第14話 狐耳と尻尾 ティネア③
宿を取ったあと、オレ達はティネアのクエスト報告の為に、街の散策をしながらギルドへと来ていた。
そこで驚いた、街以上にギルドに活気があり賑わっている。
「セファートの冒険者ギルドは、この国のギルドで一番賑わってると言われているんです」
「街の立地や産業を考えたら、賑わう要素は十分備えているわよね」
「色んな町の中継地点だし、体を休める温泉もあるしで、冒険者にも商人にも良い事尽くめだしね」
「じゃあオレ達は適当に依頼書とか見て待ってるから、報告を済ませてくるといいよ」
「わかりました。すぐに戻って来るのでちょっと待っててください」
そう言ってティネアは受付に向かっていく。
「それにしても本当に依頼書が多いですね、採取系のものから護衛に調査、他には……あっ、討伐依頼もありますね、対象はDランクのオークで報酬は1匹銀貨2枚」
「討伐報酬以外に肉もお金になるから、Dでも破格の買取だったよね、まぁ代わり群れで行動するって話だかから、ランク以上の脅威度になるのが面倒だけど」
「旅もまだ続くうえ、武器がいくらするか分からないし、効率良く稼ぐならコイツは良さそうな依頼だな」
2人が他にもいい依頼が無いか依頼書を見てる間に、オレはギルド職員に【砂漠の狼】がどんなパーティーだったのか聞いてみることにした。
「すみません、聞きたい事があるんですが、いいですか?」
「どうされましたか? 依頼書の事で何かご不明な点がございましたか?」
「依頼書ではないんですが、【砂漠の狼】というパーティーはどんな人達なのか教えてもらえませんか?」
「申し訳ございません、冒険者の情報を他の冒険者の方にお話しする事は、ギルド規定に反しますのでお答え出来ません」
まぁそうなるよね、傍から見れば個人情報みたいなものを教えてくれって言ってる様なものだし、でもオレが聞きたいのはそこじゃない。
「いえ冒険者の情報ではなく、そのパーティーがギルドから見て、粗暴とか問題行動を起こすタイプとか、そういう人となりが聞きたかったんですが、そう言うのもダメですかね?」
「そうだったんですね、わかりました。あくまで私の主観で良ければお答え致します」
「お願いします。」
「【砂漠の狼】は3ヶ月程前にこの街に来たのですが、その……よく他の冒険者と衝突しているのを目にしてました」
やっぱりオレ達以外にも迷惑かけてたのか、まぁ自分が良ければその他はどうなってもいいって感じだったし予想通りと言えば予想通りか。
「そんな頻繁に衝突を繰り返してたんですか?」
「それはもう、何か騒ぎが起こると、あの人達が真っ先に浮かぶくらいでしたから、なので、他の冒険者の方からも評判はよろしくは無いかと」
ギルド職員にここまで言わせるとか、どれだけ煙たがられてるんだ。
というか冒険者なんて横のつながりが大切になってくる職なのに、その冒険者周りの評判を落として何がしたいんだ、
「なんだ?【
あいつ等の脳内評価を更に下方修正していると、会話の内容が聞こえたのかその場にいた冒険者から声をかけられた。
「ええ、未遂ですが、仲間の一人をあいつ等が連れ去ろうとしたんですよ、しかも失敗した腹いせに、街に入る時に冤罪までかけてきて、本当に迷惑この上ないです」
「マジかよ、どうしようもねぇな、それで冤罪の方は……って無事疑いが晴れたからここに居るのか」
声をかけてきた冒険者は、懲りない連中だと言わんばかりの表情で飽きれている。
丁度共通の話題で声をかけられたんだ、ギルド目線だけじゃなく、冒険者目線で何か知ってることが無いか聞いてみることに。
「でも至る所に敵を作って何がしたいんですかね、冒険者なんてどこかで横の繋がりや、助け合いが必要になる時だって来るだろうに、あれじゃ誰にも助けて貰えないでしょ」
「あーそれなんだが、連中はとある良い所のお抱えかもって話が冒険者間であってな、俺が直接見たわけじゃないから何ともなんだが」
話を聞くと、【
しかもそいつは代官の関係者なのか、【砂漠の狼】と共に代官邸に出入りしてるのを見た者もいるらしく、一部の冒険者には
「俺達に逆らうとこの街どころか、他の街でも暮らせないように圧力をかけるぞ」
と脅しているらしい。
考えの一つには有ったが、まさか本当に代官の関係者だったとは、それなら衛兵を無意味と言ったことにも納得がいく、そしてそれと同時に問題が増えた。
その一緒に来た奴が代官の何で、代官がどこまで絡んでいるのか、最悪なシナリオは領主まで絡んでいたらってことだ、これだけ大きな街を治めるってことは、上位の爵位を持っている可能性もあるし、代官自体も貴族かもしれない。
オレはギルド職員や冒険者にお礼を言って皆の所に戻った。
「今戻ったよ」
「おかえりなさい、向こうで話している様だったけど何かあったの?」
「ちょっと情報収集をね」
「情報収集ですか? お世話になる身ですから言ってくれれば私がやりますよ、どんな情報を集めますか?」
「あぁいや、ティネアさんは狙われてる側だから流石に」
「そんなぁぁ」
オレがダメ出しをした瞬間、今まで元気だった耳と尻尾が力なく垂れ下がる。
ティネアが狙われてるから、申し出はありがたいんだけど、させられないんだよな。
「それよりもお兄、さっきのオーク討伐受けようと思うんだけどいいかな? ティネアさんの種族って聴覚と嗅覚が優れてて、魔物の接近や位置が分かるんだって!」
「その日の体調とかにも左右されるので、ある程度距離を測る目安と思ってもらえれば」
魔物との距離を測れるとかすごい能力だ、オレ達は戦闘面でのステータスは有るけど、魔物の探査能力とかは他の人と大して変わらないからとても助かる。
「わかった、じゃあ依頼を受けたら買出しをして、オレが聞いたことを共有したいし、一度宿に戻ろう」
「りょーかい! それじゃ依頼を受けることを職員さんに話してくるね」
その後は減った食料の補充と簡単な食事を買ってから宿に戻ると。
「すみません、ちょっと失礼しますね」
足早に外の方に駆けて行ったティネアを見ながら、オレ達はどうしたんだろうと思い向かっていくと厩舎の中にティネアは居た。
宿の女将さんに聞くと、宿泊費用を抑えるため厩舎を使う冒険者は多いとのことだ。
オレは女将さんに隣の一人部屋を借りてそっちに移ることに、女の子同士で同じ部屋の方が落ち着くだろうし、外よりも部屋の中の方が安全面も高いからな。
そして買って来た食事をテーブルに広げたところで、ティネアが部屋にやって来た。
※厩舎1日 大銅貨5枚
「食べながら聞いてほしい、さっきギルド職員と冒険者に聞いた話なんだけど――――」
オレはそこで聞いた話を伝える。
アヤカとティネアの顔には不安が、ユウカは……余り深刻そうじゃない、まさかと思うけど、力でぶっ飛ばせばいいなんて思ってないか心配だ。
「まさか代官の関係者が絡んでいたなんて」
「で……でも私は代官様や、その関係者となんて接点ないですよ? なのにどうして」
「それはオレ達には分からない、今分かってるのは、代官関係者がティネアさんを狙っていて、その為に子飼いの連中を向けてるってことだけ」
部屋の中が静まり返る、やっぱり代官、もしくは代官関係者と事を構えるかもしれないとなると不安にもなるよな。
だけどこの件に関しては正直、実行犯・言動・失敗後の動きどれを取っても杜撰過ぎる。
これだけ発展して賑やかな街を治める代官が、あんな目立ちたがりのお喋り【
もっと計画性を高めて、自分に繋がる情報は出さないよう、人選から注意を払って実行しなければ、ただの無能か破滅願望者だ
領主が噛んでいるなら尚更そうだろう。
となると残るは代官関係者の独断一択だ、どんな立場かは分からないが、あんな連中を囲うってことは、計画性ゼロ・隠匿性もゼロで、過程はどうでもいいって感じの雑な仕事だから、スマホを使えば簡単に証拠を押さえられるだろう。
「2人も何時でも証拠を押さえられるように、アレを準備しておいてくれ」
「わかりました」
「りょうかい」
アヤカは直ぐに自分達のスマホを取り出して充電を確認する、どうやら問題無い様だ。
「やっぱり皆さんだけでも今から街を発った方がいいです、後のことは自分で何とかしますから」
自分の先行きが暗いのに、それでもこちらを助けようとしてくれるか、尚のこと放っておけないな、こんな優しい子が不遇な扱いを受けるのは見過ごせない。
「オレ達の心配ならしなくて大丈夫、そもそも今回の件は代官やその上の領主はまず関わってないから」
「でもさっき」
「可能性の一つさ、この件は代官が絡んでいるにしては色々杜撰過ぎる、もし本当に絡んでるなら、街に来て直ぐの人間に、先の方とはいえ尻尾を掴まれるヘマはしないさ」
「言われてみればそうね、もし私が同じ立場だったら、あんな無意識に情報を話す人を信用したり、使ったりしないもの」
「それにその関係者が貴族当主じゃないなら、表に出てきた時にぶっ飛ばせばいいんじゃない? もちろん証拠とか色々抑えてから」
「え? ……ぶっ飛ば…え?」
今度は違う意味でティネアが混乱している。
そりゃそうだよな、不安になっている所に周りから相手のことを、ぶっ飛ばせばいいだの言われればそうなる。
いっその事、その不安も混乱も一気に吹き飛ばして、安心させるのが一番いいだろう。
「ティネアさん、これを見てもらえる」
【名前】 カズシ ナナセ
【レベル】 18
【生命力】2136 【魔法力】611 【力】1239 【魔力】460 【俊敏性】1137
【体力】919 【魔法抵抗力】689 【物理攻撃力】1239+350 【魔法攻撃力】460
【防御】460+20 【魔法防御】345
「?……………ええぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ!?」
ステータスを見て、その意味を理解するのに少し溜めがあったものの、分かった瞬間大きな声を上げてティネアが動かなくなった。
どうやら完全にキャパオーバーでフリーズしたみたいだ。
「ティネアさん、ティネアさん」
ユウカが何度か肩を揺すってようやくこっちに戻って来た、それと同時にアヤカがそっと水を差しだす。
「まずは水を飲んで一息ついて下さい」
「あ…はい、――――はぁ……あのステータスって本当なんですか? もし本当だとしたらどうしてDランクに、あれならもっと上でもおかしくないのに」
「ああ、それはオレ達が依頼をメインにしてるわけじゃなく、魔物を倒してその買取をメインにしてるから、単純にギルドポイントが無いだけ」
「そっちのが時間とお金の効率がいいし」
「ただ魔物との戦闘が多くなる分、危険は増しますけどね」
「あの、もしかしてアヤカさんとユウカさんも」
その言葉に反応して2人は直ぐにティネアにステータスを見せた。
【名前】 アヤカ ユキシロ
【レベル】 18
【生命力】884 【魔法力】658 【力】724 【魔力】596 【俊敏性】620
【体力】423 【魔法抵抗力】539 【物理攻撃力】724+180 【魔法攻撃力】596
【防御】212+230 【魔法防御】270
【名前】 ユウカ ユキシロ
【レベル】 16
【生命力】586 【魔法力】988 【力】240 【魔力】856 【俊敏性】323
【体力】343 【魔法抵抗力】739 【物理攻撃力】240 【魔法攻撃力】856+100
【防御】172+120 【魔法防御】370+100
今度はフリーズまで行かなかったものの、やはり驚いている。
「見ての通り2人の実力も高い、だから自分が犠牲になればなんて事は思わないでくれ、この件は必ず解決してみせる」
「あ……ありがとう…ございます………ありがとうございます」
安心出来たことで緊張の糸が切れたのか泣いてしまった。
本当は誰よりも不安で心細かったんだろう、それなのに気丈に振る舞って、オレ達に心配させないどころか、こっちの心配までしてくれた。
そんな彼女をここまで追い込んだからには、必ず連中を奈落の底に沈める。
「お兄がティネアさんを泣かせた~」
オレが一人で決意表明をしていたら、ユウカから何やら聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「まったく、こんな可愛い女の子を泣かせるなんて、酷い人ですね」
アヤカもそれに乗っかりここぞとばかりに攻めて来る。
あくまで助けるためにした結果に、彼女が泣いてしまっただけで、第三者がそれだけ聞いたら、勘違いを起こしそうな言い回しをされるどう……ンンンンン、まぁいいか。
「とりあえずもう一度街に出て話を聞いてくるよ、もし行動する時は些細な事でも必ず3人で、この部屋はアヤカ、ユウカ、ティネアさんで使って、オレは一人部屋を借りたから」
「わかりました、何があっても私とユウカが一緒にいます」
「お兄も一人の時に狙われる可能性もあるんだから、気を付けてね」
こうして再度情報を集めるため日が落ちてきた街に出る。
冒険者やギルドだけじゃなく住人、特に昔からここで商売をしている人だったら、領主や代官の話を聞けるかもしれない、ギルドに向かいつつ、それとなく聞いてみることにしよう。
宿代 大銀貨1枚 銀貨1枚(3人部屋+1人部屋)
食事代 銀貨3枚
食料30日分 大銀貨7枚
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