第14話

 タケトは深紅の機体を跳躍させる。新たに現れた『敵』を迎え撃つために――


『タケト様! どうしたのですか?』

 ナタリアの声だった。

「来るんだ――」

『来る……とは?』

 その問いに、タケトは応えなかった。


 なぜなら、その機体が既に射程圏内へ侵入していたから――


 バビューン!

 バビューン!


 二体のアーマードフレームが同時に射撃し、同時に回避動作を行う。

 それまで、レーダーにしかとらえていなかった敵影が、正面のモニターに映し出されていた。


 純白と金色の美しい機体。ただ、タケトの想像していた形状ではない。


「飛行形態――?」


 大きな翼を広げ、宙を舞いながらこちらへ向かってきている!


「――白い悪魔に飛行形態があるなんて聞いたことがない……新型か?」


 そもそも、タケトは宇宙空間で機体と戦った。だから、飛行形態が必要がなかったこともある。

 それでも、伝わっている情報を信じれば、まだ地球国家連合にも飛行形態に変形できるAFは開発されていなかったはずだ……



「だけど、それなら飛行経路が予測できる!」

 翼の持つ機体は高速で上空を飛ぶことができる。ただ、その代償として、急な方向転換が構造上不可能だ。


「そこだ!」


 タケトは飛行経路と速度、そして自分の放つビームの照射速度を素早く計算し、爆心点を予測。それに合わせたタイミングと角度でビームを放った!


 その時、敵の移動速度が突然鈍る。

「なに⁉」

 なぜなら、敵の機体が空中で変形し、人型になったからだ。それにより両脚にあるバーニアを進行方向へ噴射して、機体に急ブレーキをかけた! とてつもないバランス制御が必要なはずだが、相手パイロットはこの緊迫した状況でやってのける。


 しかし、それに驚いている余裕はない!


「来る!」


 相手の銃口がこちらに向ける前に、撃ってくると覚ったタケトは、その射線から素早く離れる。

 数メートルのところをエネルギー塊が通過した。


 安堵してもいられない。タケトはすぐに相手へビームを放った。


 完璧なタイミング、完璧な狙いだった。だが、相手は『予測した』とばかりに、ヒラッと機体を傾倒させると、今度は突然向かってくる!


「それなら!」

 ライフルからサーベルに持ち替えたイメージを持つ。すると、機体の右手にひと筋の光剣が現れた!


 ガシッ!


 相手もいつの間にかビームサーベルに持ち替え、光の刃同士が激しくぶつかった!


 エネルギー塊同士が衝突すると、互いに反発する性質を持っている。

 その特性のため、二体の機体に一定の距離ができた。


「また来る!」


 タケトの予測どおり、純白の機体はまた光の剣を振り下ろす! それを先ほどと同じく、光剣で跳ね返した!


 タケトは地上、対する敵機は空中でその衝撃を受けた。つまり、タケトの機体は地面を踏ん張って衝撃を受け止めたのに対し、純白のAFは後方まで吹っ飛ばされる。バーニアを噴射させて、態勢を整えようとしていた。


 もちろん、相手にその時間を与える必要はない!


「今だ!」


 タケトは光剣を振り抜く!


 本来、相手に当たる間合いではない。しかし、タケトの光剣の一部が離れ、相手の機体へと向かった!


 よし! いける――!


 タケトはそう思った。剣からエネルギー塊が飛び出す——そんな武器など地球圏には存在しない。


 これは、先ほど赤毛の少女が見せた技だ。それを、咄嗟とっさにイメージした。


 いくら、『白い悪魔』のパイロットでも、未知の武器には対処できまい。

 これで仕留められる! そう思った――のだが――


「――えっ?」


 ありえないタイミング、ありえない方向へ相手の機体が横転し、タケトの放ったエネルギー塊をかわしたのだった!


「バカな!」


 その技を仕掛けるとわかっていなければ、決して避けられない状況。なのに、白い悪魔はそれをやってのけた。タケトでさえ、今、この瞬間思いついた攻撃だったはずなのに――


 しかし、相手も躱すのが精いっぱいだったようで、そのまま、後方へ猛然と回避する。


「逃がすか!」


 タケトが前に出ようとしたとき――


『タケト様! もう時間が!』

 ナタリアの声だった。


 深紅の機体、『巨神グーム』の弱点。それは十数分でマナ切れを起こしてしまうこと。

 マナが切れれば、機体は停止してしまう。


「チクショー!」

 タケトは叫んだ。一世一隅のチャンスだった。しかし、マナ切れでは仕方ない。


 タケトは、離れていく敵影を黙って見るしかなかった。


 その時――


『深紅のフレームアーマーのパイロット、聞こえるか?』

「――えっ?」

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