第4話 2人は邂逅する、運命が為に

きう…、と少年の心臓を何かが締め付ける。

「あ、下がってくれるかな、頤使いしき?」

「承知致しました。」

無言でメイド服の少女は先程来た道を戻っていく。

「さて、どうやら怪我は無いみたいだね。白式?」

少女が首を傾げる。

更にきうっ、と心臓が締め付けられた。

「あ、え……えっと……な、なんで名前を……」

締め付けられた心臓に全力で耐えながら辛うじて質問をする。

「何故?それは伴侶の名前を覚えていないとか失礼

 だろう?」

「え?」

伴侶。今、少女は少年を伴侶と呼んだ。

「伴侶……ってあの……?」

「伴侶の意味は一つしか無いだろう?」

少年は困惑する。今さっき会った少女にいきなり伴侶と言われたら、誰でもそうなるだろう。

「というか、その様子だと私に会ったことすら忘れ

 ているだろう?」

「え……?」

少年は必死に回想する。

「私は君に約束したじゃないか。『何が起きても守

 る』、と。」

記憶がフラッシュバックする。

「え、あ、あの時の……人?」

「お!やっと思い出してくれたかい!いやはや、ま

 さか記憶が混濁するレベルで消耗してるとは

 ね。」

それよりも。と少女は話を戻す。

「君が驚いていた伴侶の話だが」

「あ、はい」

「突然ですまない。動揺させてしまったね。」

「大丈夫、です。」

「それでなんだがーーー」

「は、はい」

「私と『結婚』、してくれないかな」

「?」

少年は再び困惑する。

名も知らぬ少女に『結婚』と言われたのだから。

「どうかな?」

「い、いやっ!ぼ、僕は貴方の名前も知らないです

 し……」

「色香。冠崎色香かんざきしきかだ。」

「え、あはい。どうも……じゃなくてですね」

「どうかな?自覚はしてるが、これほどの美貌を持

 った美少女(魔女)を妻に出来るんだ。君という

 か男にとっては最高だろ?」

「いやあの!理解が追いつかないんですが……」

「え?あぁ、頤使が説明しなかったのか。全く、頤

 使にも困ったものだね。もう少し心を持ち合わせ

 て欲しかったものだ。」

「あ、あの!」

少年が話を静止させる。

因みにこの会話、8秒の出来事である。

「質問してもいいですか」

「あぁ、構わないよ。何でも聞いてくれたまえ。」

「色香さん。まず結婚ってどういうことですか」

「?そのままの意味だと思うんだが」

「いやそうじゃなくて。僕と結婚する理由を……」

「あぁ、簡単なことだよ全く。一目惚れってやつか

 な」

「……ひ、一目惚れ、ですか」

「あぁ。君を助けた後君をまじまじと見て一目惚れ

 したんだ。」

「それって一目惚れじゃないんじゃっ……!?」

色香はいつの間にか少年の前に立ち、少年の色素が抜け落ちたかのような白く繊細な髪を撫で下ろす。

「ふふっ。やはりかわいいな、君は。と、このまま

 話しても構わないが、そろそろ遅めのアフタヌー

 ンティーといこうか。イスに座るといい。」

そう言い、色香は再び椅子に腰掛け、少年に反対側の椅子を勧める。

それに従い、少年も椅子に腰掛ける。

「それで?他の質問はあるかな?」

色香はテーブルの紅茶を優雅な仕草で一口含んで飲み込み、話を進める。

「え、っと。あなたは魔女、なんですか?」

「ほぉ、どうして魔女だと?」

「さっきの人が魔女様って言っていたので……」

「成程。」

色香がソーサーとカップをテーブルに置く。

「確かに私は魔女だ。だが、私も君と似ていて

 ね。」

「似ている……?」

「あぁ。実は寝覚めた一年前より以前の記憶が無く

 てね。まぁ、記憶喪失というやつさ。」

はは、と色香は笑ってこなす。

「あ、因みに次の質問は『何で白式と呼ぶのか』だ

 ろうから先に答えれば君の髪を見て直感でつけた

 んだ。嫌なら他の名前をつけても構わないが、あ

 まりネーミング・センスというものに恵まれてい

 なくてね。」

「……いや、名前は……それでいいです。」

「おっ、嬉しいことを言うね。」

「今まで名前なんて無かったから……そこはありが

 とうございます。」

部分的な感謝を伝え、話を戻す。

「それで、最後の質問なんですが。」

「どうして君がここにいるかだろう?」

「僕がここにいるかなんですけど。」

「勿論。君と結婚するにあたって同居はするだろ

 う。あぁ、賃金とかそんなものはいらないよ。こ

 こは『私の領域』だからね」

「り、領域?」

「外を見てごらん。」

少年は言われるがまま外に目を向ける。そこには青と白。いや、これはーーー

「空の……上?」

「そうさ。魔女というのは自分の領域を持ってい

 る。魔術師という存在の一部も、似たようなもの

 を持っているけどね。この『庭園ラビリンスラ』自体が巨大

 な空中要塞兼私の家兼庭園ということさ。」

「どうやって浮いてるんですか、これ……」

「勿論魔力……いや、浮力?揚力だったかな?

 おーい頤使ー。庭園はどうやって浮いているか知

 っているかい?」

「はい。」

「うわっ」

先程のメイド服の少女がいつの間にか色香の背後に立っていた。

「魔力を可逆的な反重力、かつコントロール可能な

 領域を形成し、それを魔女様が望んだ高度で固定

 する、というのがこの庭園の仕組みでございま

 す。」

「成程。ありがとう頤使。下がっていいよ。」

「はい。」

頤使は音も立てずに消えていった……

「あー、それでね、白式。」

「あ、は、はい。」

「君に一つ、お願いがあるんだが。」

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魔女と白式 MasterMM @Mastermm

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