第16話 今後の方針

僕は言葉にするにも憚られる訓練を終えて手加減を覚えたがここまでする必要は無かったと思う。死んだら死んだで責任を持ってその肉を欲するものにあげるし。

…うん、訓練を受けるたびに思うけど二度とディーネの訓練は受けたくない!!


「顔に出てるよ?」


「隠す必要がないからね。それより次々!!早くしないと相手の寿命が尽きちゃう。帰る方法も探さなきゃだし…。」


先に復讐したとしても帰る方法が無ければ無意味に敵を作るだけだし…。権力者から権力を剥がした場合別の権力者が僕らを危険視し、消しに来る可能性が非常に高い。あの鎧さえ殺せれば僕は満足だから大事になる前に故郷に帰るのが理想。


「あ、それならこの前伝え忘れたんだけど、隣の教国って所でそれらしき技術が確立されてるみたいだよ?」


「じゃあ先にそっち行って交渉かな。退路確保は狩りの基礎中の基礎だし、相手を孤立させ誘い込むのも手としてはあり。あれがどれほど化け物でも一人だけならどうにでもやりようはある。」


どんな化け物でも生き物である以上援軍が見込めない状態で持久戦に持ち込んで削り続ければいつかは死ぬ。どんなにタフでも、どんなに強くても。


「それは駄目だよ。一族皆殺しにするんだから。」


視野が狭くなってる。退路確保は基礎中の基礎なのに…。勝っても負けても疲弊して致命的な隙が出来る。その隙を突かれたら死んじゃうよ?


「うーん、どっちにしろ先に退路確保しといた方が良くない?権力剥がして皆殺しにしたとしても全員が全員黙ってる訳がないし、目的遂行後即座に撤退できる様にしとくべき。」


ディーネはしばらく考え込んだ後納得した様な反応を示した。


「確かに脅威判定されて数で擦り潰されたら終わりだし一理あるかも…。やっぱり狩りの腕はどう頑張ってもシル君に軍配が上がるねー。」


「それはそうだよ。狩りしかやって来なかったのにそこで負けたら僕の価値は無くなっちゃうもん。」


「そんな事ないよ?シル君は他の誰よりも存在価値があるよ?」


「それは無いよ。僕が狩りを出来なくなっても皆それなりに狩りの腕前はあるし、僕の代わりはいくらでもいる。それでも僕の家系がそれでも狩人として生き残れたのは技術の高さと索敵能力の高さ。だけど隻腕になった僕に残ったのは狩りの知識と索敵だけ。もはや価値なしと言っていい。自分の身すら自分で守れない奴が狩りの場に出ても餌か足枷になるだけ。」


与えられた役割すら全うできない奴はただの荷物で穀潰し。だから隻腕でも両腕があった頃みたいに狩れるようにならないと故郷に帰った所で居場所はない。

父さんの様に数多の経験を積み、その勘が非常に役に立つなどの特例でも無い限り与えられた役割を遂行できなければいずれ追い出される。


「大丈夫、いざとなれば私が守るし私が養うから。どうせ私もやる事ないしシル君のお世話なら本望。」


「ダメだよ?僕と違ってまだ使いようはあるし、存続のためにも僕が追い出されたら諦めて。」


あまりの狂言に咄嗟に言い返したが、それをされると僕の立つ瀬がないしディーネの立場も無くなってしまう。流石にそれは許容出来ない。


「ふん!シル君が居ない場所になんて価値無いし、シル君と一緒に居れるなら同胞が皆滅ぼうがどうでもいい。皆がシル君を見捨てるなら私は故郷を見捨てるつもりだよ。」


「ダメダメダメ!!そんな事したら僕らの血が後世に残らない。僕が死んだ時に僕の遺志を紡ぎ遂行する者や死体を前に悲しんでくれる人がいなくなるでしょ。全部を自然にお返しするんだから同胞が居なければ僕や両親が生きてた証は何一つ残らなくなる。」


僕らの埋葬方法は肉も骨も全部自然に返す関係上、同胞が居てもいなくても末路は変わらないが誰の記憶にも残らないまま死んでいくのは嫌だ。僕らが焚書にされようと記憶や記録できる事は全て覚えていようとしているのはこの本能から来る物だ。だからディーネのように割り切ったり見捨てるべきタイミングでは無い時に同胞を捨てる事が出来る者は稀だ。と言うかディーネ以外で見た事ない。


「そんなの知らない。私にとって同胞全てよりシル君の方が価値があるもん。私は血族や種族なんかよりもシル君の方が大事。大丈夫、シル君が死んだら私も直ぐに後を追うからずっーと一人にはしないよ。」


「いや、そんなの絶対駄目だよ。後追いなんてされたら死んでも死にきれない!!」


「シル君が居ない世界なんて存在する価値が無いもん。一生、いや永遠にシル君と一緒に居るって決めてるし。」


前より過激になってる気がするんだけど!!


「絶対後追いなんてさせないししちゃ駄目だからね!?絶対頭を冷やした方が良いよ!!えーと、うーんと、そうだ。時間も時間だし夕ご飯食べたいなぁー。」


これ以上過激になられると本当にやりそうなので無理矢理話を切り替える。そもそも最初の話から大分脱線してたし英断だと思う。


「あ、そう言えば作ってなかったね。ちょっと待てて。」


ディーネが食材を調達しに部屋から消えたのを確認すると僕は思わず溜息を吐いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る