第24話 真実

時は少し遡る。

シルフ達が現場に到着する前日、夜の闇に紛れて1つの商団が悪路を走行していた。


「商品の補充は重労働だ。だが今回補充出来たのはうちの商会の目玉商品!!既に絶滅したと思われているエルフだ。大金は約束されたも同然、お前らアジトに戻ったら宴だ!!!」


「「「うおぉぉぉ!!!」」」


彼らは奴隷商、正確に言えば違法奴隷を扱う犯罪者。この世界では奴隷は合法だが借金奴隷と犯罪奴隷以外は如何なる理由があろうと違法だ。どの国でもバレれば打首待ったなしだがその分実入も大きい。


「団長、凄い勢いでこっちに来る何がいますぜ。」


「強さは?」


「それが未知数なんですわ。魔力は極力抑えてるらしいので…。ただ、速度からして只者じゃねぇ。」


「商品を奪いにやって来たのかもしれん。プランCで迎え撃つぞ。」


「「「うおぉぉぉ!!!」」」


彼らは慣れた手つきで陣を形成し白兵戦の準備を進める。彼らはその近づく何者かは他の商団の偵察部隊か先制攻撃のための先遣隊だと思っていたがその読みは大きく外れていた。


「ば、化け物め。」


「神の名の下にお前達には裁きを下す。教国の領土でそんな事をすれば、例え国外に逃げようと末路は分かるでしょ?」


たった5人で形成された部隊に彼らは1人残らず殺された。


「エルフか珍しいな。」


「聖女様上に報告しますか?」


「いや、いい。これ以上あそこと敵対するのは不味い。エルフの女王は単騎で教国を落とせる程強い。それでも落とさないのは気まぐれか様子見。向こうが慎重になってくれているのに余計な刺激を与え滅ぼす方向に舵を切られるのは不味い。それより処理するついでに奴隷解放のための道具を探せ、この手の鍵はどいつかが隠し持ってる筈だ。」


死体を処理しながら全員で手分けして探したがその日のうちには見つからなかった。


ー翌日ー


「待て、誰かに見られてる。気づかないふりをして待機。奴らの別働隊かもしれない。親元にこの惨状を報告してくれるなら抑止力にもなる。」


「分かりました。」


ー翌日ー


「敵襲!!」


見張りから知らせが走るが私らは武器を持つ前に的確に射抜かれていた。


「く、くそ。」


明け方、私らは先手を取られた。まさかこの惨状を見ても突っ込んで来る様な奴らが居るとは思えなかった。情報を持ち帰る方が有益な筈なのに、腐っても商人の一派がする判断じゃない。正気じゃない。


「聖女様!!この矢、毒矢の様です。しかも解毒に時間がかかるタイプの複合毒です。あまり受けないようにしないと死にます!!!」


なるほど遠距離からチクチク攻撃して毒を盛り続け殺すつもりか。


「場所はどこ?」


「向こうの方角からです。」


指を指した方向に目を向けるが既に姿はなかった。となると相手はプロ。避けるのも防ぐのも一筋縄じゃいかない。


「ぐわぁー!!」


「どうした!?」


「トラップです!昨日はなかった位置にトラップが作られてます!!」


私らに気づかれる事なくたった一晩でこんな近くに?


「不味い。相手は一流だ!!防ぐ事に心血を注げ!!後手に回った以上隙を窺うしかない!!」


私らはひたすら耐え隙が生まれるのを待った。全員が瀕死の重体になった頃、その隙はやっと生まれた。


「たった1人で見事な戦果であるとは言っておこう。たが、もう死ね。」


一瞬で距離を詰め、切り掛かるが持っていた弓で受けられた。受け止めた弓使いは想像以上に小柄で声も幼さが残っている。

一瞬疑問に思ったが防御魔法や防具など全てを貫通して腹に来た衝撃で内臓が幾つか破裂し、その疑問も吹っ飛んだ。そして勢いのまま背後にあったトラップに突き刺さり腹に風穴が空いた。しかもいつの間にか剣を持つ手の手首腕肩に矢が突き刺さっている。虚をついた筈なのにたった数秒のうちにここまでしてやられると笑うしか無い。最上位の神聖魔法を使えなければ内臓破裂だけで即死だ。しかも防御魔法が後衛の体術で破られるなんて前例は聞いたことがない。

そして技量も異次元だ。縮地が初見じゃなきゃ完璧に対応されていただろうし、私が突き刺さるまでの間に3本。どう考えても早すぎる。


「不死身の化け物…。」


そんな困惑した声が聞こえたが私は構わず剣を振り下ろした。相手が動かなくなるのを確認するともう一つの強い気配に意識を向ける。さっきまで隠れて何かをしていたらしいがこの襲撃者が倒れると同時に気配を隠す気がなくなったらしい。

こちらとしても防御魔法が潰されている以上早期決着が望ましいのでコソコソしてないで出て来てくれるのなら好都合。


「化け物。私のシル君に傷を付けたんだから死んで同然よね?」


殺意を剥き出しにして私を睨む女は異常な圧力を放っている。私の頭に嫌な予感が走るが次の行動に移る前に足が折られていた。それを認識した時には拳が握りつぶされていた。


「は?」


思わず口からそんな声が漏れる。魔力の動きは無かった。つまりこれはスキルや魔法を用いた現象じゃ無い。目の前の女の素の身体能力、それが示すは私とその女との間にある生物としての異次元な差。あまりの非現実に聖書に書かれた七天竜の姿を想起させられる。


「タダで死ねると思ってるの?私は同胞に手を出されてもどうでも良いけど、シル君に手を出したらタダじゃ済まさない。地獄も生ぬるい生き地獄の中で死ね。ただ、シル君の読み通りなら他も不死身かも知れないし他の奴の首を落としてからにするわ。あ、これお借りしますね。」


(同胞?何を言って…。)


私は無意識に鑑定を発動させていた。


名前:ウンディーネ・ナンフ

加護:水鏡の加護、縁結びの加護

種族:アークエルフ

 ・

 ・

 ・


名前:シルフ・ロジーシエル

加護:風乗りの加護、魔除けの加護

種族:アークエルフ

 ・

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 ・


私は神話の存在に気づかず斬り掛かったことを理解すると同時に彼らの行動の理由を理解する。彼らは奴隷商の別働隊でもそれと同列のいずれかでも無い。ただ囚われていた同族を助けに来ただけ。死体は処理したが警告のために残した血痕などから時間も猶予もないと判断し、たった2人で私らを骸に変えに来たのだ。


「追いかけなきゃ。」


雑に折られた足を繋げ、あの女が瀕死の仲間を殺す前に誤解を解かなければ…。今あの国に、あの女王に敵対されるのは非常に不味い。

そんなことを思っているうちに倒れ動かなくなった筈の少年が立ち上がった。


「寒い。でもここで死ねない。敵には死を、外道の骸は骨も残さず灰に。奴らは不死身、狩るには細胞が生を諦めるその瞬間まで殺し続けろ。ディーネは雑だから…。」


明らかに囈言を言っている。ここからでも分かるぐらいには意識が飛んでいる。それでも動いて震える手で弓を握り構えている。


「不味いっ!!」


その弓の先は私に向いていて意識がほぼ飛びかけとは思えない程の気迫を放ち確実に当ててくると言う事を察せられる。それなのに私の剣はあの女に奪われている。死の予感が頭をよぎるが抵抗する方法がない。私に出来るのは矢が放たれる前に足を治す事だった。

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