第二章 教国

第11話 限界集落

僕らは気配を探り集落を見つけ出すとそこへ向かった。

ここでの目的は狩った獣の卸売り。関所を通るためにこの国の硬貨を手に入れる事。ここ近くは自然豊かで獣の肉なんて売れなさそうに見えるが実際は違う。


「あ、ありがとうございます。これで家族が飢えずに済む。」


「狩るのは得意なんですよ。それよりこの集落には狩人っていないんですか?」


「それがつい最近村が森に呑まれて、その時に…。当然ほとんどの人間はここを捨てましたが故郷ですから私達のように残る事を選択した者もいます。ほぼ老人ですがね。」


「そうですか…。まぁ、頑張って下さいね。」


この様にこの世界の木々は成長速度がおかしく、こう言う森に入ってすぐの集落は狩慣れた者が不在な場合が多い。何故なら森の中に集落ができる事を想定した作りではないからだ。森の中と外だと獣との遭遇率が違い遭遇率が上がれば狩人の仕事が増え次第に狩人が手が回らなくなる。こう言う集落では役割分担が肝であり、そこのバランスが崩れると一気に滅亡する。実際、この集落の人達は皆痩せ衰えていた。少し凶悪な獣が出現すればすぐにでも滅ぶだろう。

でもまぁそんなことに興味ないし、僕らは獣を格安で売り捌き搾り取れるだけ硬貨を搾り取り終えると集落を後にした。


「…シル君って意外と冷淡だよね。あのままだとあの人達死ぬよ?」


「それもまた自然の摂理の一種だし僕らが深入りするメリットが無い。それにあんな状態になったら詰みだもん。」


あの集落に残って居た者達のほとんどは老人で増えるには適さないし、戦力としても使えない。老人を釣り餌にして獣を袋叩きにしながら人数を調整するみたいた非情な判断を下せないと後数ヶ月もすれば滅ぶだろう。でも、彼らの様子を見る限りそれは出来ない。


「確かにそうだけどシル君良い子だからちょっと意外なんだよねー。」


「仕方ないでしょ。生き残るには血が凍ってるとしか思えない非情な決断が必要になる事もある。僕は知らない奴と同胞が共倒れになる事なんて望まない。他人と同胞だったら迷う事なく他人を切り捨てる。ただそれだけの話だよ。」


僕は神様でも超常的存在でもないんだ。全てを助けるなんて無理難題を実現出来るわけが無い。それに故郷に残ることを選択した彼らの人生を邪魔したく無い。外部からの介入で無理矢理故郷から剥がされる苦痛は僕が今味わってるし。


「そこら辺はシビアなんだね。まぁ、当然私も切り捨てる方を選択するけど。」


「そんな事より必要な貨幣?は手に入れたし、正面から情報収集に行こう!」


「まだだよ。あとは身元の偽造をどうするが残ってるからねー。滅んだ所とかがあればいいんだけど、何も情報が無いから難しい。あの集落には書物の1つも無かったし…。」


「でも思わぬ収穫はあったよね。どうにかこの国の言語を習得出来た所とか。あそこの集落はどうも僕らが使う言語とこの国の言語の中間の様言語で話す。まさか、貨幣?以外にも収穫があるとは思わなかった。それに廃村が必要ならこの森の奥に行けばあると思うよ?」


「どうして?」


「何人抜けたのか分かんないけど、あの規模の集落が一つだけで存続できるとは思えない。少なくとも老化で動けなくなる老人が出来上がる程の年数存続してた事が分かるもん。」


「あー、確かに集落の規模にしては人数多すぎだもんね。あの人数でも食糧賄えないのにもっといたとなると複数の集落での連携が必須かな?」


狩人が数人居たと仮定しても狩れる獣の数と取れる肉の量、獣の繁殖スピード、栄養源の偏りなどを考慮すると存続するには森の恵みだけじゃ足らない。多少の畑作は必要になる。でも、あの集落には畑は無かったし、元畑っぽい土地も畑に適した土地も無かった。となると、徒歩圏内に同じ様な集落が存在し、定期的に交流があったと見る方が妥当。しかもあの集落が滅びかけとなると最も外側にあった集落である事も分かる。話を聞く限りでは木々の成長速度が異常らしいしあの集落と同じ様に呑み込まれて孤立し滅亡した集落があってもおかしく無い。と言うか多分ある。


「その通り。だから多分この奥には廃村があるだろうし適当に身元を偽るのにも使えると思う。」


「じゃあ、真っ直ぐ進もうか。切り株の年輪を見る限り恐らく向こう側が奥地だと思うし。」


「流石ディーネ。じゃあ案内は任せた。」


「任された!」


こうして僕らは野暮用を済ませに森の奥地へと歩き出した。

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