第8話 隻腕の代償と餓鬼

いつもの。

うん、いつものだ。

無限ループかと本気で思ったよ。でも、よくよく考えてみると今回は自分でここで寝たんだよな。


「さて、いつもの感想を抱いた所で早めに武器を作ろう。どうせ暫くは出れないだろうし適当に家具を加工して武器にすればいい。グロスボーなら構造をちょっといじれば片手でも撃てるはず。猟銃の構造を参考にして装填した矢を放つのを片手でできる様にするだけ。」


明らかに石製の家具を同じ石製の家具にぶつけ鋭利な石片を作り、次に木製の家具を石製の家具にぶつけて形と長さを整える。断面は石片で平し怪我を防止する。接着には家具に使われていた釘を流用し、グロスボーの命となる発射機構はゴムがなかったので偶々見つけたバネを引っかかるように先端を鉤爪状に加工し流用する。矢は今回飛距離は必要ないので適当に棒状の物の先端を石片で削り制作する。


「ふう、半日以上経っちゃった。誰も入ってこなかった事を幸いと見るべきか。次は使い心地のチェック。」


足で押さえながら矢を装填し構える。


「1回の装填に10分以上掛かってるから実用的とは言えないが一撃で仕留めればいいだけ。…余裕だね。」


そもそも狩人は獲物に無駄な苦しみを与えないために獲物を傷つける時は一撃で仕留めるのが基本だしね。


ピュッ!


部屋の端から端へと放たれた一撃は側から見ればこれ以上ない程とても正確な弾道に見えただろう。しかし誤差0が常識な彼からすれば狙いから外れすぎていた。


「はぁ、片手の代償かはたまた突貫で作った武器のせいか。この近距離で0.05mmも狙いから外れるなんて初めて…。」


何度か試してみるが酷い誤差だと0.1mmもの差が出た。内心腕を落とされた事よりもショックを受けながらこの武器に合わせて調整を重ねていると気配もなくドアが開いた。

適当な家具の後ろに滑り込むと入って来た存在を目視で確認する。


「なんだただのキモい髪型の子どもか。」


金髪縦ロールの子どもである事を認識し、警戒を下げる。正直あの状況で抵抗を諦める程の弱者ならば警戒する必要はない。弱者にまで気を立てていたら体が持たなくなる。


「酷い暴言ですわ。貴方も子どもでしょ!?」


「有効な攻撃手段がまだ残っていたのにも関わらず生を諦める様な餓鬼と一緒にするな。いつまでも甘ったれた環境でブクブクと育った事を容易に想像できるよ。普通、1人でも生きていけるように立てる様になったその日から生きる術を学び続けるのに親バカはこれだから困るよ。大体の場合親の方が先に死ぬのにいつまで甘やかし続ければ気なのか…。」


「流石にそれは無いわ!獣人族ですらそんな過酷な事致しませんわ!」


「どんだけこの国は堕落してるんだよ…。親バカでは無くこの国事態が国として終わってるのか。いや、無力な奴は上から支配したい奴にとっては格好の餌らしいし、全ては権力者の掌の上か。こうなる様に甘やかし、家畜を育てるようにゆっくりと気を長くして何百世代もかけて家畜から力を削ぎ落として来たって事か。それなら納得だな。基本的にこの国の人間は頼りにならなそうだ。」


権力者でここまで堕落してるとなると確実に頼りにならないだろう。上に立つと言う事は覚悟と責任感が必要らしいけど、こりゃダメだ。


「勝手に納得してないでくださいまし!!」


「否定しようが事実だろ。あの状況なら目潰しは出来たし、手の届くところに敵が居たなら足の骨程度なら素手で折れるよね?足が潰れてたなんで言い訳は通用しないよ?」


「それを言うなら貴方ただって…。」


「厚みと足音から見て軽く数百kgはある鎧を身に纏いながら猛ダッシュ出来る猛獣を前にして、倒木で両足を潰された詰みの状態で、武器も防具もなく何をどう抵抗しろと?流石に僕だって鉄を素手で曲げられるほどの怪力はないよ。父さんじゃないんだから…。」


実際あの状況だと砂掛けが最大打点だったし、無駄ではあるが最大限の抵抗はしたよ?


「どんな化け物ですかそれは!!」


「人の親を化け物呼ばわりとか神経イカれてる…。権力者だからなのか?僕の住んでた場所に権力者は居なかったからなー。」


僕の住んでる国は正式名称を旧日本と言う島国であり、ならかの理由で国が瓦解し数多の科学文明を残して歴史からも人々の記憶からも消えた国である。僕らの先祖がその残された科学文明を研究発展させることによって他の国から国とは認められていないものの最先端の科学文明を持つ国に化けた。しかし力のある文明から力を奪おうと行動する種族や国が後をたたなかったため文明よりも個としての力を求め高め続けた結果原始に回帰したのか権力者が自然消失した。そのため昔の資料を読み漁ってる物好きじゃないと大体のことをふんわりとしか知らない。当然狩猟に生きている僕はほとんど知らない。この事だって話好きで物好きな許嫁に聞いた話だし…。


「権力者が居ないなんて国としてあり得ない…。どうやって統治していたんです?」


「統治?何言ってるの?そんなのなんでいるの?普通に生活してれば無秩序でも特に問題は無い筈だよ?」


「はぁ!?」


何当たり前のことを聞いて驚いてるんだろ?


「で、お前何の用なの?餓鬼に付き合ってられる程僕は暇じゃ無いんだよ。早くあの鎧を殺す為に片腕に慣れないといけないんだから。あそこで殺さなかった傲慢さ、絶対後悔させてやる!!」


「片手であの化け物に勝てると思ってるの?」


「うん?あの筋肉達磨は君の配下じゃないのか?君の命令を聞いていたしてっきりそう言う関係だと思ってたけど、違うのか。」


どうも権力者の思考はよく分からない。ふわっとした知識だけでは足りない。


「一応そうだけどあれは言う事を聞かない獣なの!!」


「うーむ、権力者の思考や交流関係は全く分からない。こんなことになるんだったらウンディーネの趣味にもっと付き合っとけば良かった。ディーネは今頃何してるんだろ。」


「何故水の四大精霊の名を…。」


「はぁ?人の許嫁にケチつけないでくれる?お前、ここで消すよ?」


「許嫁って貴方まだ12でしょ!!?」


何やら焦った様な表情と声色でちょっと怖い。僕に許嫁がいて何が悪い。


「何で知ってるの…。怖っ…。年齢とかあんま意味ないけど知らない人に知られてるのって気持ち悪いね。」


「12歳に手を出すなんて相手はイカれてますわ。まだ成人前なのに…。」


「何を言ってるの?種を残す為には必要でしょ?そもそも許嫁=繁殖は短絡的過ぎない?頭の中お花畑なのかな?」


僕は呆れながら頭お花畑な餓鬼から出来る限り情報を絞り出し、必要な行動に移ることにした。

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