第21話

 ボクは思わず、その名前を呟く。


「ステラ……」


「ふふ。センカ様、こんな小物たちにお怒りになってはいけません。センカ様の崇拝すべき品格と人格が下がってしまいます。……ですが、私を思ってくれたのはその……とても、嬉しいです……」


 ステラの顔には怯えや恐怖など一切なく、恥ずかしそうに赤く染めるだけだった。


 そしてまた—――他にも顔を赤く染める者たちがいた。否、顔を真っ赤にして額に青筋を浮かべていた。


「だ、誰が小物ですってッ!! 今すぐ、今すぐ取り消しなさいッ!!」


「…………」


 —――パパ上とママ上だ。


 パパ上とママ上は明らかに怒っていた。

 

 だけど違う点があるとしたら、パパ上は怒りを抑えながら睨みつけるだけで、一方ママ上は怒りを隠そうともせず怒鳴り声を上げてることかな?

 

 やっぱり同じ貴族と言えど、子爵家の令嬢であるママ上よりも、侯爵家嫡男、当主だったパパ上の方が一枚上手だったようだね。

 

 ちなみに当たり前のことだけど、魔王に支配されてからは貴族制度はなくなっている。


 魔族からしたら人間たちは、ただの奴隷だから地位なんて必要ないから。


 だから、貴族制度は撤廃されてる。


 そんな余談をしてる内に、おやおや? 何やらパパ上の様子がおかしいぞ?

 

 パパ上は眼光鋭くステラを見て告げる。


「……貴様……雇い主である俺たちを侮辱したな? それは許されないことだ。一体、誰のおかげでお前のようなゴミたちが生きてるのだと思う? 俺たちだ―――俺たちブルーム家のおかげだ。ゴミ風情が恩を忘れ、剰え恩に仇なすとは……万死に値する。今すぐにでも死んで—――」


 私たちの前から消え失せろゴミが、と最後にパパ上は言い放った。


 それも真剣な顔で何の迷いもなく、そう言った。断言した。


 その言が葉ボクには、全く理解できなかった。


 どうして……どうしてそんな酷いことが言えるんだ。パパ上もママ上も……どうして……?

 

 悲しくならないのかな……? 『死ね』って口にするの……。


 ボクだったら—――心が押し潰されそうになる。


 想像もしたくない。


 自分が『死ね』って言って、誰かが傷つくところなんて—――絶対、見たくないっ!!


 なのにどうしてパパ上とママ上は……!!


 ただ『小物』って言っただけじゃないか……! 

 

 そんくらいのことで、子どもに『死ね』だなんて言うなよっ!!


 元貴族である前に、一人の大人でしょ……!?


 そこまでして飾りつけのプライドと誇りを守りたいのか……っ!!


 そんなつまらないプライド守るために、悲しいこと言わないでっ!!


 —――ステラを傷つけないでっ!!


 しかし次の瞬間、ボクが二人に激しい怒りを感じているのに対して、全く正反対の感情が全身に降り注がれる。


「で~も~、ゴミを処理する前に~」


「センカちゃんの~」


「「10歳の誕生日パーティーをしよう~(しましょう~)!!」」


 男と女はボクのそんな気持ちを一切無視して、悪意も敵意もない子を愛する一人の親として、心からの笑顔でそう言った。


 だからボクは—――





〜あとがき〜


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