第5話 別世界②
「ここは先ほどの場所から30階上階となる、あなたの部屋です。」
真っ白く広い部屋の中に、生活用品と思われるものが既に置かれている。
椅子、ソファー、ベッドなどどれも元居た世界のものに近いが微妙に異なっている。
細部に凝ったデザインはなくとにかく機能を満たせればいい、というような大雑把なつくりに思えた。
「まずは、、そうですね。コーヒーをご用意しましょう。」
彼女は壁の一角に行くとぶつぶつと呟いたあと、コーヒーカップを手に持って現れた。
暖かいコーヒーだ。砂糖とミルクが欲しい。まだ苦いのはあまり好みではない。
苦いのが好きという同年代も居たが、あれは完全に無理をしている。まだ大人にはなりきれていないということか。
「すいません、砂糖とミルクを頂けますか?」
「お砂糖とミルクを入れるのですか?」
アリスはしばらく考えているようだ。
「少々おまちください。」
彼女はまた先ほどコーヒーを持参して来た場所へと戻り、ぶつぶつと呟いていた。
「砂糖とミルクをお持ちしました。」
「あ、ありがとうございます。」
混ぜて飲むと苦みと甘さが入り交じりなんとも言えない、奥深い味わい。
心が落ち着くようだ。
沈黙が流れる。女の子と二人きりの空間でこの場を持たせるような話力は僕の人生経験には皆無だ。ようやくひねり出した言葉は、、、
「と、ところで、先ほどなにか呟いていたようだったけど・・・・」
冷汗が出る。女の子との会話とはこんなにも緊張するものか。カタカタとカップとソーサーが小刻みに衝突する音が聞こえる。コーヒーの味がわからなくなってきた。
「レイ様にお会いする前少し学習したのですが、異文化の風習には詳しくないので、少し補習してきました。独り言ではないのですが、、、交信をしていたので、その時のものです。」
『今、交信?といった。何、宇宙人とか?』
「あのー、コーヒーのことはあまり知らなかったようだけど、淹れ方は知っていたんですか?」
「ああ、それはレプリケータ(製造機)のことですね。あなたの好みを確認し発現させました。」
所々の言葉が聞きなれない。
「レプリケータとは?あと発現ってなに?」
「先生は何も伝えていない、ということですね。困った方です。何でもかんでも私に、、、いえ、なんでもありません。」
彼女の瞳の感情表現はとても豊かだ、喜怒哀楽を瞳が語っている。表情は硬いので、それをもう少し反映してほしい。可愛らしいのが台無しじゃないか。と思ってしまった。
「簡単に申し上げますと。あなた世界の文化でのコーヒーという存在を確認し、現実の飲料としてレプリケータという機械を通じて創りあげた。という意味合いになります。『発現』というのは魔力を流して現象を生じさせることです。レイ様が先ほど手を翳した際にこちらの部屋まで来ましたが、それも発現の一種です。」
「・・・そうですか。・・・いや待てよ。つまり僕は魔法を使っていたということ?」
「・・・そうなりますね。少々嫉っ、、いえなんでもありません。」
『なんか言いかけた?僕が魔法を使えるってことについてもう少し解説欲しいんだが』
腑に落ちない点は多々あるが、一旦はこの世界を見て、分かれといことか。
「今日は初日ですので、この施設『メビウス』を案内しましょう。メビウスはこの星の中心とも呼べる存在。研究・軍事・医療など様々な分野の最先端を集約した施設です。何より、ここは『発着所』として唯一無二存在です。」
「その前に、その格好では目立ちますので、こちらに着替えてください。」
黒いタイツのようなものを渡された。アリスと違うのは、緑色のラインが全身を覆うようにデザインされている。筋肉に沿うような細かいラインが無数に張り巡らされている。
少し大きめと思っていたが、着終わった瞬間に収縮し、身体にぴったりと張り付くようなサイズに変化した。着心地はランニングで着用するようなコンプレッションウェアに似ているが、着用している感覚が限りになく薄い。裸?ではないがそれに近いものがある。
この部屋の中央部に置かれている、その物体(転移石)に手を置く。先ほどの説明もあったので、来た時よりも集中して状況観察するように心がけた。
手を翳すのでは、今度は置いてみた。ひんやりとした意思の感覚、ピンクの発光、、これが発現か、、、発光の際に多少の熱を感じた。『風』だろうか、身体中を風が吹き去っていくような感覚があった。・・・・光とともに身体が瞬時に転移する。
転移している時の感覚というものはない。あまりに一瞬のことなので、瞬きする間に別の景色が目の前に広がるようなイメージだ。これは場合によっては、非常に心臓に悪い。転移先を知っていれば心の準備が可能というものだが、全く無知の状態では、驚きよりも緊張が勝る。アリスが案内するのだから危険は当然ないのだろうが。新しい場所に行くというのは元の世界でも不慣れだった。
そして、次に訪れた場所は・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます