第4話 別世界①
スミスは先ほどまでのチャラけた頼りない印象から一変、真剣な表情で口を開いた。
「まず、いくつか質問させて欲しい。君の年齢と出身は?」
「16歳です。日本の東京です。」
「東京は確かアルスだね。石を見せていれるかい?」
『アルス?なんだそれ。』
聞きなれない単語よりも、理解できた単語を聞き返した。
「・・・石とは、何ですか?」
「石というのは魔石のことさ、ほら、ラボにもいくつかあっただろう。似たような石う、通常はもっと加工してあるものだが・・・・・・」
スミスの言葉が続かなかった。
持っていないということが伝わったのだろうか。
何かに気づいたのかスミスの目が見開いた。
・・・・・・しばらくの沈黙の後。
「君は“特異点”か」
(???)
やはり意味がわからない。
「それならば辻褄が合いそうだ。・・・これもまた運命か。」
「詳しい説明の前に、この世界を見てもらいたい。一緒に付いて来てくれるかい?」
ラボを出て、左手の長い廊下を歩く。
「君には3日程度この世界、といってもここから移動できる範囲ではあるが、実際にその目で見てもらいたい。案内役には私の助手をつけよう。私はその間、ちょっと調べ物をしたいしね。」
助手ということは研究室の助手という意味だろうか。
調べ物をという言葉を発した時のスミスは、「ウキウキ・ルンルン」が垣間見えそうなほどにやけていた。研究に類するものがよっぽど好きなんだろう。
長い廊下を渡ると目の前の壁が消え、開けた場所に出た。それまでの壁で囲まれた空間から、広々としたラウンジのような場所に出たのだ。
そこには沢山の人がいた。多種多様な“人種”、そう人間の範疇なのだが、姿が微妙に異なる。髪の色、瞳の色が異常な発色をしている者、更には角が生えてる者、肌の色が元世界では存在しえない色まで、様々だ。
比較的若い世代の人間種達がこちらをじっと見つめている。中にはひそひそ囁いている人間も居た。その内の何人かは僕の背後に目を奪われているようだ。何もない虚無の空間ではないか。背後霊でもいるのか。
群衆の中から一人の若い女性が前へ出た。
「私のラボの優秀な助手『アリス』だ。」
色白で赤く長い髪の毛が美しい女性。年齢は同じくらいだろうか、きりっとした目に知的さが滲み出ている。白衣をまとっているが内側に黒いボディースーツのようなものを着用している。よく見ると所々にラボで見た宝石が埋め込まれているようだ。全体的に知的で清潔感がある凛とした優等生のイメージだ。
アリスが目を細めてこちらを凝視する。そして背後に目をやると何やら輝かしく光を放ったような感じがした。
「はじめまして、アリスです。」
スミスもそうだったが、やはり、言葉はついでで、背後の空間を暫く眺めていた。
今や、どちらかというと恍惚とした目で。
「コホン」スミスが咳払いする。
「レイ・・と言います。」
これまで女の子とまともに話したことのないレイははにかんだ。
人との会話があまりなかった人生で、女の子となるとハードルが高く言葉が上手く出てこない。
「彼女がこの3日君の世話係となる。色んな所に案内するから君自身の目で確認してくれ。僕は先ほど話したように確認したいことがあるので、しばらくはラボに籠るよ。」
言い終わるとスミスは元来た方向へ戻っていった。歩きながらも眼鏡をクイっと上げ、ぶつぶつと考え事をしている様子だった。スキップでもしているのか?足取りは随分と軽い様子だ。
「早速ですが、先ずはあなたの部屋に案内します。こころでは少々落ち着きませんので。」
周りに視線を馳せると、こちらを見ていた何人かは目を反らした。礼儀正しいがやけに固い口調だ。
ラボを出た先のラウンジも広かったが、この建物自体が巨大だ。窓から外が見えるが、かなり広い敷地を有している。僕が今いる建物は大きな構造物の中心に位置しているようだ。高層階があるようでエレベーターのような機械が備えられている。箱型ではなく、床が上下するだけの仕組みのようだ。安全面で問題がありそうに思える。前方で人々が上下に浮遊していた。このような光景も受け入れらる状態になってきていた。人間順応するものだ。
「ここに手を触れていただけますか?」
「あ、はい」
手を例の石膏のような石に触れると、微かに淡いピンク色の光を放った。
アリスはその様子をじっと見つめていた。
次の瞬間、身体が別の空間に飛ばされた。
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