第9話

 コルネイ王国、王都、コルネード――


 勇者アーサーが魔族を討伐したのち、建国したこの国は三百年以上の歴史を持つ。

 それが、わずか数日で滅亡してしまう。そうせしめたのは、宿敵であるビザン帝国ではなかった。

 巨大人型兵器をようする謎の軍勢。それが、王国の栄えある騎士団、魔導士たちを虫ケラのように蹴散らし、この王都を奪い取った。



「ジャス級十機が全滅? どういうことだ?」

 王都の城壁外に臨時の軍本部を置いた『謎の軍勢』。その司令官である男が、彼の補佐官である女性にそう声をかけた。


「はい、東方地域へ進軍していたバッハ大佐所属のAF十機全てが何者かによって破壊されたという報告が入っています。大佐は撤退を決断。明日までにわれわれと合流するとのことです」


 その報をつまらなそうに聞いていた司令官は、「だから、侮るなと言ったのだ」とため息まじりにつぶやく。美しい金髪と切れ長の目、まつ毛が長く、世の女性がうらやましがるほどの美貌。しかし、彼は男性で年齢も四十手前であった。重厚な軍服が似合っている。


「バッハ大佐が戻ってきたら、士官寮で謹慎するように伝えろ。ビュコック少佐、いいな?」

 ビュコックと呼ばれた補佐官。年齢は二十代半ばだろうか――亜麻色の長い髪を後ろで無造作に束ね、赤い縁の眼鏡をかけた彼女は、「わかりました」と頭を下げた。


「――それで、ジャス級を全滅させた相手はどんなヤツかわかっているのか?」

「はい、それが真っ赤なAFだったと――」

「なに⁉」


 味方敗北の報を聞かされても、何の感情も示さなかった司令官が、AFアマードフレームという単語に反応し、身を乗り出した。

「その映像は残っているのか?」

「はい、バッハ大佐から送られています。観ますか?」

 司令官は「すぐに出せ」と席を立ち、プロジェクターの前に陣取った。

「こちらです」


 動画が再生されると、味方のAFと一緒に躍動する深紅の機体が映し出される。

「データーベースを確認しましたが、この機体に合致する情報はありませんでした」

 補佐官がそう付け加えるのだが、司令官は映像を食い入るように観ていて、反応がない。


 補佐官はそんな上司の表情を見てドキッとした。

 普段から不愛想で、何を考えているかわからない彼が、目を見開き感情をあらわにしている。しかしそれは、味方がヤラレタという悔しい表情ではない。大好きな番組をワクワクして観ている――そんな少年の目をしていた。


 その動画は一分弱で終わってしまうのだが、司令官はなにも表示されていない画面を見入ったままだ。

「映像は以上ですが――」と補佐官が声をかけると――


「ジャスパードを準備させろ」

 金髪をなびかせて司令官が振り向き、補佐官へ指示した。

「まさか司令官自ら、出撃されるおつもりですか⁉」

 女性補佐官が驚いた表情で確認するのだが、相手は「フ、フ、フ――」と笑うだけだった。


「――かしこまりました。それと、王宮から逃げ出した、現地人の王族と思われる女性の所在ですが、発見されたと追跡部隊から連絡がありました」

「ほう、それで?」

「どうやらその女性、バッハ大佐の軍が撤退した地域へ向かって逃亡を続けているらしいです」


「――⁉」

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