第15話

全周波数帯通信オールバンド? この機体は電波受信もできるのか?」


 タケトはそう驚く。しかし、なんでもありのこの機体。いまさらか――と、苦笑いする。


『どうした? 聞こえているのだろ?』

 男の声がコックピットに響いた。状況からして相手は――


「白い悪魔のパイロット――なのか?」


『ふん、その呼び名を知っているということは――やはりキサマ、地球人だな?』


 地球人――確かに相手はそう言った。やっぱりだ。戦っていた相手、それは自分のいた世界から来た者だったのだ!


『なぜ、地球人が現地人の味方をしている?』

 そういう声が聞こえてきた。


「違う――」

『なに?』

「ボクは、スペースノイドだ。地球人じゃない!」


 タケトはそう言い切るのだが、コックピットに『フ、フ、フ』と男の声が聞こえる。

「なにがおかしい?」

地球移民スペースノイドも地球人に変わりないだろ?』


「違う! ボクは宇宙移民解放軍だ! 地球国家連合と一緒にするな!」

『解放軍? キサマは面白いことを言う』


 どういう意味だ?


『宇宙移民解放軍はもうない』

「――えっ?」

『十五年前の地球圏戦争で彼らは敗北、降伏した。今は解散し、スペースコロニー圏は地球国家連合に吸収されている』


 何を言っている?


 タケトが地球国家連合のアーマードフレームと戦ったのは、四日前のこと――

 なのに、解放軍は降伏した? それも十五年前に⁉


「ふ、ふざけたことを言うな」

『おいおい、ふざけているはキサマだろ?』


 そ、それじゃ――

「本当なのか――?」


 相手から、それに対する回答はなかった。その代わり――

『キサマは、われわれの同士だ。どうだ? 私と一緒に来ないか?』

 そんな声が返ってきた。


「だから、ボクは地球人じゃないと!」

『そんなことはどうでもイイ』


「――えっ?」

『キサマも見えているのだろ? が?』

 タケトは黙ったままだった。

『ふん、やはりな。キサマは新世代人フューチャリストだ』


「――フューチャリスト?」

 初めて聞く言葉だった。

『我々は常人を超越した空間認識力、そして、近未来予測能力にけている。それが新世代人だ』

「近未来予測――」

 それはタケト自身も気づいていた違和感だった。AFに搭乗したときの研ぎ澄まされた五感。相手の動きが手に取るほどわかる。それが、『近未来予測』であるとしたら――


『我々は宇宙という厳しい環境下で生きていくために、その能力を身に付けた――新しい人類なのだよ』

「……オマエは何を言っているんだ?」

 タケトはそう問いかける。しかし、それについての応答はない。

 相手は自分の言いたいことだけを続けた。


『もはや、現代人モダニストが作った決まり事ルールに、われわれは囚われてはいけないのだ。人類進化のために』


「だから、何を言っているんだ!」

 思わず声を荒げてしまう。


『いきなりそんなことを言われてもまだ理解できまい。また会おう、深紅のAFを操る者よ』

 そう言葉を残し、白い機体はバーニアの光を残し飛び去った。


「ふざけるな――」

 タケトはコックピットでそうつぶやく。


「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!」


 そのとき、コックピットのモニターが一斉に光を失った。『マナ切れ』だ。


 もし、あの白い機体がもう少しココにとどまっていたら、タケトの機体の異変に気付き。攻撃を仕掛けてきたことだろう。そうしたら、なすすべもなかった――


 いや……


 あの男は近未来予測能力があると言っていた。なら、タケトの機体が『マナ切れ』することにのかもしれない。そのうえで、『見逃した』のだとしたら――


 そう思うと、タケトは無性に悔しくなった。


「ふざけるなぁぁぁぁ!」



 それから、ナタリアが沈黙した深紅のアーマードフレームの前まで来る。彼女がマナを供給し、再び『巨神』が動き出した。町の城壁内へ戻るまでに、結局、一時間以上を要してしまう。


 タケトが機体から降りると、助けた赤毛の少女が走ってくるのが見えた。


「アナタなの⁉ このゴーレムを操っていたのは⁉」

 彼女が目を輝かせながら、そう言う。


「今度はゴーレムか……」

 いろいろな言い方をされる――そんなことを考える。


「それにしても、スゴい戦いだったわ! あの白いゴーレムもスゴかったけど、アナタもスゴい! 私は王都にいたとき、敵のゴーレムを何機も見たけど、アナタとあの白いゴーレムの動きは格別だわ!」


 なぜか、少女はしゃべりまくる。えらく興奮していた。


「味方にこれほどのゴーレム使いがいるとは思わなかったわよ! これなら、領土奪還も遠い未来ではなさそうね!」


 領土奪還?


「いいえ、フィリシア殿下、彼はではありません」

 そう、赤毛の少女に口を挟んだのはナタリアだった。


「味方じゃない? だって今、私たちを助けてくれたじゃない?」

「それは、緊急を要したため、彼が手を貸してくれただけです。彼はこの世界の人ではありません」

「えっ? この世界の人ではない⁉」


 ナタリアの説明に、フィリシアと呼ばれた赤毛の少女がビックリする。

「はい。ですから、彼には私たちの『敵』と戦う理由がありません」

 そう、悲しそうに伝えるのだが――


「……いや、戦う理由がある」

「えっ?」

 突然、タケトが口を開くとそう言い切った。

「ボクには戦う理由がある。アイツに勝ちたい。そのためだったら――」


 タケトはナタリアの前に立つ。

「タケト――様? なにを?」

 ビックリする彼女の手をタケトは握った。


「ナタリア。ボクにこの機体を預けてくれ!」

「――えっ?」


 アイツ――『白い悪魔』に自分は勝ちたい。勝たなければならない。


「私たちと共に戦ってくれるのですか?」

 ナタリアの問いかけに、タケトはうなずいた。


「ナタリア。ボクにチカラを与えてほしい。あの男に、あのアーマードフレームに勝てるだけのチカラを!」

「はい! もちろんです!」

 ナタリアは満面の笑みでそう返事をした。目から光るモノを見せながら――



 こうしてタケト・カミカワは、ガルパ大陸軍の一員となる。侵略者と戦うために――


 大陸新歴三百六十八年、四月二十九日。

 ガルパ大陸に『謎の軍勢』が侵攻してからちょうど六十日目の出来事だった。


<第一章 完>


********************


ここまで読んでいたたいたみなさま、本当にありがとうございました。


次章は、異世界側が反転攻勢に出ます。


*大変申し訳ありませんが、次回から一日おきの更新となります。


よろしかったら☆をお願いします! ぜひ、ぜひ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る