第18話 歪んだ愛情

ーウンディーネ視点ー


最終目的を達成する為の予定を立て終わり、直近の目的が決まったのは良いがシル君が拗ねて不貞寝してしまった。私は不貞寝したシル君の隣に寝ながら思考を巡らせていた。


「シル君の腕落とした奴が居なきゃこの話題にはならなかった訳だし、それもこれも全部アイツのせいだ。絶対許さない。」


それはそうと気持ちを切り替え翌日すべき事を考える。


「隣の国に行くのにこの身分証だけじゃ不十分。流石にこの時代で国を渡るのは難しい。でも、シル君が行くって言ってるんだからどうにかしなきゃ。そして褒めてもらうんだ。」


幸いな事にこの国は島国ではなく大陸にある国家らしく数百〜数千kmを漕いだり泳いだりする必要はない。つまり国家間の関所を突破出来ればいいだけだが海上と違って常に人が居るから密入国は難しい。


「警備が厳しいのは関所だけ。多少の危険を切り抜ける術があれば密入国は簡単。ただ、向こうで出入国の情報を完全に管理する術があった場合偽の身分証を持っているだけで詰む。国家間の移動は国家内での移動とは比べ物にならない程リスキー。…でも必要な事。最低限向こうの情報があれば良かったけど、鎖国してるのか独裁国家なのか原因は分からないが今の情報は何一つ手に入ってない。今行くのは危ない気がする…。でも、ゆっくりしてたらアイツが死ぬ。寿命死する。だからこそシル君はそこら辺が分かった上でリスクを承知で急いでる。」


短命すぎる種族の時間感覚は私達には理解出来ないし、合わせるのも難しい。私はまだ大丈夫だけど、シル君は大分弱ってる。ほとんど寝ずに動き続けているから当然なんだけど、急がないとシル君が衰弱死する。


「シル君の歳だと一回の睡眠で三ヶ月は寝てないと身体が壊れてくのにこれだからなぁ。こんな世界じゃ安心して寝れない。シル君の疲れ方を見るに寝静まった直後にこっちに来てるし私とは若干タイミングが違うんだよなぁ。」


大人である私でも一回の睡眠で三日は寝ないと疲れは取れないけど、ここにくる前に二ヶ月半程寝てたので数年は睡眠を取らずとも問題ない。

因みに自分の足で立った瞬間成人扱いではあるものの肉体的に成人と認定させるのは平均1000で早くても500を超えてからである。成長が遅い者だと3,000ぐらいで成人扱いになる者もいる。当然シルフはまだ肉体的にはまだ子どもなので役割を失い故郷に戻っても新たに役割を振られるし、まだ庇護の対象である。…そんな制度がある事はウンディーネもシルフも知らないが。


「シル君の体調的にも相手の寿命的にも余裕無いし手段を選んでる場合じゃ無い。リスクは避けられない。シル君が衰弱して行く姿なんて見たく無いし、シル君が死んだら私の生きる意義が無くなるもの。絶対に復讐しようね。」


私は寝ているシル君の頭を愛でながら頭の中で複数の目的を達成するためのルートを模索する。皆殺しと帰路は当然で、邪魔する者がいないこの世界ではシル君との仲を深めるのが当面の目的。シル君の思考では優先順位が家族、血族、私、同胞、自分、その他有象無象。私が一番大切にされている訳じゃない。


「幸いにもこの世界には阻む者は居ない。シル君は私の物、誰にも渡さないし誰よりも大切にされたい。他の有象無象には目もくれず私以外の事は考えないで欲しい。」


故郷では徹底的に他の女は関われない様に排除し、それを掻い潜ってシル君と話した女には地獄を見せた。男も排除したかったけど流石に仕事仲間に手を出せばシル君の耳にも届くから我慢した。でも、幸いな事にシル君の仕事仲間も空から舞い降りた天災にほぼ殺し尽くされ、シル君の心に大ダメージを与え私が深く入り込む隙を作ってくれた。

天災に私の両親が殺されたみたいだけどそんなのどうでも良い。そんな有象無象なんかよりガードが硬いシル君との距離を一気に詰められ、不自然なく同棲まで漕ぎ着けた事の方が価値がある。

その点ではあの天災にも感謝している。シル君を傷つけた事は許さないけど、シル君との距離を無くすキッカケになった事と死んだ事で十分帳尻が合う。


「この世界には私以外信頼出来る者が居ない。シル君の家族も血族もこの世界には来ないだろうし、私以上に優先される者は存在しない楽園。多分同郷の者でこの世界に来るとすればサラさんぐらいでシル君はあの人の事をそんなに知らない。だからこの世界にいる内にシル君の硬いガードを飛び越えて私を最優先にさせる。シル君安心して、私はずーーーっと一緒だから。」


因みに彼らの種族は番同士が物凄い歳が離れているのが当たり前で、掟的に番が超幼少の頃から関わる事になるため、歳上の方が自分の番を何千何万と言う時間を掛けて自分好みに教育と言うか洗脳みたいな事をするのは多々あります。その為彼らの種族には離婚や浮気という概念がありません。番は自分の好みが当たり前、その番はその状況が当たり前なので当然ではあります。

それでもウンディーネ程相手に深入りする事例はほぼありません。他の種族の血が入らず希釈されていない彼らは良くも悪くも悠久の寿命を持っているので色々希薄で、生存の為に己に科された役割以外で自他に干渉するという発想自体ありません。…端的に言うとウンディーネがおかしいだけです。

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