第40話 DIY職人の買い物

 数年引き摺った騒動が幕を閉じた次の日、流石にあんなものを見た後は精神の休養という事で1日休みを取る事にした。

 このタイミングでナナセは、以前頼まれてた風呂作りに足りない物と、カーテンを掛ける鉄柱を発注する為に1人で宿を出た。


 着いて早々とんでもない事に巻き込まれて大変だったけど、今日は完全オフで久々に1人での行動になるな。

 取り敢えず先に鉄柱を作ってもらいに武器屋か鍛治屋に行きたいんだが、やっぱ初めての街は分からないな、まぁ旅行みたいにそれらしい所を散策しながら探すか。


 楽観的に考え宿から繁華街の方に向かって歩いて行くナナセ。

 しかし見つかるのは宿に食堂、ポーションか何かを扱ってる魔法薬店、他にも服屋に雑貨屋ばかりで結局冒険者ギルドの前にまで着いてしまう。

 再度別ルートで探してみる……が、1週回って冒険者ギルドの前に着く。

 3度目の正直で再々度探しに出てみるもやはり見付けられず、冒険者ギルドの前に戻ってくる。


 いや見つかんね、鍛治屋ってどの辺に構えてるんだ。

 酒飲んで騒いでる人はあっちこっちにいるけど、肝心の鍛治屋なんて欠片も見当たらん。

 セファート程じゃないにしても広い街だし、このまま闇雲に探した所で無駄に時間だけ取られて終わりそうだ。

 ふむ………しゃあない、大人しくギルドで聞くか。


 結局4度目の探索はやめて大人しく冒険者ギルドに入り、受付で場所を教えて貰う事に。


「すみません」


「はい、どうされましきゃ!」


「ナナセさん! 何か不明な点でもありましたか? それとも依頼の受諾ですか?」


 この人は確か座学会の時に断ったにもかかわらず部屋まで案内をした………あーっと名前が……ウォルシュさんと言ってたか。

 ぶっちゃけこのグイグイ来る感じの人、苦手だ。


「あぁ、いや、こっちの人に聞くんで大丈夫です。それよりも仕事に戻られた方が」


「はい、ですからこうしてナナセさんの受付をしているんです」


「あの……先輩…」


 キッ!


「ヒッ!」


「あの、最初に対応して貰ったのがこっちの職員さんなんで、ウォルシュさんはそれまでしていた仕事に戻ってもらって大丈夫ですから」


「しかし私の方がギルドやこの街についても詳しいですので」


 面っ倒くせぇ!なんで関係無い所から出て来て、勝手に話を進めようとするんだこの人。

 あんたには聞いてないって言ってるだろうに。


 静かにナナセのフラストレーションが溜まっていく。

 だが相手は気にする様子が無い、しかしその雰囲気を察した者が声を掛けて来る。


「何かあったのか?」


 この人は昨日の偉い人か、確かフロントの主任でバーナードって言ってたな。

 受付嬢の仕事はフロント業務の範疇だろうし。


「こっちの職員さんに話を聞こうとしたら、突然ウォルシュさんが入って来て引っ掻き回すんですよ。正直迷惑で」


「本当の事かウォルシュ?」


「えっあ…いや、後輩よりも…私の方が業務も、街の事も詳しいので……変わった方がいいかなーなんて思って……」


 バーナードは呆れた様に溜息を付き、ウォルシュを見て一言だけ発した。


「お前は元の業務に戻れ」


「で…でも」


「戻れ。命令だ」


「はい…」


 がっくり肩を落として戻ってったな。

 まぁ叱られたのも、それによって評定に影響するのも自業自得なので、甘んじて受けて欲しい。


「ギルド職員がすまなかった」


「バーナードさんが気にする事ではないので」


「いや、完全にオレの指導不足のせいだ。今後はこんな事は起こらない様に対応を考える、君、後は任せるぞ?」


「はい!」


「では、俺はこれで」


 そう言ってバーナードさんは持ってる書類に目を通しながら自分の席と思われる所に向かって行く。


「あの、それでどういった御用でしょうか?」


 やっと本題に入れる。


「この街で鍛治屋を探してるんですけど、どの辺にあるんですか? 商店街の周りにはそれらしい建物が見当たらなくて」


「そうだったんですね。鍛治…というよりも、製造や土木関係の職人仕事の多くは、音や煙・臭い対策の為に、ここからずっと西の城壁付近に集中しているんですよ。」


 成程、考えてみれば熱源になる石炭や木炭なんかを燃やせば、煙も臭いもガンガン出るよな、それらが食堂や宿の近くにあれば確実に営業の妨げになる。

 臭いなんかは強ければ食べ物の味すら変えるって話もあるくらいだし。


「因みに鍛治の腕前としてはランゼンさんって言う、ドワーフの方がやってるお店が一番ですよ。職人気質な見た目で怖い感じですけど、話すと普通に面白い方ですし」


 優しい人だけど見た目で損をするタイプの人って事か。


「わかりました。ありがとうございます」


 しかし西の端っこの方とか宿と対極過ぎて、探しに行ってすらなかったな。

 ことわざにある通り、急がば回れ……いや、これは意味が違うか?

 まぁいいや、とりあえずギルド職員が言ってた通り西の端に向かうか。


 ナナセは言われた通りギルドを出て西へ向かう。

 人気の多い繁華街では、店の壁や階段に凭れかかって酔い潰れている冒険者。

 それを横目に仕事に勤しむ店員や一般人等様々だ。

 見た所ケンカや騒動はどこを見ても起こってはいない様子、その辺に関しては冒険者や店側と何かしら暗黙の了解でもあるのだろう。

 しかしそこを抜けてしまえば徐々に飲食店も少なくなり、周りからは大きな声で指示が声が飛び交う様な職人街の雰囲気へ変わっていく。


 明らかに街の空気が変わったな、さっきまでのは賑やか・騒がしいといった感じだったのが、ここでは聞こえてくる声の中に熱意や誠実さが混じってる様に思える。

 後はドワーフのランゼンさんのお店がどこかだけど…………


「坊主、こんな所でどうした? 迷子か?」


「え?」


 振り返るとそこには誰も居ない。


「こっちじゃこっち」


 視線を下に向けるとそこにはドワーフの方が。


「どうした坊主、ここは気難しい連中が多いし、子供の遊び場にはちと危ないぞ、それとも親と来て逸れたか?」


 子供って…オレの事か?確かに19歳でまだ成人してないけど子供って言う程の歳でも、見た目でもないと思うんだが。

 と言ってもそれはオレの感覚での話か。

 ドワーフのこの人からみれば十分子供に見えるって事もあり得る。


「いえ、迷子でも逸れた訳でもなくて、ランゼンさんという鍛治職人さんに作って欲しい物が有って探しているんですよ」


「なんじゃ、ワシのお客さんだったのか」


 さくっと見付かったわ、確かに見た目は怖そうなイメージだけど、話すと普通に良い人だし、何より子供の心配が出来る人だ。

 現代の日本だと、下手に子供に声かけたら通報案件待ったなしになる可能性があるからな、イケメン以外は。


「あの、武器とかじゃないん」


「まー待て、立ち話も何だし直ぐそこのワシの工房に行こう」


 こちらの返答は待たずにずんずん進んで行くランゼンさん。

 置いて行かれない様にオレもその後を追うと、2~300mくらい先の工房に入っていく、その中は綺麗に整頓され、様々な武器が所狭しと並んでいる。


「そこの椅子に座ってくれ。それで、武器じゃなく何を作って欲しいんじゃ?」


「はい、作って欲しいのが鋳造で太さ3cmで長さ3.5mの鉄柱と、その天辺と下3m部分の前後左右に、何かを引っ掛ける為の鉤を付けた物を4本作って欲しいんです」


「それは簡単に出来るが、一体何に使うんだ?」


「地面に突き刺して鉤の部分に布を引っ掛け、仕切りにしたいんです。ちなみに鉤はコレが入る大きさにして欲しいんです」


 オレは持って来ていたテントの補修道具であるハトメをランゼンさんに渡す。


「ふむ……コイツが入る鉤か、中々変わった物が欲しいんじゃな、その布は厚くて丈夫な物だったり、長かったりするのか?」


「4×3mでそれなりに厚めだとは思います」


「なるほど、であれば鉤の接合部はしっかりしておかないと、外れたり折れたりするな、それに地面に突き刺すのなら下の先端は鋭い方がいいじゃろ、そいつを4本でいいんじゃな?」


 この人すげぇ親身に聞いてくれるし、こっちの言わんとしてる事を汲んで提案してくれるから超話しやすい。


「それとこっちが難しいかもしれないんですが、幅5cm、高さ20cmの円柱の筒で、且つ、その蓋を予備も入れて2個作って欲しいんですけど、出来ますか?」


「筒に関しては大丈夫だが、その蓋だな、蓋が要るって事は液体を通すのに使って、勝手に蓋が取れない仕掛けと水漏れしない造りにしなきゃならんが……まぁこっちも鋳造で作れるだろう」


 本当に話が早い、筒と蓋の単語だけで何に使うかまで即座に予測して合わせてくれる人なんて早々居ないぞ。


「本当ですか! 助かります」


「見積も天辺と下に鉤をそれぞれ4ヶ所付けた太さ3cm、長さ3.5mの鉄柱を4本と、幅5cmの高さ20cmの円柱の筒にそれの蓋を2個、全て鋳造で作ったとして……大銀貨5枚でどうじゃ? 正直値段は高いと思うが、その分頑丈で錆びにくい物に仕上げてみせる」


「その金額で問題ありません。よろしくお願いします」


「商談成立じゃな、一応蓋の仕上げに時間が掛かるかもしれんからそうじゃな、3日後にまた来てくれ、金の支払いもその時でいい、後はこのちっこい部品を貸してくれ、鉤を合わせるのに使いたいんでな」


「わかりました。それじゃ3日後にまた来ます」


 そう言ってオレはランゼンさんの工房を後にした。

 この時の話がスムーズに行き過ぎて他に必要なコテ板、接着素材を混ぜ合わせる容器と撹拌棒、それを掬う桶なんか諸々全部買い忘れて宿に戻り。

 店の閉まった夜にようやくその事に気付いた。

 まぁ取りに行く時にアヤカに付いて来てもらった方が、持ち運びも便利だろうし良しとしよう。

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