第3話

 純白の修道服をまとった少女から、『町を守ってほしい』と言われた。


「敵? 敵って?」

 

 ピピピーッ!


 電子音がコックピット内に響く。これは――

「警告音?」


 モニターの右下方部に広域レーダーのような表示が現れた。それによると、前方から何かが接近しているようだ。


 赤いマーカーが全部で。これも、AFに搭載されているレーダーモニターと同じ意味なら……


(赤い表示は『敵機』)

 メモリの単位はわからないが、かなりの速度でこちらに向かっているようだ。


 相手は本当に敵――なのか?

 そもそも、ナタリアと名乗った修道服の少女は何者なんだ?


 疑問はいくらでも湧いてくる。だが、それをいちいち考慮している余裕はない。


「わかった。やってみる」

 タケトは少女にそう応えて、両足のペダルを踏み込んだ。勢いよく機体が前進する。


(ザブルグよりあきらかに反応がイイ。それに速い)

 数百メートル移動すると、遠くに機影が見えた。


 ピピピーッ!


 やはり警告音が聞こえ、前方のモニターに相手の映像がズームアップされる。これらの機能もザブルグと同じだ。


「あれが敵? いや、あれってジャスじゃないのか?」

 タケトが戦っていた地球国家連合の主力アーマードフレームAFJASジャス。それと良く似た機体がこちらに向かってきている。


「――本当に似ている。しかし、違うAFだ」


 ザブルグと比べて細身の機体はジャスの特徴によく似ている。ただし、装甲の色や形状、所持しているビームライフルがあきらかに異なっていた。


「とはいっても似すぎだ。ジャスと同系? と、いうことは相手は地球国家連合なのか?」


 なら、ここは地球? でも、彼女の言い方だと、向かってきている相手と敵対しているようだ。地球上はすべて国家連合の領土。この大地が地球なら、国家連合と敵対しているのはおかしい。だからといって、コロニー内でないのもあきらかだ。


 それに、この機体――こんな、赤い装甲のAFなんて見たことがない。


 まだ考えがまとまらない。

 敵に対し先手を打つほうがイイに決まっている。しかし、タケトは躊躇ためらった。本当に向かってくる相手は『敵』なのか?


 その迷いのため、近づく相手をただ見守る。すると、相手がビームライフルをこちらに向けた!


「撃ってくるのか⁉」


 光の塊が、こちらに向かってくる!


 タケトはそれをかわす。地上での戦闘経験はない。しかし、シミュレーションは何度も行っているので、躱し方は身に付いている。機体の反応もザブルグと段違いだ。


 相手は明らかに敵対行動を起こした。

 ならば、戦うしかない。


 タケトは武器を確認する――


「あれ? この機体に武器はないのか?」

 宇宙移民解放軍のAFなら、モニターのどこかに装備している武器一覧の表示があった。右アームに組み込まれたダイヤルで選択すれば、武器をアームに装着する――そういう仕様のはずだが……


 その武器一覧が見当たらない。


『タケト様が望む武器を思い浮かべてください。魔法と同じです』

 少女がそう助言する――なのだが、言っている意味がわからない。

 思い浮かべる? まほうとおなじ?

 まほう……って、魔法のこと?


「ごめん、わかるように説明してくれない?」

 余計、混乱してしまう。そのウチに、敵が接近。何発ものビームがこちらに向かってきた!


「うわっ!」

 これでは丸腰で、敵に突っ込むようなモノだ。相手は容赦なくビームを撃ち込み続ける。


 しかし――

「――あれ? なんだ? この感じ――」

 相手がビームを撃つタイミング、射線がハッキリとわかる。だから、難なく攻撃を躱せた。それだけではない。相手の位置、動きが頭の中でイメージできていて、実際にそのとおりのことが起きている。だから、モニターを見るまでもなく、攻撃を避けられるのだ。


「いったい、どうなっている?」

 まだ、その感覚になじめない。だからといって、迷っている暇もない。


「とにかく武器を!」

 ナタリアという少女は『思い浮かべてください』と言っていた。まだ、その意図することがわからないのだが――


「えーい! こうなったら!」

 タケトはビームライフルを装着したイメージで、右側のアームを正面の敵に向ける。

「撃て!」

 そう、叫んだ。正直、まじめにやっている自分が恥ずかしい――ところが!


 ビューン!


 ――――――――えっ?


 ビームが放たれた――


 もちろん、ライフルなんて手にしていない。なのにビーム弾が飛び出し、相手に向かった。


 バァァァァン!


 ビームが相手に命中。激しく爆発した!


「な、なんだ⁉ この威力は⁉」


 たった一発で敵の機体がバラバラに吹き飛んだ!

 あの『白い悪魔』が持っていたビームライフル――いや、それ以上。戦艦の主砲並みの破壊力だ!


 さすがに相手も驚いたのか、慌ててアームを動かし、味方に指図しているようだ。あっという間に、九機が散らばり、タケトの機体を取り囲んだ!


「こちらの動きを封じ込めるのと同時に、味方が爆発しても、巻き込まれないように距離を取ったんだな」


 相手の指揮官もそれなりに頭が回るようだ。でも、攻撃手段を理解した以上、もはや分散しようがタケトには関係なかった。


「それなら、一体ずつ破壊するだけだ!」

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