第10話 ランクアップとパーティー結成
オレ達は訓練所から解体所に場所を移してレスターさんが来るのを待ってる………待ってるんだけど、そのレスターさんが来ない。
到着してから結構時間が経ってるのに一体何かあったのか、そしてその事によりユウカさんの空腹という名のフラストレーションがどんどん溜まっていく。
アヤカさんが少しでもそれを抑える為に今はスープの出汁用兼具材用に買っておいた干し肉を「ゔゔゔぅぅぅぅぅ」と唸りながら齧ってて怖い。
レスターさん!早く来てくれ…頼む!!
オレがそんな願いを考えていると解体所の扉が開いてレスターさんが入って来た。
「すまない、先に行っててくれと言ったのに大分遅くなっちまった」
「あぁいえ、その…こんなに遅くなるって何かあったんですか?」
「まぁな、さっきの一件がギルドマスターの耳に入ってな、オレを含め、見てた連中からも詳細を聞かれてたのさ」
ギルドマスター?! 流石にギルドマスターの事は想定してなかった!もしかして問題行動を起こしたって事で何かペナルティでも科せられるのか?!
いや下手をすればギルドから除名なんかも在り得るかもしれない、不味った!!
「あの、ギルドマスターは他の方達にどんな事を聞かれていたんですか?」
「その話をする前に3人共ギルドカードを出してくれ」
「ッ!!」
まさかホントに一発除名処分?! もしそうならせめて彼女達2人はオレが巻き込んだだけなんだから何とか処罰を軽くして貰うよう掛け合わないと!
勝手にしかも無理矢理突き合わせて処罰とか申し訳なさ過ぎて顔向け出来ない!
「どしたナナセ? 早くカード出せ」
「待ってくれレスターさん! 今回の件はオレが2人に相談も無く進めた事で、彼女達は完全に巻き込まれただけなんだ! だから責任を取るべきはオレで、ペナルティや除名処分をするならオレだけにしてくれ!」
そう言うとレスターさんは眉間にシワを寄せながら。
「ペナルティ? 除名? 何言ってんだおめぇ」
「え? だって除名処分だからカードを出せって……」
「言ってねぇよ」
「え?」
「言ってねぇって、俺が言ったのは新しいカードに交換するから、カード出せってだけだ」
「新しいカード?」
ここまで言った所でアヤカさんユウカさんが笑い出した。
「あっはははは! ナナセさん途中からなんか考え込んでるなって思ったら、そんなこと考えてたんだ! 早とちり過ぎておもしろー!!」
「ユ…ユウカ笑い過ぎよッ! ナナセさんだって自分で巻き込んだ手前、真剣に考えてたんだから! ぷっふふ」
「何を勘違いしてたかは分かった、殺したとかなら話は別だが、ただでさえ
「そ…そうだったのか……」
カードを渡しながらようやく自分が話を聞かずに一人でテンパってただけだと気付いて安堵する。
前に試験の話も出てたし、新しいカードに交換ってことは、今回の騒動を試験に見立てDランクに昇格って事かな。
「そしてコレが新しいカードだ」
「あの、Dランクに昇格してもらって言うのもあれなんですけど、この事でレスターさんに迷惑とか掛からないですか? 大丈夫ですか?」
確かに、Gランクだった新人を一気にDランクに上げた事で、レスターさんに他のギルドや冒険者から、圧力やら不利益な噂とか流されないだろうか。
「その辺は問題ない。俺や他の冒険者からの証言で、Dランクパーティーを圧倒したお前さん達を、Gランクにしとく方が勿体ねぇって話になったのさ。元々CランクやBランクの魔物を卸してるってのもあったしな」
高ランクの魔物討伐+今回の結果を踏まえての昇格ということか。
「レスターさんがそう言ってくれるなら有難く貰いましょう、これで断ったら今度は私達がレスターさんの迷惑になっちゃう」
アヤカさんの言う通りだ、オレ達が今欲しいのは、相手に力の差が伝わりやすいギルドランクだったわけだし、Aランク以上の魔物を卸すならもっと上が必要になるけど、今はこれで十分だ。
「まぁ、このランクがお前達の強さに対して、正当な評価かって言われたら違うがな、そうだ忘れる前に伝えんとな」
「伝えるって、他にも何かあるんですか?」
「あぁ、ギルドカードのランク部分に印が付いてるだろう?」
ランクの部分に印?本当だランクの右上に【´】の印が付いてる。
「そいつはまだ盗賊討伐を終えていない場合に付けられる印なんだ、んでだ、それが付いてると一部の依頼、具体的に言うと【護衛依頼】や一部の【救出依頼】が受けられねぇ、理由は分かるか?」
盗賊討伐が完了してないと、護衛や一部の救出依頼が受けられないってのは、アレしかないよな。
「外での人に対する戦闘経験が無いからですか?」
「いや違う」
オレが言う前にユウカさんが答えていたが、その答えは間違えたというより知ってて敢えて答えをずらしたように感じた、魔物を倒す事は出来てもその対象が人に変わると忌避感が出てくるんだろう、こっちに呼び出された人なら当然だ。
「殺せるか殺せないかですよね、人を」
「やっぱりそちらですか……」
「正解だ、護衛や救出の場合は魔物だけじゃなく人との戦闘になる事も多い、そこで躊躇すれば仲間が殺されたり、最悪、対象が命を落とすなんて事になれば、ギルドの信用問題になる、だから見分けが付くようにその印があるんだ」
正直オレも人を殺すのはごめんだ、忌避感とかじゃなく、いくら敵や悪漢だろう奪った命に対する責任が持てない………いや…違う、【持てない】じゃない、【持ちたくない】んだ。
命を奪った相手の親類縁者からの恨みで命を狙われたくない、これがオレの拒否する原因だ。
「だが討伐に関しては無理にする必要も無い、中には印があるままランクを上げるヤツだっている、その辺は自分達の好きにするといいさ、伝える事ってのはそれだけだ」
さすがに人を相手にするからかこの世界でも盗賊討伐は強制される訳じゃなく、冒険者の自由にさせてもらえるのか。
オレは2人の意志を確認する意味も含めて聞いてみる。
「自由意思に任せるって事なら、オレは討伐に関しては無視して問題ないと思ってるけど、2人はどう?」
「人を相手に命の奪い合いは出来ないので賛成です」
「姉さんと同じで懲らしめるならまだしも、命どうこうは無理です」
3人の意見が【人はNO】で一致した。
今必要なのは討伐云々よりも、元の世界に戻るため様々な場所での情報収集、それを円滑に行えるだけの信用、問題が起きても切り抜けられる強さの三点だ。
それならいっそパーティーを組んでしまった方がいいんじゃないか?
アヤカさんも前にパーティー結成の話をしていたし、何より同じ世界から来た人間で同じ目的を持つ者どうしだ………よし。
「レスターさん」
「おう、いつでも魔物を出してもらっていいぜ」
「いえ、オレ達三人でパーティーを組むにはどこに申請を出したらいいのかと思って」
「……パーティーってまさか、お前らまだパーティー登録出して無かったのか?! あれだけ一緒に行動してっから、てっきり組んでるもんかと思ってたぞ、ちょっと待ってろ」
もっと早くに言っていれば2度手間を掛けずに済んだのに、レスターさんすいません。
「パーティーを組むってことは、前にお願いしていたパーティー名が決まったんですね」
「どんなパーティー名にするんです?」
「パーティー名は、とある意思を込めて【アナイアレイター】って名付けようと思う」
その単語を聞いた瞬間アヤカさんが驚いた顔を、ユウカさんはいまいちピンと来てないようだ。
まぁアヤカさんが驚いた理由は分からないでもない。
「あ…あのぉ、それって英語ですよね?」
「そうだね、英語だ」
「間違いじゃなければ、その単語って相当物騒な意味だったんじゃないかと……」
「絶滅・殲滅・根絶・駆逐といった、相手を滅ぼす意味合いが多いね」
「……パーティー名が物騒過ぎませんか?」
「アナイアレイターそのままなら物騒だけど、さっき言ったでしょ?とある意志を込めてって」
「教えてもらってもいいですか?」
「もちろん、オレがこの単語に込めたのは《何者にも屈しない》ということ、それが素で強い意味を持つこの単語にオレが込めた意志だ、でもだからと言って、全て力で解決って訳じゃない、話し合いで解決出来るならそれに越したことはないからさ」
「《相手を滅ぼす》という意味を持つ言葉に、《屈しない》という意志を込めた訳ですね、じゃあこっちの言葉として意味を聞かれたらどうします? あと名前にちょっと厨ニが入ってませんか?」
「こっちの言葉としては【討ち滅ぼす者】って意味にして、厨ニは……ハイッテナイヨ?」
とは言うものの、自分でもがっつり入ってるなと思ってるから、目を逸らしての発言になってしまった、十中八九気付かれてると思うがそれ以上は追及されなかった。
仕方ないのよ、最初にスキルだステータスだって聞いた時にゲーム・冒険とワクワクしたゲーム脳男子だから入りもしますわ。
なんて考えてる内にレスターさんが戻って来た。
「持って来てやったぞ、そら、ここにリーダーとメンバーの名前、そしてパーティー名を書いてくれ」
出された申請用紙にそれぞれ記入していくと、レスターさんが話しだす。
「難しい話じゃないから書きながら聞いてくれ、パーティーを組むと個人のランク以外にパーティーランクがある、これはメンバーの平均ランクがパーティーランクになるだけだ、お前達は3人全員DランクだからそのままDランクになる」
なるほど、仮に4人パーティーでランクがD・D・D・EとなればEランクパーティーって事か、四捨五入や切り上げの概念が無ければそうなるな。
レスターさんが説明をしている間にサクッと記入を終わらせる。
「書き終わったみたいだな、リーダーはナナセでパーティー名が……あないあれいたー? 聞いた事の無い言葉だが、これはどんな意味なんだ?」
そう言われるよね、この世界の言葉じゃなく地球の英語って言葉だし。
「アナイアレイターはオレ達のいた田舎の言葉で、【討ち滅ぼす者】って言葉なんですよ」
「そんな意味を持った言葉か、【
不敬罪か、地球でも幾つかの国でまだ存在していたな、適用される範囲は各国それぞれで違ったしこの世界ではどこまで適用されるのかは知っておいた方が良いな。
「その不敬罪って適用される範囲はどれくらいなんですか? 貴族の家族全体ですか?」
「いや、貴族は当主のみに適用されるが、家族にそんな態度を取ったヤツを当主が見逃すと思うか?」
「思わないですね、絶対に恨まれる」
「貴族全部がそうって訳じゃないがな、あと王家王族に関しては色々複雑になるから王様の親類縁者にそんな態度は取るなってことだ、流石に取らんと思うが」
血縁者まで含めるともう把握しきれないな、特にオレ達はその辺の情報はゼロだ、貴族王族にはある程度素直に従っておくべきか、でもそのある程度を超えた場合は、最悪その国を急いで出ることも視野に入れておこう。
このあとは森で狩った魔物を買取りに出して、ギルドでそのまま遅めの昼を取ることにした、2人に迷惑を掛けた分オレが全て出させてもらう。
ちなみに魔物を出した時にレスターさんが「Dランクじゃ足りなかったな」と呟いていた。
「これでDランクに昇格出来ましたし、今後はどうしますか?」
「そうだね、オレの考えなんだけど」
「ナナセさん姉さん、その前に一ついいですか?」
「「?」」
「せっかくパーティーを組んだんだから敬語はやめないです? 仲間内で敬語使い合ったりって何か壁を感じるし」
んー確かにそれもそうだな、何時までも硬い話し方だとどっちも疲れるし、場合によっては言いたい事も言えない環境にもなりかねない、それなら普通に友達感覚で話してもいいのかな、……女の子っていきなり呼び捨てで接して大丈夫なのか?
女友達が居たこと無いから感覚がまったくわからん。
「なら今後私はカズシさんと呼ばせてもらいますから、逆にカズシさんは私達をアヤカ、ユウカって呼び捨てで呼んでください」
「んじゃ私はお兄って呼ぶ」
「わかった、オレも今後は友達感覚で話すよ」
考えてる間にアヤカさんが、いや、アヤカが助け船を出してくれた、本当に気配りの出来る娘だ。
食事を注文しながらオレ達は今後どう動くかを話し合っていく。
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