第9話 一方的な交渉

《》次の行動に移るための順序を考えているとドアが開きあの男が入って来た。


「あぁ、いいタイミングで入って来たね権力者さん。」


「一応名前が…。」


「いいよ僕は権力者さんの名前なんて興味ないから。どうやって僕の個人情報を抜いたのか分からないけど口が軽く腹芸が出来ない子にその情報を教えたのは間違いだったね。大方権力さんの目的は分かったし、利用させてもらうよ。」


相手に会話の主導権を握られない様に一方的に話を押し進める。相手は大人で権力者、会話の主導権を一度でも握らせると僕の話術では負ける。狩人は基本的に話術を必要としないから話すのは苦手だから…。


「そちらの目的は血筋に僕を取り込む事。又は僕を殺して素材を剥ぎ取る事。この餓鬼の話を聞く限り僕の価値は相当高いらしいね。しかし、聞く限りの情報から推測するにそれのどれも検証されていない都市伝説、昔魔女が行ったとされるアルビノ狩りに近いモノを感じるよ。権力者さんの所の鎧が切り落とした僕の右腕を権力者さんにあげよう。更に髪と爪と皮脂と汗と血と…まぁ失っても自然治癒できる素材は全部提供しよう。だからお前には最低品質のグロスボーと矢で良いからそれの提供とあの鎧に合わせない事を求める。それと1番大事なんだけど、僕と同族には二度と手を出すな。関わるな。この取引で不満なら僕の命程度くれてやろう。相当な野心家の厨二病末期患者である事はバレてるからこれ以上の演技は不要だよ。」


「…君本当に12?覚悟決まり過ぎじゃないか?それに俺はそう易々と殺さないぞ?」


「命の使い方なんて人ぞれぞれでしょ。覚悟もなく殺しをやってる訳じゃ無いんだよ。いつでも殺される覚悟がなきゃ狩人なんて出来ない。それに命を差し出すだけで同族への被害が減らせるなら普通喜んで命を差し出すだろ。」


権力者は自らの命が可愛いのかそう言う考えは出来ないのかもしれないが僕らは種の維持のためなら命を捨てる覚悟は常に持っている。不要な死や理不尽な死への抵抗はあるが必要な死ならば喜んで死を選ぶ。


「はぁ、仕方ないか。ここ腹を割って話そう。俺としてはお前の素材には興味ないからちょうど空いてるしそこに籍だけでも入れて欲しい。子を成してくれればなおよし。その血我一族に加われば王族すらも凌ぐ権力を得れる。暗躍するにも表で動くにもこれ以上無い利益だからな。一時的な利益よりも継続的な利益を狙いたいのが俺の立場から言える事だ。勿論最大限の保証と手伝い、ありとあらゆる我儘も聞こう。そのぐらい安いと思えるぐらいには利益がデカい。逆言えば他の貴族やここの王族に見つかれば即日種馬にされる事間違いない。これは一応お前のためでもあるんだぞ?」


「ちょちょ、ちょ、お父様!?何を仰っているんですか!!?」


何故か赤面してる餓鬼は無視し話を進めよう。僕としてはこんな餓鬼の相手はするつもりないし、そもそも籍とは?戸籍とかそー言うのって旧時代の遺産の中だけの話では?今の定説だと創作上の設定だって説が有力視されてるのにそんな制度導入してるの?ここ本の中なの?


「お断りだね。餓鬼なんて相手にするつもりないし、そもそも僕には許嫁が居るし何より縦ロールなんて気持ち悪く訳のわからない髪型の奴を身内にしたく無い。反射的に殺しちゃいそうだし…。」


「その歳で先約ありとはお前貴族か?」


あれ、僕こいつの前で言わなかったっけ?娘の方だったっけ?


「権力者なんて僕の国には居ないよ。僕の種族は些か数が少ないから1番歳が近い未婚の男女がくっつけられる。種の存続が掛かったこの掟には誰も逆らえないし、逆らおうとも思わない。」


すると権力者が滅茶苦茶驚いた顔をして、餓鬼の方が質問をして来た。


「種の存続って貴方と許嫁ってどのぐらい歳が離れてますの?」


「今までにないぐらい歳は近くて800ぐらいかな?大体の人が100を超えた辺りから数えるのを止めるから正確な数値は誰も分からないけど。てか、餓鬼がそんなことを知ってどうするつもりなの?」


「「は?」」


餓鬼と権力者の声が揃う。何かおかしな事言ったかな?


「僕が生まれる前の記録によると一番歳近くても差が五千は超えるからここまで歳が近いのは初めてみたいだよ。確かにその辺にいる動物や植物の方が圧倒的に繁殖力は高いけど僕らには悠久の時を生きる権利がある。何もおかしな事はないと思うけど?」


それに病気なんて滅多に起こらないし、死ぬ要因は大体外敵による外傷か出産した時だけ。老衰した同族の記録はない。

しかし寿命が少し長いだけで老化するし死にもする。だから何にも可笑しな所はないと思うけど何を驚いているんだろ?

君たちも僕らと似た様な種族なら同じぐらいの寿命があるでしょ?

だって、耳と身長以外大体同じ見た目なのに圧倒的に違う進化に進んだとは思えない。恐らく耳の良さより頭の良さを優先して進化したんだと思うし…。


「そ、そんなに長生きですの?」


「長生きじゃなきゃ遥か昔に焚書にされた書物の内容とか普通に紛失してるでしょ。そうじゃなきゃ僕らの種族がペルソアンジスト記録する者達とか呼ばれてる訳ないじゃん。」


何故か僕の声は届いていない様に見えたがきっと気のせいだろう。

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