第11話 特殊な武器を探して

「今後の動きに付いてオレの考えが、ランク上げを続けながら、オレとアヤカの武器を調達出来る所を探そうと思う」


「武器って、ディルフィニールの王都で買ったばっかじゃないです? そんなにポンポン買うもんですか?」


「私もそう思います。現状魔物の買取でお金に余裕がありますけど、余り使い過ぎるのも何かあった時に不安が残ります」


 2人の言ってる事もわかる、武器にガタが来てる訳でも無いのに次の武器とか何でだって話だ、だがこれにはもちろん理由がある。


「普通の武器なら2人の言う通り焦る必要は無い、でもオレとアヤカの武器は特殊だろ? 壊れてから探したんじゃ遅過ぎるんだ」


 オレの話を聞いてアヤカはそっと自分の武器に目をやる。


「特殊な武器である以上、それを作れる人も限られる可能性が高い、だから壊れた時に備えて、作れる人を探しておいたほうがいいと思う」


「確かにドワーフのおじさんも、珍しいと言ってましたね」


「でもそれなら探し回んなくても、オジさんの所で買えばいいだけじゃないですか?」


 ユウカの言う事にも一理ある、既に買った所で再購入すればいいだけの話だ。

 だがオレ達は色々な国に向かう以上そこを拠点として行動するのは難しい、それに自分の身を守る為の武器を1ヶ所でしか調達出来ないも危険過ぎる。


「色々な国を巡ってる途中に、一瞬で遠くからそこに移動出来るなら、それでも問題無いよ、でもオレ達はそんな魔法も道具も持ってないし、何より、あの王様が信用出来ない」


「フェングリフから侵略を受けていると言ってたのに、ギルドではそんな話は報告されてないって事でしたよね」


「そう、あの話の真偽がどちらであれ、出来るだけあの国には近付きたくないっていうのが本音だ」


「あ~ほうはああいっへはひはへ、ほふほうえあへあはひほあへはふあいひ、うふぉあはひんひょうへひあいっへほほあおんへぇ」※

 ※訳:あ~王様が言ってましたね、本当であれば巻き込まれたくないし、嘘なら信用出来ないって事だもんねぇ


 相談の途中で届いた食事ステーキを頬張りながら思い出した様にユウカが言ってくる、何となくは分かるが食べてから喋った方が良いぞ、オレは気にしないがアヤカが超睨んでるから。


「なら今後はランクを上げつつ、私達の武器を作れる職人を探していく方向ですか?」


「あぁ、武器用にお金も集めないとならないから、買取金を受け取ったら街を移動して、高ランクの魔物を狩りつつ探して行こう」


「イチャモン付けてくる人が居たら?」


「謂れの無い事に従う気はないよ」


 具体的な行動方針を決めた後、昼食……というより夕食になるが注文した品が運ばれてきたのでゆっくりと食事をして今日はもう宿で休むことに。

 明日買取金を受け取る際にレスターさんに武器職人の心当たりがないか聞いてみよう。

 食事代(3人) 銀貨5枚

 宿代 銀貨5枚


 翌日買取の清算をするためギルドに入ると、中に居る冒険者達から視線を向けられる、それと同時に小さな話声も耳に届く。

(あいつがそうなのか?)

(あぁ、男はゴライアスを数メートル蹴り飛ばしたらしい)

(数メートルってアイツ確か結構な重装備だったろ)

(しかも現場を見た連中が言ってたが、蹴り飛ばしたのは盾だけらしい)

(盾を蹴っただけで数メートル吹き飛ばしたのかよ!?)

(だからそれを見ていた連中は口を揃えて、あいつ等には関わらない方が良いって言ってんだ)


 別の冒険者からは。

(女の子2人はカワイイじゃん、誘ったらオレ達と組んでくれるんじゃねーか?)

(男が強いって言っても所詮サシの勝負だったんだろ? 集団で襲えばボコれるって)

(お前ら話聞いてなかったのかよ! 生で見ていた上の冒険者が揃ってヤバイって言ってんだぞ!)

(いや過大評価だろ)

(お前と同じ勘違いをして、顔面がひどい事になったヤツも居んだぞ? お前そんな攻撃受けれるのか?)

(………)

(それに彼女達も一瞬で相手を戦闘不能に出来るほど強いんだぞ? 俺達の方が弱いのに彼女達が組むメリットが無いだろ)

(ッチ)


 昨日あれだけの事があってもまだ良からぬ事を考える奴等もいるのか、冒険者の民度はほぼその人の良識が大半を占めるな。

 オレはそんな事を考えながら受付の人に挨拶をする。


「おはようございます。レスターさんは居ますか?」


「あっ、ナナセさんおはようございます!解体長でしたら解体所の方にいらっしゃいますよ、お呼びしますか?」


 向こうに居たのか、それなら話したい事もあるし丁度いいな。


「いや、自分達で向かいますから大丈夫です」


 受付の人のお礼を言って解体所の方へ向かう、冒険者達がボソボソとまだ何か呟いていたが聞こえない振りをする。

 聞いたところでオレ達に得する事なんて何もないからだ。

 解体所の扉を開くとすぐにレスターさんが目に入って来たので、各々軽く挨拶をした。


「おぉ来たな、全部解体が終わってるぞ、あと何匹か魔石持ちが居たからな、持って帰るだろ?」


 魔石か、武器や防具の素材に出来るかもしれないし取っておこう、金に困った時の換金用に使えそうだしな。


「そうですね、持ち帰ります」


「おう、そしたら解体費用と清算の内訳がこうなってる、確認して問題がなければサインをしてくれ」


 ・Cランク

 ・ワーウルフ1匹 銀貨2枚×6 ・ダイアウルフ1匹 銀貨2枚 大銅貨5枚×5

 ・バイコーン1匹 銀貨4枚 大銅貨5枚×2 ・コカトリス1匹 銀貨5枚×2

 ・ホーンボア1匹 銀貨4枚 大銅貨6枚×4 ・ロックボア1匹 銀貨3枚大銅貨5枚×3

 ・マーダーウルフ1匹 銀貨1枚×4 ・ジャイアントスネーク1匹 銀貨5枚×3

 ・シャープホーンディアー1匹 銀貨4 大銅貨8枚×2


 Bランク

 ・オーガ1匹 大銀貨2枚×2 ・アックスベア1匹 大銀貨5枚×1

 ・オウルベア1匹 大銀貨3枚 銀貨6枚×2 ・ワーベア1匹 大銀貨3枚×2

 ・シルバーウルフ1匹 大銀貨8枚×3 ・アックスビーク1匹 大銀貨2枚×3

 ・グレートボア1匹 大銀貨2枚 銀貨4枚×2

 ・ロックリザード1匹 大銀貨4枚×2


 Aランク

 ・レッドファング1匹 金貨2枚

 魔石

 アックスベア1個 シルバーウルフ1個 レッドファング1個


 合計 金貨9枚 大銀貨5枚 銀貨1枚

 解体費用 大銀貨2枚 銀貨1枚


 解体費用を差し引いてもかなりの金額になったな、特にシルバーウルフが他のBランクの魔物に比べて高値が付いてる、他にはアックスベアやロックリザードが頭一つ分高値になってるのは嬉しい誤算だ。


「見たら分かると思うが、買取の中でもシルバーウルフは毛皮が金持ちや貴族の間で超が付くほど人気でな、今回持ってきたヤツは毛皮に傷が殆ど見られねぇ上物だったんで高値が付いたんだ」


「貴族の御用達品だから他に比べて数倍の値が付いてるんですね」


「あぁこの銀色に輝く毛並みが金持ちや貴族を掴んで離さねぇんだそうだ、嬢ちゃん達はどうだ?」


「私はそういうのに興味が無いので」


「何か動き難そうなんで私も欲しいと思わないです」


 悩む間も無くバッサリと切り捨てる2人を見て「興味が無いんじゃ仕方ねぇわな!」と笑っている、今レスターさんの手が空いている内に昨日考えてたことを聞いた方が良いな。


「レスターさんも前は冒険者として活動していたんですよね?」


「ん? まぁそうだな、数ある冒険者の中で一部だけが到達出来るAランクを目指したが、結局力及ばずBランクで解散しちまった、懐かしい話さ」


「実は聞きたい事があって、オレとアヤカの武器の話なんです」


 オレは自分の持つ刀を見える様に机に置く。


「初めて見た時から気になってたが、改めてしっかり見ると随分と薄く細身な剣なんだな、刺突剣レイピアなんかとは違うんだろ?」


「はい、普通に斬り付けますし、突きも出来ます。アヤカの剣も見た目はロングソードに見えるんですが」


 目で合図を送るとアヤカは剣を取り魔力を流して形態を変化させる。


「アヤカ嬢ちゃんの方は何度か使ってるヤツを見たことがあるな、変化させるのに結構な魔力量が必要だって聞いたな」


「そうなの?」


「どうかしら、私は特に多く流してる気は無いからなんとも」


「聞いた話だが、装備者の魔力が高ければ変化させるのに苦労しねぇって話だな、で、それがどうかしたのか?」


「この2つの武器を作れる職人に心当たりがないかなと思って」


 レスターさんに嘘をつくのは申し訳ないと思いつつ、今の武器は自分達の親が手入れをしながら保管していた事、作った職人はもう居ない事、自分達も村から出たばかりで職人の当てが無い事を説明した。


「なるほど、武器は使えば摩耗していくから壊れた時の為に備えておくんだな、特にお前達の武器は普通の店には置いてないような代物、一から探せば時間も労力も掛かる」


「ええ、なのでレスターさんなら昔冒険者だったので、腕の良い職人を知っているんじゃないかと」


 そう言うとレスターさんは腕を組み手を顎に当てて考え込む。

 少しの沈黙の後。


「正直絶対に作れるって補償は出来ねぇが、可能性が高い所なら教えてやれる、この国の地図があるなら貸してみろ」


 オレは言われた通り机に地図を出し、印をつける為にボールペンも用意して準備を整える。


「初めて見る形のペンだな、まぁいい、ざっくりと話すぞ、今いるリラインから道なりに南東に下って行く、王都を超えてもまだな、そうして下って行くと国境が見えてくる」


 そう言いながらレスターさんは地図にザックリとした道と街を書いていく。


「そして国境を越えた先が大陸で一番小さなエルハルト王国だ、国境から更に南東に下った所にガルバドールって街があるんだが、そこならお前達の武器を作れるかもしれん」


「ガルバドールでなら」


「可能性が高いだけだがな、鉱山の麓にある街で、色んな鉱石が採れるうえどれも良質でな、そのおかげで腕の良い鍛冶師が多く居るから、鍛冶師の街なんて呼ばれもする」


 鍛冶師が多く集まっているなら望みはありそうだ、問題は資金面だ、正直オーダーメイドの武器が幾らになるのかまったく見当もつかない。

 道中で魔物や報酬の良い依頼を受けて出来る限り資金を用意するしかないな。


「ちなみにここから徒歩でガルバドールまで向かうと、大体どれくらい掛かるものなんですか?」


 徒歩での日数か、旅の食料に関わる事だから結構重要になってくるな、食料が尽きて血抜きが出来てない肉なんかはあまり美味しそうじゃないし。


「道中ずっと歩いてくってなるとそうだな……依頼なんかを一切受けずに行ったとして、早くても1カ月半、遅くても2カ月と少しってところだろう」


 真っ直ぐ向かって1カ月半から2カ月ちょいか、金策しながら向かえばそれ以上に時間は掛かるだろう、だが先立つ物が無ければ頼む事すら出来ない、やはり魔物退治や依頼を受けながら向かうのがいいか。


「ありがとうございますレスターさん、本当に助かります」


「ああいう話をするって事は、近い内に街を発つのか?」


「その辺は仲間と相談して決めようと思います」


「そうか、まぁDランクの受注期限は3ヶ月あるからゆっくり決めればいい、幸いこの先にある街はこの国で一番交易が盛んな温泉街だ、準備にも体を休めるのにも丁度いいぞ」


「「温泉!?」」


 温泉というワードに超反応を示す2人、温泉が好きなんだろうか。

 オレも好きか嫌いかで言われれば好きな方に寄るが、あくまでオレは一人でゆっくり静かにって条件付きだ、でも2人の反応を見ると温泉そのものが好きそうに見える。


「お兄温泉! 温泉に寄ろう! 体を休めることも冒険者には必要だって!」


「そうです! 休養は大事ですよ! 疲れが溜まっていたら動きは鈍りますし、いざという時に足元をすくわれるかもしれません!」


 好きそうなんてレベルじゃなく絶対に好きだわ温泉、圧すっご。

 でも確かに最近はレベル上げやランク上げに、昨日は突っ掛かってきた奴を叩きのめしたりと色々忙しく動いていたし長旅に備えるのは良いかもしれないな。


「ならそこでしっかり体を休めてから向かう事にするか」


「りょーかい!」


「では明日にでも発てるように、今から旅に向けて食料の補充とかチャチャっとしちゃいましょう!」


 明日にでも発つ?!

 今から準備?!

 幾ら何でも判断が早い!

 オレは2人に背中を押されながら解体所を出ることに。

 後ろからは「道中気を付けろよ」とレスターさんからの声が聞こえたので一言「わかりました!」と答えて旅の準備に取り掛かる事に。

 でもまぁこの世界に来て初めて裏表のないアヤカとユウカを見れた気がした。

 宿代 銀貨5枚

 1週間分の食料 大銀貨1枚 銀貨4

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