第13話 狐耳と尻尾 ティネア②

 せファートに向かう道すがら、襲ってきた奴等との会話で見えてきた事をティネアさんに伝えた。

 ①ギルドを通していない、もしくは、通せない依頼であること。

 ②Cランク冒険者を雇える出来る程度に依頼者は裕福な者であること。

 ③衛兵が無意味と発言していた以上、奴等が衛兵に対してコネがあったり、圧力を掛けられるバックが居る可能性があること。

 ④恐らく同じ様な事がまた起こる可能性があること。


 あくまで現状で分かってる情報からオレが推察したことで絶対という保証はない、依頼者がここで諦めてくれる可能性もある。

 だが聞き終わったティネアさんの顔には不安の表情が浮かんでいる。


「そんな……こんな事がまだ続くなんて」


「拠点を変えたりとかは出来ないんですか?」


「少し前に装備を整えたばかりなので、直ぐに拠点移動はちょっとキツイですね」


 見習い期間であるGランク・Fランクが終わって、装備等を整えるEランクが冒険者として最初に金が掛かる時期だってレスターさんが言ってたな。

 オレ達もあの金が無ければ……いや、素手なり魔法なりで何とでもしていただろうな、よし。


「なら、ティネアさんがよければだけど、この件が解決するまでオレ達と一緒に行動しないか? もちろん依頼や魔物の報酬は4等分で」


「それが良いと思います、ここで知り合ったのも何かの縁、1人で行動するよりずっと安全ですし」


「こう見えても多少の荒事は超えて来てるから、実力に関しては安心してよ」


 オレ達の言葉に考え込むティネア。

 助けてもらったとは言え、今日知り合ったばかりの人間から誘われてもすぐ答えられないよな、ましてやソロ冒険者として活動していた女の子だ、慎重にもなって当然の話だろう。


「一つ聞いてもいいですか?」


「答えられるものであれば」


「どうしてこんなに気に掛けてくれるんですか? 普通なら面倒事には巻き込まれたくなくて、見ない振りをしてもおかしくないのに」


 どうやら彼女は自分の言った言葉に気付いて無いみたいだ、無意識で言ったという事は彼女は善人側の人間なんだろう。


「あぁそれは、キミが良い人だから」


「良い人……ですか?」


 少し驚いた表情で彼女が言う。


「そうですね、自分に注意を引き付けて私達を逃がそうとしてくれましたし」


「あれは自分の事で他に迷惑を掛ける訳にもいかないですし…って、それだけの事でですか?!」


 それだけの事がこの世界では凄く難しいことだと思う、オレの主観になるが、冒険者なんて自分より下のランクには、自分が絶対って言う奴も多い。

 当然そうじゃない冒険者だっているのはわかる。


「もちろんそれだけじゃない、あの手の輩は邪魔をしたオレ達にも何かしてくるだろうし、それなら共に行動した方が互いにカバーし合えるし、どうです?」


 まぁ他にも剣を簡単に人に向けるのが気に食わないとか理由はあるけど、それは彼女とは関係が無いし言う必要は無いな。


「私としてはとても助かりますけど、皆さんは大丈夫なんですか? 食料の補給をしてここを通り過ぎることだって出来るんじゃ?」


「大丈夫大丈夫、私も姉さんも温泉に入りたいって言ってここに来たんだもん」


「ええ、ここの温泉も目的の一つなので、入らずに通り過ぎるなんて考えられません」


「という訳でオレ達は大丈夫、後はティネアさんがどう判断するかだけだね」


「皆さん……あの! よろしくお願いします!!」


「ああ、此方こそよろしく」


「よろしくね!」


「よろしくおねがいしますね」


 当面ティネアと行動することにしたオレ達は彼女から街の宿や美味しい物なんかの情報を聞いてる内にセファートの外壁と門が見えてきた。

 各街を繋ぐ中継地点と交易、そしてバカンスや旅での疲れを癒す温泉、この2大産業による相乗効果で大きく発展しているだけあって、リラインよりも外壁が立派で高さも倍の10メートルくらいあるだろうか。


 その門から少し離れた所には詰め所が設置され、検問で衛兵が街に入る人達の荷物や目的をチェックしている。

 利用者が多いからか、衛兵の数も見えてるだけで10数人と、これもリラインより多く配置され、チェックが終わった人から随時書類にサインし門を通っていく。

 取り敢えず街に入る為には検問の列に並ばないとだが、冒険者に限らず商人・富裕層と思われる馬車と人が多い。


「これは街に入るまで時間がかかりそうだ、早めに宿を見つけて散策したかったんだけどな」


「確かに長蛇の列ですけど、セファートの衛兵は慣れていますから、手早く確認してくれるので意外と早く進みますよ、それに宿なら私が利用してる所に空きがあったはずです」


「なら私達もそこにしようよ、寝食も一緒ならあいつ等も簡単には手出し出来ないでしょ」


 確かにそうではあるんだけど、連中の依頼主を調べる意味でも少しは来て欲しいんだよな。

 話した感じ色々と自分達の情報を口走ってたから、上手く誘導してボロを出してくれればスマホの録音で言質を取り、一気に追い込むことも出来るだろう。

 ただそれだと、アヤカとユウカはステータスの高さを知ってるから大丈夫だが、ティネアはそれを知らない、場合によってはティネアが自分を犠牲にしかねない。

 やはりここはティネアの安全を第一で進めた方が…いや、長引かせずに一気に解決するべきか、考えがまとまらないな。


「――――ん、ナナセさん!」


「なに?! どうかした?」


「私達の順番が来たんですよ」


「他にも待ってる人が居るんだ、街に入らんのならすまんが列から出てもらえるか?」


「すみません! 入ります!」


 考えに集中し過ぎて周りを全く見てなかった!おかげで後ろからの視線がとても痛い。

 後ろの皆さんすみません、わざとじゃないんです、考え事をしてただけなんです勘弁して下さい。


「じゃあこの上に荷物を置いて見せて…ん?」


「えっ?」


「いや、何でもない」


 なんだ?今一瞬何かに反応したような。

 気にはなるが今は荷物検査を終わらせよう。

 オレは確認しやすい様に荷物袋を広げてギルドカードを掲示した。


「荷物はこれだけか? 食料やポーションも持ってないようだし、冒険者にしては荷物が少な過ぎじゃないか?」


「まだまだ駆け出しで余裕が無いんですよ、当面の生活費も考えると、食料もここに着くだけのギリギリしか用意出来ないし、ポーションなんて高価な物とても買えませんよ」


 と言うのは嘘だ、元々荷物の殆どはアヤカのストレージ・スペースに入れてるし、今持ってる物は旅の疲労を抑えるため、最小限の荷物しか持っていない。

 更に信憑性を高めるには、嘘を付く時は本当の事と嘘を混ぜたうえで、それらしい文章にして、相手が受け入れやすい状況を作るのがいい、ってじいちゃんが言ってたな……ばあちゃんとケンカした時にでも使ったんだろうか。


「必要最低限の荷物以外不審な物は無いし、後は書類にサインして通ってくれ」


「わかりました」


 荷物検査を終えて、言われた通りサインをして街に入ろうとしたオレ達に、別の若い衛兵が近づいてくる。


「すまない。君達に少し聞きたい事があるから、詰所まで来て欲しい」


「「「「??」」」」


 衛兵からの言葉を聞いたあと、オレ達は全員顔を見合わせ各々「何かあった?」、「どう言うこと?」、と表情をしたあと全員が「分からない」と言った様に首を傾げる。

 そもそも聞きたいことも何も、オレ達は今日初めてここに来たのに何を聞くんだ?

 取り敢えず他の人の視線も気になるし、大人しく詰め所に付いて行くと、中には中年の衛兵とさっき会った【砂漠の狼】がニヤニヤと笑いながら此方を見ていた。


「あなた達!!」


 ティネアが声を荒げる。

 そりゃそうだ、手を出さないって約束を一瞬で破ったんだから。

 というかさっきの衛兵の反応はこいつ等の差し金か、自分の都合のいい様に事実を改竄して伝えた結果、オレ達は呼び出されたと。


「急に呼び立ててすまないね。私は西門の隊長モリアスだ、君ら3人はここに居る【砂漠の狼】の依頼を妨害して、仲間を負傷させたと聞いているんだが、それは本当かね?」


 やっぱりか、息を吸うように嘘を付き約束を破る連中だな、取り敢えずどんな事を話していたか把握するためこのまま話を続けるか。


「そこの約束破りのパーティーに何を言われたか分かりませんが、ほぼ間違いしか無いですね」


 短剣「お前のせいで仲間が骨を折る重傷を負ったんだぞ!」


「今私が彼等から話を聞いているんだ、静かにしてくれ」


 短剣「ッチ」


 見た所モリアスさんは、公平な立場で俺達の話を聞いてくれるようだ。


「では君達と【砂漠の狼】との間に、何があったのか説明してもらっていいかな?」


「そもそもその人達が、私を攫おうとしたのが始まりなんです」


 剣2「呼んでる人が居るから付いて来てくれって言っただけだろ!」


「静かにしろ! 攫うとは穏やかじゃないな、一体何があったんだ?」


「連日私の前に現れて、呼んでる人が居るから来いと言ってたんです、それも呼び出し人の名前も告げずにですよ? 警戒しない方がおかしいじゃないですか」


「確かに、呼んでいるのなら最低でもその人物の名前くらい伝えなければ信用されないだろう」


「しかも今日に至っては、声を荒げて連れ去ろうとまでして来て、ナナセさん達が来なければどうなってたか」


「そこからはオレが話すよ。拒絶してるにもかかわらず、無理矢理連れて行けば問題になると告げた途端、こいつ等は剣を抜いて来たんですよ」


「本当か?【砂漠の狼】からは、そんな話は一度も出ていなかったが」


 剣を抜いたという言葉にモリアスさんは強く反応して【砂漠の狼】を見る。


 剣1「俺達はそんなことしちゃいねぇよ」


 短剣「そうだ、やってねーことを言う訳が無いだろ」


 ここだな、今こいつ等は自分達は虚偽の発言をしてないと、衛兵であるモリアスさんの前で断言した。

 スマホを使って一気に黙らせるには良いタイミングだ。


「ならどうしてお前達を見た瞬間、彼女は強く反応した? 何もないならそんな反応しないだろう、それにあの時のお前達の発言は、マジックアイテムで録音してるからな」


 剣2「ろくおん?」


「私も無知を晒すようですまないが、その【ろくおん】と言うのは一体……」


 この世界にはスマホやICレコーダーの類が無いから録音なんて言われても何の事か分からないよな。

 逆に、オレ達はこの世界の言葉の意味が分からない物が多いから、ある意味同じか、読む、書く、話すが出来ても、その言葉の意味が理解出来てないのは、これからの課題だな。


「簡単に言えば、そのマジックアイテムの周囲で出た音、つまり言葉と言う音を、そのままマジックアイテムに記録出来るという事です」


 アヤカがこの世界の住人にも分かりやすい様に、噛み砕いて説明してくれたことで、連中の顔が明らかに曇った。

 さっきまで都合の良い様に言ってた事が、全て自分達の首を絞めていたって事に気付いたんだろうな、言っちゃ悪いがざまぁだ。


「そんなアイテムが実在、というより持ってるのか!?」


「ええ、今その録音を聞かせますから、その上で、どちらが本当の事を話しているか判断してください」


 そう言ってオレは見える様にスマホを持ち再生しようとすると。


 短剣「そいつを渡せやッ!」


 短剣持ちが証拠隠滅をしようと飛び掛かってくるが、当然渡す筈も無く、左の裏拳を頬に叩き込みながら再生する。


 ―――――――――

「依頼? 今依頼って言ったか? ギルドがこんな誘拐見たいな依頼を容認すると?」


 剣1「ッハ! 俺達みたいな高ランクの冒険者になると、直接依頼が来るのさ」


「いや誘拐もいい所だからギルドを通せず、お前達みたいな体のいいゴロツキを直接雇ったの、間違いじゃないのか?」


 短剣「誰がゴロツキだゴルァ! 俺達はCランクパーティー【砂漠の狼】だ! そいつは俺達の依頼主が呼んでんだよ!」


「誰かも分からず付いて行く訳ないじゃない! ギルドを通してるなら依頼者を言えるハズでしょ! というかこんな人攫いみたいな依頼と方法はギルドが許してないわよ!」


「【砂漠の狼】ね、当の彼女が拒絶の意志を示してる以上その依頼は失敗だろ、無理矢理に連れて行けばそれこそ誘拐で衛兵案件だ」


 剣2「ギャハハハハ!おい聞いたか! 衛兵だとよ!!」


 弓「衛兵が何出来るんだって話だ!」


 短剣「そーそー! 俺達からしてみりゃ衛兵なんて意味ねーんだよ!」


 剣1「もう面倒くせぇや、お前らこいつら痛めつけてとっとと連れてくぞ!!」


「「「おお!」」」

 ―――――――――


 録音を聞き終わったあと、モリアスさんは険しい目を、虚偽を述べた連中に向けている。


「確かにこの声は【砂漠の狼】のもので間違いない、内容も、未遂とはいえ誘拐に刃傷沙汰の事実まで、しっかり記録されている」


 剣1「お…オレ達はやってねぇ、そいつらのでっち上げだ!!」


 剣2「そうだ! でっち上げだ!」


 本当に往生際が悪過ぎる、ここまで証拠がある状態で否定するには、それに足る【何か】が無いと、どうにもならんだろうに。

 まぁ本人達の肉声100%だからその【何か】なんてものは有る訳ないが。


「でっち上げなのはお前達だろう! 虚偽で衛兵を騙し、無実の者に罪を着せようとした事は許される事じゃない!」


 そう言うとモリアスさんは詰め所の窓から声を掛けると数人の衛兵が中に入って来た。


「お呼びですか隊長!」


「【砂漠の狼(この三人)】と他の仲間も牢に入れておけ、後で厳しく取り調べをする」


「ハッ! 了解しました!」


 短剣「何すんだ! オレ達は悪くねぇやめろ!!」


 衛兵達は荒事には慣れてるのかかなり手際がいい、暴れる【砂漠の狼】にさっと手枷を付けて引っ張っていく。


「あいつ等の言葉を鵜呑みにしていた訳ではないが、訴えられた以上、聞き取りをしない訳にもいかなくてね、君達には不快な思いをさせて申し訳ない」


 モリアスさんは立ち上がりオレ達に頭を下げる。


「いえ、気にしないで下さい」


「オジサンは自分の仕事をしただけで、悪いのは騙そうとしたあいつ等なんだから」


「そうですよ。それに一方を贔屓することもなく、公平な立場で見てくれていたのは分かってますから」


「そう言ってもらえると助かる。元々怪しい所はあったんだが、虚偽の証拠が無くて詰め切れなくてね、そこにあのマジックアイテムだ、一気に解決出来たよ、音を記録出来るなんて本当に凄いアイテムだ」


「何かあった時の為に記録していたんですよ」


 実はマジックアイテムじゃなく、地球という異世界で普及してる電子機器とは言えない、絶対に面倒なことになる。

 ただ凄いアイテムって言われるなら、売れば結構な金になるのでは?

 額にもよるけど、場合によっては自分のスマホを売ることも視野に入れるか。

 バッテリー残量=魔力って事にすれば、充電が切れても魔力切れってことで、怪しまれないだろう。


「ねぇカズシさん、そろそろ」


「わかった、それじゃオレ達はこれで失礼させてもらいます」


「長々と引き留めてしまってすまなかった」


 オレ達は会釈をして詰め所を後にしてようやっとセファートの街に足を踏み入れることが出来た。

 まずは宿を取ってからティネアが終わらせたクエストの報告のあとに作戦会議をするか、分かっていること、まだ分からないことを整理しないと手の付け様がないしな。

 こうしてティネアの案内の元、オレ達は宿へと向かった。

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