視界の悪い森の中に居るとか厄介極まりない。


【オーガ】

 Bランクの魔物:額にツノの様な特徴的な突起がある魔物、知能は高くはないが、その巨体から繰り出される一撃は破壊力・攻撃速度共に強力、同ランクの前衛冒険者ですらまともに受けると動けなくなる程。また皮膚も強靭で、並の物理攻撃は弾いてしまうので魔法による遠距離攻撃が一番安全。救いなのは移動速度が然程速くないくらい。主な武器は素手・牙・棍棒。


「オーガ数十の群れとか、Bランクパーティーでもやばい案件だろ!」


「バーナードさん! まさか俺達だけで倒して来いとか言うんじゃねーよな!?」


「それだけの数だ! 群れを率いる上位種が居る可能性だってあるぞ!」


「そうじゃなくてもその数はAランク案件だ!」


 上位種となるとAランクの魔物ってことか?

 高ランクの魔物の群れって事を考えても、Aランクパーティーに依頼する案件だろうけど、果たしてこの場に居るのか。


「残念だがこの街や近隣の街にもAランクパーティーは居ない、王都の冒険者ギルドに1組確認しているが、時間的に間に合わないだろう。だからCランク以上の冒険者には強制招集をかけさせてもらった! 参加報酬は金貨7枚、別途素材も高値で買い取り、貢献度によっては追加報酬も出す!」


 強制招集、応じなければギルド資格剥奪のうえ、永久追放ってのはやり過ぎだと思うけど、街の安全を天秤には掛けられないって事かな。

 それよりもCランク以上の冒険者って、じゃオレ達は何故呼ばれたんだ?


「報酬は魅力的だがよ、その数は明らかにやべぇよ、複数体同時に相手となったらBランクパーティーでも」


「臆するな! オーガ共にくれてやる物等ここには一切無い!! 今こそ全冒険者が一丸となりこの街を守るのだ!! 連中にコルセアへ近付いた事を後悔させてやれ!」


「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」


「やってやる! オーガが何だってんだっ!」


「狩り尽くしてやる! 待ってやがれ!!」


 なんだ!?さっきまで数だ上位種だと及び腰だった冒険者達が一斉に哮ってる。

 確かにバーナードさんは冒険者に激を飛ばしてたけど、それだけでこんな状態になるもんなのか?


(カズシさん、この原因は今のバーナードさんの言葉が切っ掛けだと思います。私も周りの変化に驚いて咄嗟に自分の状態を確認したんですけど、そこに【鼓舞】って言うバフが掛かってました)


(成程、オーガの数に尻すぼみしてた冒険者達のケツをスキルで叩いて、奮い立たせたって事ね。便利なスキルだけどもある意味怖いスキルだな、上手く使えば恐怖で動けない者を強制的に死地に送れるって訳だし)


(それよりもCランク以上に強制招集って話ですよね! どうしてEランクパーティーの私達にまで来たんですか!?)


(ほんそれ、ステータス的には上だけど私達はそれを誰にも見せてない、レスターさんにも口止めしてた、なのにギルドは私達の力を知っていた………どうして?)


(ああ、その事に関してはオレも気になってるから聞いてみる)


「今より1時間後に西門に馬車を用意する! それまでに準備を済ませて西門に集まってくれ! この街の未来を守るぞっ!!」


「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!」」」」」


 ギルドに集まった冒険者達は再度咆哮を上げて外へ出ていく。

 恐らく討伐の為の準備に取り掛かるのだろう……だが、一組だけその場に残るパーティーがある。

 冒険者パーティー、【討ち滅ぼす者アナイアレイター】だ。


「誰も居ない内に聞きたいんだけど、いいですかバーナードさん」


 ナナセの言葉は比較的丁寧だが纏う雰囲気が明らかに普通じゃない。

 それは2日前に知り合ったばかりのバーナードにも理解出来た、自分は今、相手の逆鱗に触れかけていると。

 当然周りに居るギルド職員にもそれは伝わる。


「あなたはさっき、Cランク以上の冒険者に強制招集をかけた、そう言ってましたけど、オレ達の個人ランクはDランク、ティナに至ってはEランクだ……理由は聞けるんですよね?」


 バーナードの背中に冷たい物が流れる、が、表情を変えずに一言。


「それは君の方が良く知っていると思うが?」


 ああ知ってるさ、自分達の実力くらいは、でも聞きたいのはそれじゃ無い。

 何でオレ達の実力がCランク以上だと知ったのかだ、オレ達はステータスに関しては人一倍気を使ってたはずだ、それが何故漏れたのか。


「答えになってない」


「………」


「………」


「…………はぁ、ギルドカードだよ」


「ギルドカード?」


「以前座学会を受けた時にギルドカードを提出しただろ? その時に職員が君の討伐履歴を見たんだ、納品された物とギルドを見て、その情報は信頼出来る物として君達に声をかけた」


 あの時か、確かカードを渡したのは………ウォルシュ。


 ナナセは受付嬢の居る方を見ると、同時に一名テーブルに身を隠す者が居た。

 そう、リシェーラ・ウォルシュだ。

 彼女もまさか自分のした事でこんなことになるとは思っても居なかった。


「逆に私も聞きたいんだが、何故それだけの実力があるのに隠す? もっと上のランクに行けば報酬の高い依頼だって受けられるだろう、指名依頼だって取れるはずだ」


 金だけを見ればそうだろうけどさ、こっちにはこっちの考えがあるんだよ、一言相談なりしてくれればまだ良かったが、何も無しにいきなり強制ってのが気に入らない。


「上のランクに上がればそれだけ面倒事が増えるだろ、今回みたいな事やギルド指名だのとさ。それだけじゃない、貴族から無理難題を言われる可能性だってある、断ればメンツを潰されたと敵視されたりするんじゃないのか?」


「絶対に無い………とは言い切れん…」


「それが嫌でランクを上げてないんだよ、オレは仲間の命を預かってる以上、受ける依頼に関しては納得した物だけ受けたいんだ。断った際にメンツだ何だと言われて、敵意を向けられるのが一番納得出来ない」


「確かに、そんな事をする貴族も居る……だがその分報酬には上乗せされて」


 報酬の額の問題じゃないんだよ!


「金なら高ランクの魔物を倒せば手に入る、今回の件は強制された以上は受けるが、次同じ事やったら、コレを持ってランク外にもかかわらず討伐を強制されたと訴える」


 ナナセは持ってたスマホで録音していた音声を流す。

 するとバーナードの顔色が見る見るうちに悪くなる。


 顔色が悪くなるって事は、知られるのはまずいって事だ、何らかの罰則か罪にでもなるって話か。

 正直自業自得なんで同情はないが。


「カズシさん、私達も準備をしないとダメだし行きましょう」


「そうだな……次からは気を付けて下さい。頼みますよ」


 ギルドから出ていくナナセ達を見て、その場に居た職員全員が胸を撫で下ろす。

 ウォルシュはもう二度とナナセに近付かないと心に決め。

 バーナードは自分の迂闊な行いを戒めながら呟く。


「あの歳であれ程の実力、ギルドの利益の為にも敵対する事は絶対に避けなければな」

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