第24話

「フ、フィリシア、もっとていねいな操縦はできない? そ、そのう……し、がイタイ……」


 フィリシアにAFの操縦を指導して三日。彼女の強じんな肉体と、無尽蔵な体力のおかげで、みるみる上達している。


「はあ? 何を言っているの? おもいっきりていねいに操縦しているでしょ! 次はもっと激しくやってみるわよ!」

「うわっ! やめろ! ぎゃぁぁぁぁ!」


 悲鳴をあげるタケト。


「男のクセに、いちいちうるさいわね! そもそも、そのお尻はアンタの乗馬が下手クソだからでしょ!」


 この三日間、午前中はフィリシアにAFの操縦を指導して、午後は立場が入れ替わり、タケトが乗馬を教わっていたのだ。


 お尻の痛みは乗馬の影響だった。


「わ、わかった! もう、教えることはないから、あとは一人で練習しなよ。ボクを下ろしてくれ」

 そう、泣きながら懇願する。


「何を言っているの? アンタを下ろしている時間がモッタイナイでしょ⁉ 午前中は我慢しなさい!」

「午前中⁉ まだ、三時間もあるじゃないか⁉」

「あと、たったの三時間でしょ!」


「うぎゃぁぁぁぁっ!」


 断末魔のような叫びのあと、『フィリシア様、タケト様』とナタリアから通信が入る。タケトにとっては天使の声に聞こえた。


『こちらに、巨神が向かってきてます』

 ――えっ?


「巨神……って、敵のゴーレム⁉」

 フィリシアが確認すると、ナタリアの声で『いえ、おそらく味方かと――』という応答があった。


「味方の巨神?」

 フィリシアが後部座席に顔を向ける。タケトも不思議そうな表情を見せた。



 数分後、ナタリアの言っていた機体が姿を見せる。


「お、黄金のゴーレム⁉」


 AFから急ぎ降機したタケトとフィリシア。そのまばゆい黄金の機体に目を奪われた。


 コックピットのハッチが開き、その機体から二人が下りてくる。一人は純白の軍服を着た男性。同じ純白の軍服だがフィリシアのとはデザインが違っている。そして、もう一人は純白の修道服をまとった少女――「と、いうことは?」


「コーネリア様! それに、シジマール騎士団長!」

 ナタリアが二人の名前を呼んだ。


「ああ! イヤになっちゃいますわ! こんなに乗り心地の悪い乗り物は初めてですわ! シジマール! あとでお仕置きですからね!」


 地上に降りた早々、少女がそんなふうに声を張り上げる。


「聖女様、人前ですよ。背筋を伸ばしてください。教皇様が泣きます」

「はあ? そんなの知らないですわ。イテテ……、あー、腰がイタいですわ」

 コーネリアと呼ばれた少女が背筋を伸ばしながら、そんばババくさい声をあげる。聖女と呼ばれているが――縦ロールの金髪。つり上がった目。年齢は十代後半。修道服以外は、悪役令嬢のような容姿だ――なんて、タケトは思ってしまう。


「え、えーと、この人たちは?」

 タケトがナタリアにたずねると――


「聖都、バルムの聖女、コーネリア・エウロパ様とバルム騎士団長のシジマール様です」


 聖都、バルムはここから東百キロに位置する。バルム聖国の都だということは、ナタリアに教えてもらっていた。そこの聖女と騎士団長?


「相変わらず、うるさいわね。コーネリア」

 フィリシアが腕組しながら、新たに現れた聖女に冷たい視線を送った。


「あら? フィリシアもいらしたの? そんな粗末な服を着ているから平民かと思いましたわ」

 コーネリアと呼ばれた聖女が、手にした白い扇子を口に持っていってフィリシアを笑う。


「はあ? なにそれ? イヤミ?」

 フィリシアがムッとした顔を見せるのだが……


「ね、ねえ、王女様のフィリシアに、あんなこと言っても大丈夫なの?」

 タケトが小声でナタリアに質問する。国家間の亀裂につながらないのか心配するのだが――


「コーネリア様は教皇様のお孫さんなのです」と、やはり小声で応えた。


「――えっ?」


「アナタ!」

 

 今度はタケトに向かってコーネリアが話しかける。


「は、はい!」

 ビビりながら、返事をするタケト。


「下品な赤色の巨神使いは、アナタですの?」


 下品な赤色って……


「えーと……」

「本当に黒い髪なのね? でも、ずいぶんと貧相な顔ね」


「――えっ?」


「本当に悪魔ならどうしようかと思っていましたが、こんな貧相な顔と一緒にされたら、悪魔が怒りますますわね」


 なんか、すごくバカにされていることだけは、タケトにもわかった――


「コーネリア様、この巨神は? どうしてスータムに?」


 ナタリアの質問に、コーネリアは――


「もちろん、援軍に来たのですわ」

「援軍――ですか……」


「でも、その前に――」

 なぜ、タケトに真っ白な扇子を向ける。


「黒髪の少年、いざ勝負ですわ!」


「――へっ?」

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