第2話

『軍神様……私どもをお救いください』


 タケトはそのような少女の声を耳にして、目を覚ました。



(……ここは、どこだ?)

 まだぼんやりとだが、意識が戻る。しかし、視界は戻らない。真っ暗だ。


(自分はなぜ、ここにいる?)

 自分は連合軍のアーマードフレームAFと戦っていた。そして、『白い悪魔』と呼ばれる機体と遭遇して――なす術なく撃破された。


(撃破……された?)


 そうだった。確かに自分の機体は破壊された。鼓膜が破れるかのような激しい爆発音と、ハレーションを起こすほどの閃光を覚えている。


(なのに、ボクはどうして生きている?)


 いや、生きている――のかはあやしい。この状態、とても普通ではない。いわゆる、死後の世界なのだろうか? ただ、意識ははっきりしている。誰かの声も聞こえた。


(そうだ、声だ! あの声は⁉)


『軍神様、どうかお目覚めください』

 また少女の声が聞こえる。今度はハッキリとわかった。となれば、当然の疑問が湧いてくる。


「キミは、誰?」

 そうたずねた。すると――


『おお! 軍神様! お目覚めになられましたか!」

 それまで、悲痛なささやきに聞こえた声――そのテンションが急に上がる。タケトは少し面食らった。いや、今はそれよりも――


「グンシンって……ボクはタケト――タケト・カミカワだけど」

 とりあえず、そう応えた。


『――そうですか。軍神様はタケト様というのですね?』

 ……まあいいか、と考える。


「それよりもここはどこなの?」

『タケト様は今、巨神の体内におられます』

「――えっ?」


 きょしんのたいない?


 いったい、どういう意味だ?


『今から、巨神へを送ります。少しお待ちください』


 マナ? 送る?

 さっきから、彼女は何を言っている?


 数秒後、その意味がわかった。

 突然、タケトの前に明かりが灯る。それも眩いばかりの光が――


「な、なんなんだぁ⁉」


 それだけでない。様々な電子音が聞こえ、いくつか計測器のようなモノが動き出した。


 そして、座席を確認する。

「これって……」


 これと類似したモノにタケトはさきほどまで座っていた。つまり――

「AFのコックピット――?」


 いままで操縦していた、宇宙移民解放軍のアーマードフレームAF、ザブルグのコックピットとはすこしイメージが異なる。しかし、座席とつながった両手のレバー、両足のペダル――つまり、AFを操縦するための装置がすべて存在していた。


 AFのコックピットであるなら、正面、左右に大型のモニターがあり、外の状況が映し出されるはずだ。ただし、今は黒一色――

(外は? 外はどうなっている?)


『どうですか? 動けますか?』

 また、少女の声だ。動ける? 動かすということ?


 これが、AFのコックピットで、同じ操作方法なら動かせるだろう。


「やってみる」


 左下方に見える『姿勢状態』のモニタによると、この機体はことになっている。それなら、まず、立ち上がることから始めなければならない。


 タケトは両手のレバーを引き上げ、両足のペダルを踏みこみ、立ち上がる操作をする。

 カラダがググッと上昇する。同時に、ゴォォォォッ‼ という大きな地響きが聞こえた。


『きゃあ!』

 少女の悲鳴だ。


「どうした⁉」

 タケトが声をかけると――


『大きな岩か降ってきました!』

「――えっ?」

『でも大丈夫です。そのまま、立ち上がってください』


 言われるがまま、タケトは操作を続ける。すると、前方のモニターに外の景色が映し出されてきた。左右、後方の映像も現れる。


「これは……」

 下を見ると、大きな黄土色の岩が転がっていた。今も『機体』から土ぼこりが降りそそいでる。


『おお! なんと美しい巨神なんでしょう! まるで紅玉のようです!』

 そう、少女の興奮した声が聞こえてきた。


「こうぎょく――?」

 両手のレバーを押し出す。すると、この機体の両腕が正面のモニターに映し出された。


 確かに紅玉ルビーのように輝く真っ赤な腕だった。

 マニピュレーター部分は黒色だが、解放軍のAFと同じ五本の指。レバーを強く握ったり、緩めたりすると、マニピュレーターが閉じだり、開いたりする。それをモニターを通して、確認した。


「どうやら、操作方法はザブルグとまったく同じだ――」

 つまり、自分はこの機体を動かせる――


『タケト様、いかがしました?』

 また少女の声が聞こえた。


「そうだ。キミはどこにいる?」

『私は、あなたの左手にいます』


 そう言われて、タケトは左のモニターを見る。少し小高い丘の上に、ギリシャ神殿のような石造りの建造物があった。その周りに数人の人影た見える。


 視線で、人がいる部分を切り取るとズームアップする。そういった機能も解放軍のAFと同じだ。


 拡大した部分の中央に、純白の修道服を纏った少女がこちらを向いていた。白銀の髪、大きな青い瞳の少女――


「この声はキミか?」

「はい。私はナタリア・ペテグリーニと申します」

 声に合わせて、少女の口が動いた。


『タケト様――今、敵がこの町へ向かってきております。どうか、で町をお守りください』


「巨神、グーム? 町を……守る?」

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