第20話 出発早々のトラブル

必要な物を調達し終えると僕達は道なき道を進み隣の国を目指していた。


「…シル君ってどうやってあそこまであんな短期間で信頼を勝ち取ったの?」


「あの都市の人間がチョロいだけだよ。それか皆余程余裕がないのか。僕は情報を得るために必要な事しかして無いもん。」


老人に対する敬いすらもなかったから多分そこに効いたんだとは思う。


「ふーん。それにしては仲良かったじゃん。」


「…なんで怒ってるの?」


「別に怒ってないけど。」


「…。」


気まずい。非常に気まずい。僕は乙女心なんて分からないから何でこうなったか分からない。数ヶ月この状況が続くのに耐えられる気がしない。

暫く無言で歩き続けたのは言うまでも無い。



ーウンディーネ視点ー


「…なんで怒ってるの?」


そんなの決まってる。私以外の女に色目を使ったからだ。私以外の女に触られたからだ。相手がその種族の老人だとしても許せない。どう見たって私より全然若い子だったし…。やっぱ歳近い子が好みなの?


「別に怒ってないけど。」


私が本に埋もれている隙に浮気するなんて最低。でも絶対自覚ないから私が悪い虫から守らないと…。


「…。」


私達は数日間無言で歩き続けたが遂に限界を迎えたのか口を開く。


「眠い…。雨風防げる場所があったらそこで休憩しよ。」


流石に眠気に限界が来たのか足取りがおぼつかない。シル君がこっちにどのぐらいの期間滞在しているのか分からないがほぼ休息を取れていない事は間違い無い。この世界の人間は1日で生活サイクルを回しているらしく正気の沙汰じゃない。私は寝ない事でどうにか合わせられているがシル君の歳じゃ無理がある。何をしでかすか分からない人間の集落に居るよりは誰も来ないであろうこう言う場所の方がまだ安全で安心も出来るだろう。それにこう言う環境は故郷に似ている。殆ど開梱されていない森の中で野生動物と共に生きて来た。凶暴な獣が襲って来ないだけここの方が平和だけど。


「そうしよう。」


私はシル君を背負って近くに良さそうな場所が無いか探す。暫く走り回ると洞穴か洞窟か、少なくとも雨風は防げそうな場所を発見した。


「先客が居るか…。お前は今日のご飯になって貰う。」


瞬時に構えると同時に矢を放ち相手が気づく前に眉間に矢を刺した。


「ただの熊で良かった。頭蓋は頑丈で滑りやすいが頭潰せば死ぬし、肉は大量。暫く食糧には困らない。」


既に寝静まったシル君を床に寝かせ、薪を集め火を起こし暖を取る。


「シル君は先祖の血が濃いから成長が早いけど、その分精神が肉体に追いつけてない。寝れる時ぐらいぐっすりお眠り。」


シル君の成長スピードは異次元でここまで大きくなるのに本来数百は掛かるのが生後数週間で終わったため精神も体力もその他諸々も肉体の大きさに見合っていない。技術だけは肉体や経験を軽く超越しこの歳ではあり得ない域に達している。


「もう少し血抜きしても良かったかな。ちょっと臭いし味が悪い。」


ただ火を通しただけの熊肉を食いならがらシル君の隣に座る。


「シル君の事は私が守るよ。だから一生私だけの物だからね。…どんな事が起きようと、どんな未来が待っていようと私はシル君を独りぼっちにはしない。」


食事を終えると、いつもの様にシル君の隣で横になる。シル君の寝息と熱を感じられるこの状態が一番落ち着く。


「いつまでも私だけの物…。」


私は安らぎと幸福を噛み締め、周囲の警戒を途切れさせずに眠りについた。

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