第25話
なぜ、こうなった?
スータムの城壁を出ですぐの平原に、深紅と黄金の『巨神』が向かい合っている。
「あのう、本当にやるのですか?」
タケトはまだ、半信半疑だ。
『むろんだ。そのために私は巨神を操る訓練を行ってきたのだ』
どうやら、巨神同士は通話が可能らしい。ただ、その原理はよくわからない。
勝負――と言われてもなあ――
タケトは聖都バルムからやってきた、聖女コーネリアとバルム騎士団長シジマールから、いきなり模擬戦を挑まれたのだ。
「えーと、その前にひとつ聞いてもイイですか?」
タケトがそう言うと、『かまわない』とシジマールの声が聞こえた。
「――どうやって、シジマールさんは、巨神の操作方法を習得したのですか?」
『バルム聖神教会の書庫にあった、古代人の書物から学んだ』
「――えっ?」
スータムで、ナタリアが巨神の遺跡から深紅のAFを呼び起こした――という情報は、すぐに聖都バルムまで届いた。
聖神教の総本山、バルム聖神教会は、教会に眠る無数の書物から、古代人が残した巨神に関する情報を入手。その中には巨神の操作方法も記されていた。
聖女コーネリアとバルム騎士団は、すぐにバルム近郊にある巨神の遺跡を発掘。この黄金のAFを起動させたのだ。
それから、三日三晩、シジマールは寝る間も惜しんで、古代書に記された操作方法を習得。
あらかたの操作ができるようになったため、このスータムに『援軍』という名目でやってきたという。
「三日三晩――か」
こちらの人間全員というわけではなさそうだが――少なくても騎士クラスの運動神経は、地球の人類とは比べ物にならないくらい発達している。スチュワートやフィリシアもそうだが、AFの操作習得がとんでもなく早いのだ。
これまでの動きを見る限り、シジマールの操縦スキルは、地球人なら一か月以上訓練しなければ到底習得できないレベルだろう。
『いざ、勝負!』
勝負って――これ、模擬戦だよね?
なんか、サムライの死闘みたいな雰囲気になっている。
黄金の機体は、左肩をタケトの機体に向け、両手を顔の前で合わせると、棒状のエネルギー塊を発生させる。その姿、両手剣の構えそもままだ。
『参る!』
「――えっ?」
ものスゴい勢いで、向かってくると、シジマールはエネルギー塊をタケトに向けて振り下ろした。
「は、速い!」
それを、ポリゴン状の盾を展開して、なんとか防ぐ。エネルギーとエネルギーがぶつかって、激しい音を発した。
『まだまだぁ!』
さっと、
「う、うわぁ!」
慌てて後退するタケト。機体のバランスを取ることで手一杯だ。
『
今度は右手から、タケトに向けて振り下ろす。
「ま、またぁ⁉」
相手の手数が多い。多すぎる。AFのビームサーベルは、片手に持って振り下ろすのがふつうだ。そもそも、AFは銃撃戦が主で、接近戦は想定していない。だから、シジマールのような剣士の技をAFで再現するなんて、想像もしていなかったのだ――
タケトは右手のエネルギー塊でシジマールの攻撃を防いだのだが、その反発でバランスを崩す。
「や、やべっ!」
地面を踏ん張ろうとしたのだが、左足が滑って、機体が大きく傾いた。
「うわぁぁぁぁ!」
どーん!
激しい地鳴りとともに、タケトの深紅の機体が横倒しになる。
その前に立った黄金の機体が、棒状のエネルギー塊をタケトに向けた。
「こ、降参!」
「なんですの? まったく、試合になっていませんでしたわ」
ガッカリという表情のコーネリア。それ以外の観戦者は全員、唖然としていた。
それから、機体を起こして、停止させたタケトは、そのまま降機する。
「ふん。異界の巨神使いがどれほどのモノかと楽しみにしていたのだが――まったくの期待外れだ」
一緒に降機したシジマールが不満そうにそう言い捨てた。
「いや、スゴいですよ。シジマールさんの動きは!」
タケトは先ほどの考えを撤回する。彼の動きは一か月の訓練では到底マスターできない。もはやベテラン。いや、エース級の操縦スキルである。
「スゴい! スゴいぞ! 私も手合わせさせてくれ!」
フィリシアが目を輝かせながら、そんなことを言う。
タケトは苦笑いだ。
(マズい。これじゃ、本当にボクはお払い箱になってしまう……)
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