第17話

「改めて自己紹介するわ、私はフィリシア・コルネード。コルネイ国王、ヘルマイア・コルネードの娘よ」


 そう言って、赤毛の少女はタケトの前に手を出した。反射的に握手する。


「――えっ? 国王の娘? それじゃ、お姫様?」

 ビックリするタケト。改めて彼女の容姿を見る。


 黒マントの中には、純白の生地に金色の糸で縫われた美しい軍服。ロングソードというのだろか? 大きな諸刃もろはの剣には、真っ赤な宝石がガードの部分にめ込められていた。

 その堂々たる立ち振る舞いは、美しいドレスをまとい、か弱いお姫様のイメージからかけ離れている。


「いえ、姫ではありません。コルネイ王国第二十二代国王、フィリシア陛下でございます」

「――えっ?」

 国王?


「ラング!」

 フィリシアと名乗った赤毛の少女は、後ろに控えた長身の男性をにらみつける。

「その話はしないでと言ったでしょ!」

 そう彼女に怒鳴られると、男性は萎縮して「もうしわけございません」と頭をたれた。


「いったい、どういうこと?」

 タケトがナタリアに顔を向けると、彼女はうつむきながら「じつは……」と声にする。


「イイわ。私から話す」

 言いづらそうな表情をしていたナタリアを制してフィリシアがそう言うと、続けてこう説明した。


「二週間前、あの白いゴーレムが率いる軍勢が、王都コルネードにやってきたの」

 それは確か、数日前にナタリアから話を聞いた。コルネードに現れた巨大人型兵器によって王都があっという間に占拠されたとか――


「――ええ、そのとおりよ」

 フィリシアは悔しそうに応える。

「王宮は敵ゴーレムが放った火の玉によって破壊され、ヘルマイア陛下、フィオーネ王妃はそれに巻き込まれ亡くなったわ。そしてアルトマン皇太子――私の兄上も、騎士団を率いて、ゴーレムに立ち向かったのだけど、兄上も含めて、騎士団は全滅――」

 

 そこまで口にしたあと、フィリシアはカラダを震わせ、黙ってしまった。


 彼女は生き残った少ない配下とともに、東方へ逃げ延び、このスータムまで十日かけてやって来たそうだ。

「あと、もう少しというところで、敵ゴーレムに見つかってしまい――この赤いゴーレムに助けていただいたしだいです」

 そう話したのは、先ほどフィリシアにいさめめられた、ラングという男性だった。


「そう……だったんだ」

 肉親である三人が殺害され、彼女はどれだけ苦しい思いをしながら、ここまでやって来たのだろう――


 タケトには肉親と言われる人がいない。物心がついたときには施設の中で生活していた。その後、自分を引き取ってくれた退役軍人の養父が唯一の家族といえる人だった。その人も昨年亡くなって、今は天涯孤独の身。

 彼女の気持ちがわかる――なんて、軽はずみでも言える立場ではないが、それでも、無念であっただろうということは理解できた。


「しかし、私たちにも希望が見えてきたわ!」

「――えっ?」

 フィリシアは両手でタケトの手を取り、強く握る。彼女の顔が接近したので、ドキドキしてしまう。

 男勝りの振る舞いに言動。そんな彼女だが、こうして見ると、かなりの美少女である。


「タケトと言ったわね?」

「えっ? あ、はい――」

「チカラを貸して!」

 そう言って、また顔を近づけるので、タケトは耐え切れず、一、二歩、後ずさりする。

「いや、だから――」

「王都を奪還して、陛下や兄様のかたきを討ってくれたら、なんでも望みのモノを与えるわ!」


「――えっ?」

 なんでも――って? またぁ?


(どうして、こちらの人って……)

 タケトはそう思うのだが、フィリシアは続けざまに――

「だから、お願い! 私たちを助けて!」

 こう推しが強いと、さすがに引いてしまう。


「フィリシア様、その話は折々お話ししましょう。お部屋を用意しますので、そちらでお休みになっていただけますか?」

 困った顔をしていたタケトにナタリアが助け舟を出した。

 その提案に、「そうね、そうするわ」とフィリシアも賛成する。


「ふう――」

 タケトはそうため息をついた。


(チカラを貸して――か……あの白いAFと戦えるのなら、ボクはどこへだって行ってやるさ)

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