第20話
夕方になり、寺院では
(そんなのを開催する余裕なんてないはずなのに――)
タケトはそう心配するのだが、逃亡してきたのだとしても相手は王族。体裁は整える必要があるのだと聞かされた。人の上に立つ者たちはいろいろ気をつかわなければならないから大変だと考える。
会場となる寺院の大広間――
寺院側はナタリアとスチュワートの他、聖職者が七人程。それとタケトも呼ばれていた。
すでにこちら側は席に着いて、相手が来るのを待っているところである。
すると、対面の扉が開き――
「――えっ?」
タケトは思わす、声が出てしまう。というのも、最初に入場してきたフィリシアの姿が想定してモノと違っていたからだ。
薄い黄色の美しいドレスを身にまとっていた。赤い髪もきれいにとかされ、まるでルビーのように輝いている。
軍服に剣を携え、勇ましく立ち振る舞っていた彼女の姿はない。すました表情は、まさに『お姫様』という容姿そのものだった。
そんな彼女に見とれてしまう。
「コホン」
となりにいたナタリアがせき払いする音で、タケトはわれに返る。
彼女を見るとムスッとしていた。
(なんか怒ってない? そんなにボク、アホずらしていたのかなぁ……)
一応、寺院側のひとりとして、シャキッとしなければと背筋を伸ばす。
ほどなくして王国側の出席者が席に着くと、フィリシアから
「貴国にとっても大変な時期、敵より逃亡してきた私たちのため、このような会を開いていただいたことに感謝します」
フィリシアがスカートを軽く持ち上げて、ゆっくりとお辞儀をする。そのひとつひとつが優雅だ。
「それでは、こちら側の出席者を紹介します。手前からコルネイ国宰相のグスタフ・ラング。コルネード騎士団副団長 エドワース・ラザード……」
それから、武官、文官が五人ほど続き――
「最後に、コルネード聖神教会の聖女、エリーネ・ベネディクトです」
「えっ? 聖女?」
そう言えば、彼女もナタリアと同じく純白の修道服を着ている。
白の聖服は聖女の証だとナタリアから教わったのだが――
「いかがしました? タケト様?」
フィリシアがたずねてきたので、タケトは慌てる。
「いや、その――聖女って、そんなに何人もいるものなのかなって……」
物語に出てくる聖女とは、特別な『聖なるチカラ』を持った少女のこと。なので、ひとりしか登場しないのが普通なのだが――
「神が万物に分け与えた『マナ』を集めて、再分配する能力をもつ女性のことを『聖女』という称号で呼びます。ですので、この世界には聖女が何人もいるんですよ」
そう、ナタリアが説明してくれた。
(なるほど、そうなんだ――)
「タケト様の世界には聖女はひとりだけだったのですか?」
フィリシアがたずねてきたので、タケトは困ってしまう。
「えーと、ボクのいた世界には聖女はいませんでした」
歴史上、宗教的な偉業を成し遂げた女性や、空想上の女性にそういった称号を持つ者がいたけど、タケトが生きていた時代には存在していなかった――そう説明する。しかし、理解してもらえなかったようで、ナタリアには
(余計なことを言うと、墓穴ばかりを掘るな……)と、後悔する。
タケトは、「ハ、ハ、ハ――」と愛想笑いをしてごまかした。
それからは、晩餐会という華やかなイメージとはかけ離れた、厳かな雰囲気での食事となる。タケトはせっかくの料理なのに……と、残念な気持ちになるのだった。
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