第26話

 聖都バルムの聖女、コーネリアと騎士団長シジマールがスータムにやってきてから三日が経過する。


 フィリシアとスチュワートはシジマールとAF同士の模擬戦がやれるまでに上達した。


 そして、タケトは――


「タケト様、ずいぶんと上手になりました」

 馬上にいるタケトに向けて、ナタリアがそうほめた。


「うん、ボクもなんかコツをつかめたよ」

「それにしても、どうして馬に乗りたいのですか?」

「ああ、それはもちろん――」


 タケトが言いかけた時、模擬戦中だったフィリシアが、中断してAFに乗ったまま、こちらに向かってくる。


『タケト! コルネードへ偵察に行っていた仲間が戻って来たわよ!』


 フィリシアが巨神の外部通信機能を使って、そう連絡してきた。


「わかった! すぐに行く!」



 それぞれの訓練をいったん切り上げ、寺院の仮戦略室に主要メンバーが集まった。


 そして、偵察に出ていた騎士団の情報を全員で聞く。


「敵は、この位置に建物を造って、軍を駐屯してます」


 羊皮紙というのだろうか――動物の匂いがする茶色い紙を広げると、王都の地図のなかに、彼らが見てきた敵ベースキャンプの配置を書き込んであった。


「ゴーレムの数は全部で十二機。敵軍の数は、ざっと千人というところでした。その様子がこの絵です」


 そう言って、別の羊皮紙を広げる。ベースキャンプをさまざまな角度からスケッチしているのだが、とても上手く、イメージしやすい。


(入り口は二つ。どちらも、守りは手薄のようだ)

 AFの出入りがある側にいたっては、百メートルほど柵がない。見張りのやぐらはあるが、敵の侵入は想定をしていないのだろう――そうタケトは考えた。


(そうなると、問題になるのは十二機のAFと、千人規模の敵兵だな)


 その規模の味方をすぐに集めることは、さすがに難しい。


 となると、作戦はひとつしかない。


「ベースキャンプ近くまで敵に覚られず近づいて、奇襲する」

 タケトはそう説明する。


「コルネードまで、敵はいないのか?」

 シジマールが質問すると――


「はい、敵軍は全てコルネードに集結しているようです」


 コルネードまで、部隊を複数に分かれて、別々の街道で向かったそうだが、その間、敵軍の姿は見られず、道中、一般人の生活がしいたげられたり、苦しんていたりする様子はない――と、説明される。


「そうなのね、よかった……」

 フィリシアはホッとした顔で、そうつぶやいた。普段は男勝りで勝気な行動ばかりの彼女だが、やはり王女様だけあって、国民のことが気がかりのようだ。


「それじゃ、実動部隊の選抜はお願いします」

 タケトがそう言うと、シジマールとエドワースの両国騎士団長、副団長がうなずく。


「私も行くわよ」

 フィリシアも当然という顔をしている。


「それで、やはりゴーレムを置いて行くのね?」

 タケトは「はい」と応える。



 奇襲というカタチを取ると決めた時点で、巨神は使わないとした。


 途中までの移動手段にするという案も出たが、やはり、巨神は目立つ。道中、敵の姿がなかったというが、それでも、敵の偵察がいる可能性はある。やはり、こちらの動きが覚られないように、移動するべきだ。



「――と、いうことは、コルネードまでの移動も、街道を堂々と――というわけではないのだな?」


 シジマールがそう推測したとおり、移動もできるだけ敵に知られそうもないルートで行きたい。それに関しては――


「まかせて。王国の国民でさえ、ほとんど知られていない道を使ってコルネードまで行くから」

 フィリシアはそうニヤリとする。


「それじゃ、人選との準備ができたら、すぐに出発だ!」

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