第31話 転入生・流川氷華との初(?)対面

 瑠璃子さんが秘密を告白してきた翌日。


 自分の席に着いて、物思いにふけっていた。


 正直、いまだに瑠璃子さんが何度もタイムリープをしているなんて衝撃的な事実だ。


 受け入れられはする。が、意表を突かれたといったほうがいいか。印象に残りすぎている。


 可能性に賭けたい、と意地を張ったはいいが、実現可能かは不透明だ。別の世界線ではバッドエンドルートに引き込まれてしまう、といっていたし。


 ……ダメだ、弱気になってはいけない。


 どうして俺が弱気になっているかといえば。


 転校生が来るらしい、という噂を知ってしまったから。


 夏を目前に迎えたこのタイミング出来るなど想定外。


 それも、転校生が。


 あの流川ながれかわ氷華ひょうかなのだから。


 本来の『最凶ヤンデレ学園』では三大美少女の一角に名を連ねていた人物。


 いうならばクールビューティー。鋭い目とぶっきらぼうな態度が特徴だ。


 ややもすると距離を置かれそうな性格だが、際だった美貌がすべてをチャラにする。


 黒川神奈の登場で三代美少女の枠を奪取されてしまい、存在ごと消されたとばかり。実在していたんだな。


「たしか、超絶お嬢様なんだよなぁ」


 ひとりごとをつぶやいていると。


「なんだ、転校生の耳寄り情報か!?」


 友和が反応してしまった。


「いや、なんでもないぜ」

「嘘だぁ。流川さんがお嬢様って聞こえたぜ」

「地獄耳だな」

「聞き逃せるわけないだろう?」

「ま、友和だもんな」

「教えてくれよぉ」


 流川さんは箱入り娘というべきだろう。


 大事に大事に育てられ、なにをしても許される環境にいたことから、傲慢ともとれる冷たい態度が身についているってわけ。


「噂で聞いただけだ。世間は狭いらしい」

「持つべきものは友だな。新しい情報を掴んだら教えてくれよ? なんかおごるからよぉ」

「わかった、わかった」

「お前、最近凄まじいモテ期だし、流川さんまで手込めにしたら全面戦争だからな」


 それもそうだよな……。


 学年のトップスリーをひとりで独占なんて、他の男子からしたらつまらない話だ。


 企業なら独占禁止法違反である。


「あまり深入りしないようにするけど、流川さんがどう思うかまでは干渉できないないぜ」

「くっ、強者の余裕……惚れられたらどうしようもないって、お前なぁ……」

「ちょっと嫌みぽかったな。悪い」

「極悪だぜ、一誠よぉ」


 泣きつくような口ぶりだった。それから優しい言葉を何度もかけて、友和をなだめた。


 流川の到来により、クラス全体が沸き立たっていた。


 ホームルームも始まっておらず、正式な告知も詳しい情報もないのに妙な盛り上がりだ。


 瑠璃子さんが思っていることは、俺と被るものがありそうだ。


 流川のことをある程度知っている。


 恐れるのは、流川が俺たちに悪影響を及ぼすこと。破滅の道に引きずり込んでこないか、だ。


 そのため、転校生の話題となった際、表面上はにこやかにしているけども、内心は汗ダラダラだった。



 ガラガラ、とドアが開かれる。ざわつくクラスが、しゅんと静まった。


 担任が来たのだ。


「おはよう。その様子を見るに、皆はきょうのビッグニュースを知っているようだな」


 なーにー、とわざとらしく声を合わせる様子が見られた。


「ではいおう。本日付で、私たちのクラスに新しい子が転入することとなった」


 おぉ、とざわめきが走る。


「もうすぐそこまで来てもらっている。拍手で迎え入れよう」


 ドアから顔だけ出し、いいぞ、と担任はいった。


「失礼します」


 パチパチパチ、という拍手。ヒュウ、と鳴る口笛。


 入ってきた瞬間、流れるような黒髪が揺れた。


 クールさは健在であり、横顔すら輝いて見える。


「では、自己紹介をよろしく」

「えぇ。流川氷華と申します」


 フルネームが黒板に書かれる。縦長でとめはねがはっきりとした字だ。


「訳あってこの時期からの登校ですが、よろしくお願いします。以上です」


 淡々とした口調だった。笑顔のひとつも見せない。


「流川、終わりでいいのか」

「かまいません」

「で、では拍手」


 パチパチ、とさっきよりかは乾いた拍手で迎えられた。


「席はどうしたらいいですか」

「そうだな」


 俺たちのクラスは出席番号順で席次が決められている。


 そうなると、彼女の席は。


「志水の隣だな」

「えまじすか本当ですかどういう状況?」


 動揺のあまり俺はとんでもないことを口走ってしまった。

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