第22話

「ありがとう。パパ上、ママ上。ボクの誕生日のお祝いを優先してくれて。嬉しいよ。ありがとう」


 —――怒りに身を任せてはいけない、ボクはこの男と女を見てそう思った。


 ボクはあなた達のように自己保身のためになんか、誰かを怒ったりなんかしない。


 ましてや、そんな程度の低いことでね。


 だからボクは、笑顔と平穏を貫いて見せる!



 —――あなた達とは、違う!!



「何言ってるんだ! 当たり前だろう! ゴミの処理なんかいつでもできるんだ! ささっ、早く食堂に向かうとしよう!」


「センちゃん。私、腕によりをかけて料理したのよ? 普段はゴミたちに任せているけど、今日はセンちゃんにとって特別な日だから……頑張っちゃった♪」


 ママ上は年と顔に見合わない、乙女のようにほっぺを赤くする。


 そして、突然なにか思い出したのか、「そうよ!」と目を見開いた。


「これからは—――私が料理を作るわ。だって、ゴミどもの料理なんかセンちゃんのお口に入れさせたくないし、私が作った方がおいしいもの。ねぇ? センちゃんもその方が嬉しいでしょ?」


「おぉ! それは名案だ! 俺も前々から思ってたんだ。あんなゴミクズたちが作った料理よりも、お前の作る料理の方が絶品だってことを! なっ、センカもそう思うだろう?」


 嬉しくなんかない。


 そうも思わない。


 本能的にわかるよ。ママ上の料理を食べなくても、使用人たちが作った料理の方が絶対においしいってこと……わかるよ。


 これは憶測なんて曖昧なものじゃない。


 —――確信だ。


 なぜって? そんなの決まってる……証拠があるからだ。


 ウソでしょ? ステラと使用人たちを侮辱された腹いせで、そんな出まかせを言ってるんでしょ?


 と、思うだろうけど、確固たる証拠があるんだ。


 なぜなら、使用人たちの料理が今まで食べてきた……。


 それもたくさんたくさんたくさんたくさん—―――食べてきた人たちがっ……!!


 —――ポヨンッ♪


 —――ポヨヨンッ♪


 今、使用人たちの料理で肥に肥えまくって、豚さんのように成長した—――パパ上とママ上が目の前にいるんだから!!


 はぁー……、どうして二人はこんなにも脂が乗っちゃったのかな? 


 センカの過去回想のシーンだと、二人ともスリムでスマートで美男美女だったはず……。


 なのに、どうして……!?


 なら、もう答えは一つしかないでしょ!


 おいしいからだよ! ここの使用人たちの料理が圧倒的においしいからだよ!!


 だから二人は、こんなに大きくなっちゃったんだよ!!


 あぁ、なんだろう……何だかプッチンしちゃいそう……。


 突然、体中から湧き上がる熱。


 その今まで体験したことのない感覚に、ボクは心当たりがあった。


 これが—――怒りなのだと。


 ボクはその忌むべき感情に、身を任せることにする。


「ねぇ、二人とも……そろそろお口チャックしようか」


 えっ? と二人が間抜け面をさらす間に、手を前にかざして魔法を発動する。


 そして二人は—――


「ぁ……ぁ……」


「ぇ……ぅ……ぁ……」


 枯れ枝のようにシワシワで、瘦せ細って—――まるで、どこかのハンターさんの会長の最後みたいな姿に変貌した。


 二つの枯れ枝は自分の身に何が起こったのか分からず、ただ呻き声をあげてボクを見上げていた。


 そしてボクは、それらを見下ろして告げる。


「ふふ……。二人とも脂が消え去って、元のスリムな体型に戻って良かったね」


 —――パパ上、ママ上。


 と、ボク史上最高の笑みを浮かべてそう言った。





〜あとがき〜


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