第23話

 作戦会議が終わってお開きになり。タケトも部屋を出る。そのとき、ナタリアが声をかけてきた。


「タケト様、少しお話が――」


 なんだろうと思ったのだが、彼女のあとを追って別の部屋に入った。


「タケト様、先ほどのお話。ひとつ隠していることがありますよね?」


 突然、そんなことをナタリアが言うので、「なんのこと?」と聞き返す。


「巨神は十分ほどでマナ切れを起こすから、今回の作成は使えない――本当は違いますよね?」


「違わないよ……」と、タケトはとぼけるのだが――


「タケト様は巨神が『複座』である理由について、もう気づいていらっしゃるのでしょう?」


 タケトは黙ったままだった。そんな相手の態度を見て、ナタリアはため息をつく。


「後部座席には、マナを巨神に補充する者――つまり、私のような聖女が乗るためにある――そういうことですよね?」


 聖女も乗り込み、絶えずマナを送り続ければ、巨神は無限に稼働し続ける。マナ切れというこのAF最大の弱点が克服できるのだ。


 しかし、そのためには――


「私を戦いに巻き込み、危険な目に合わせたくない――そういうタケト様のやさしさにはとても敬服いたします。ですが、私も覚悟はできています。もし、タケト様が最良の策だとお考えでしたら、私をお使いください」


「ありがとう。でも、今回はその策を使いたくない。会議でも言ったけど、大型兵器の投入は戦況を劇的に変化させる代わりに、大きな被害をもたらすんだ」


 人的被害もそうだけど、大地も汚染され、長いあいだ人が住めなくなってしまう。食料の生産にも影響が出るだろう。できるだけ、そういう事態は避けたい。そう、タケトは言う。


「――わかりました。そこまでお考えだったのですね。やはり、タケト様はご立派です」

 そんなふうにほめられると、照れ臭くなってしまう。


「そんなことはないよ。そもそも、戦争なんてやらないことに越したことはないんだ」


 タケトの言葉に、ナタリアも「そうですよね」と応える。



「それともう一つ、お聞きしてイイですか?」そう、ナタリアにたずねられた。


「なに?」と応えると――


「あの白いゴーレム使いとなにかお話をしていましたよね?」

「――えっ?」


 聞かれていた⁉


 そういえば、ナタリアは巨神と思念通話ができる。あの時、白い悪魔のパイロットと会話していたのを聞かれていたんだ――


「タケト様は敵軍の世界からいらっしゃったのではないですか?」

「…………」



 白い悪魔のパイロットと会話したとき、タケトは気づいたことがあった。

 それは、この世界の言葉と、地球の言葉が違っていたこと――


 二人は知らない言葉で会話している――それで、ナタリアは気づいてしまったのだ。


「ごめん、そのことは誰にも言わないでもらえるかな?」

 ナタリアに頼むと、彼女は「わかっています」と返答した。

「タケト様が、敵軍とつながっているとは思っていません。何らかの理由で、彼らと敵対しているのですよね?」


 タケトはうなずくと――

「やはり、そうでしたか。ですが、それでも他の者には隠しておきましょう。特に、敵軍に肉親を殺されたフィリシア様などには、敵軍の言葉がわかるというだけで、タケト様を疑ってしまうことでしょうから――」


 ナタリアがそう言ってくれるので、「ありがとう」と応えた。


 しかし、そこで別の疑問がタケトの頭の中で湧いてくる。


 こちらの世界の人間と何気なく会話してきたのだが――

(どうして、ボクはこの世界の言葉をしゃべれるのだろう?)


 そういえば、彼女は前に――

『私たちは前に会ったことがある』そう言っていた。

 もし、それが本当なら、自分がこの世界の言葉を知っていた理由がわかるかもしれない。


「ナタリア、前に――」


 その時、部屋の外から、タケトを呼ぶ声が聞こえた。

 なんだろうと部屋を出ると、赤毛の少女が手ぐすね引いて待っている。


「何をしていたの! さっさと準備して!」


「えっ? 準備って?」


「はあ? 何を言っているの? さっき、約束したでしょ? 私にゴーレムの操り方を教えるって!」


「あ――」

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