第10話 形見 【Chats】

か、怪盗……!?


「帰りながら話そうか。家はどっち?」


「えっと、こっちです、けど……」


「わかった。誘拐未遂が近所にあったから途中まで送るよ」


「……えっ」


そもそも本当に、この人を信用して良い、のかな。

怪盗だって言ってたけど、私を騙してるとかないよね。


「まだ俺を信用できない?」


朝倉さんは参った、というような表情になる。


「……本当に、信用して良いんですか」


私は朝倉さんの目を見る。

優しそうな目。

そこに嘘は見えない。


「ああ」


「じゃあ信じます」


「そうか。いやあ、まさか君とここで会うとはなぁ」


まるで緊張が解けたかのように話すだす朝倉さん。


「住宅街なのであまり大きい声で話さないでください。いつ誰が聞いてるのかわからないので」


「ああ、そうだね。でも良かった。君が元気そうで」


何なんだろう、この人。

まるで会ったことがあるかのように話してくる。

私の記憶の中ではこの人とは会ったことがないはず、とはいえ私は記憶がない。

もしかしたらマフィアになる前に会ったことがあるのかもしれない。


「それで、怪盗というのは……」


「ああ。俺の家は代々義賊の家系でね。昔から盗品を回収して、元の持ち主に返してるのさ」


朝倉さんは声を小さくして言う。


へえ……義賊、か。


「まあ、俺も歳だし今はナビ担当なんだけどね」


「な、ナビ、ですか?」


「主に作戦を考えたり、実行役に指示したり。そのためにはこのパソコンがいるんだよ」


ああ、そりゃひったくられたら大変だ。

大事なデータもあるだろうし。


て、てか、怪盗のナビ担当ってすごい人、だよね。


「あれ……怪盗……?も、もしかして、怪盗 シャ・ノワールの……」


「正解。実行役は彼だ。フランスで鍛えた甲斐があるよ」


「ふ、フランスで……?」


「そう。俺がヨーロッパにいたのはそのためでもあったんだ。俺らの先祖はフランス人で、義賊を始めたのもフランスだからね。良い訓練場所があるんだよ」


「そ、そうなんですね……」


何だかすごい人と話してる気がする。

助けて良かった。


「あの、怪盗 シャ・ノワールって一体……?」


「内緒。君が仲間になってくれるなら教えてあげるけど」


そ、それって、私が怪盗になる、ってこと……!?

無理、無理だよ!!


「絶対になりません」


「あはは。それにしても、君はすごいよね。判断力、行動力。もしかして武道もやってた?」


「はい。訓練していました」


厳しかったな、ような。

痣もいっぱいできたし、辛かった気がする。


「そうか。もったいないな、そんなすごい力を発揮できないなんて」


そうぽつりとつぶやいた。


「えっと、それはどういう……?」


朝倉さんは真剣な瞳で私を見る。



「相月さん。俺らの仲間になってくれない?」



「……えっ……!?」


そ、それはつまり、さっきと同じ、私が怪盗になるってこと、だよね。

さすがにそれは冗談、ですよね……?


「俺は本気だよ。ぜひ君に協力して欲しいんだ」


「そ、そんなの私に無理ですよ!」


「大丈夫。僕とで君を守る。俺たちには不可能なことなんてないんだ」


「で、でも……!」


「YURI」


「えっ?」


「YURI。君は知っているだろう」


「は、はい。私の、祖母ですけど」


「彼女の作品がいくつか盗品として出回っていてね。本来なら持ち主がいるんだけど、誰かが盗んであり得ない値段で売っては儲けるを繰り返している」


な、何、それ……

ユリおばあちゃんの作品が、何で……!


「君はこれについてどう思う?出回っているのはYURIの作品だけでない。他の有名なジュエルデザイナーの作品もだ。俺たちの祖先も実は宝石彫刻師で、『コレクション』と呼ばれるくらい素晴らしい物もあったんだけど、それが昔、全部盗まれてしまったんだ。俺たちが1番探しているのは『コレクション』。俺たちの、大事な家宝なんだ」


「……どうして、そんなことが……」


「カネ目的。全員カネしか見てない。人を傷つけ、殺めてでも盗んで儲かることしか頭にないんだ」


どこかで聞いたこと、ある。

私がいた組織もそんなことをしていた気が、する。

……許せない。



ユリおばあちゃんの作品がそんなことになってるなんて、許せない。



「だから君の力が必要なんだ。僕らだけの力や知識だけでは取り返せない」


いつの間にか、家に着いていた。


「でも……危険だと思います。許せない、ですけど」


「それが俺との役目でもある。俺たちがそんなこと、絶対にさせない。約束する」


さっきまで優しい色だったのに今は真剣で、奥に強い光が見える。

その途端元の優しい瞳に戻った。


「急にごめんね。ゆっくり考えて欲しい。答えが見つかった時はこれに連絡してくれたら嬉しい」


そう言って紙1枚を渡す。

連絡先が書かれてる。


「それじゃあ。会えて良かったよ。連絡はいつでも良いよ」


「あ、待っ、」


いつの間にか朝倉さんはいなくなっていた。

ど、どこに行ったの……?


不思議な人、だな。


紙をカバンのポケットに入れて家に入る。


「ただいま」


靴を脱いでリビングに行く。

お母さんがソファで居眠りをしていた。


「あれ」


リビングのテーブルに白い箱がある。

何だろう、これ。

アクセサリーとか入れてたのかな。


蓋を開けると空っぽだった。

あ、でも、小さい紙が入ってる。


「Happy Birthday Yui……Yuri」


Yuiって、お母さんのことだ。

ということは、最後のYuriはユリおばあちゃんのことだ!


「……あら、結愛、おかえり」


お母さんが目を覚ました。


「あ、た、ただいま。その、勝手に見てしまって……」


「いいのよ」


箱を見た瞬間、お母さんの瞳が暗くなった。


「お母、さん……?どうかしたの?」


なぜか声が震えた。


「実はこれ、母からの誕生日プレゼントが入っていたの。ピンクダイヤモンドを使った桜型のネックレスが。ほら、私4月生まれでしょう?」


「あ……たしかに、4月の誕生石はダイヤモンドだし、4月は桜だもんね」


すごくデザインのセンスが良いし、使う宝石もぴったりだ。

見てみたいな。


「でも、8年前だったかしら。家族の集まりでそれをつけて行ったらいつの間にかなくなっていたの」


「えっ……?」


お母さんの実家、実はすごい家系でよく家族と集まったりするんだって。

元の名字は……何だっけ。


「行った家にもこの家を探しても見つからなかったから警察に捜索届を出したの。それでも見つからなくて捜査は放置されたみたいで……」


「そ、そんな……」


そんな大切なものを無くしたらそりゃショックだし、しかも8年前。

放置されるなんて、ひどすぎる。


その時、朝倉さんの言葉を思い出した。



『人を傷つけ、殺めてでも盗んで儲かることしか頭にないんだ』



いや……まさか、だよね。

そんなことない、よね。



誰かが盗んで、どこかで出回ってるなんてこと、ない……よね?

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怪盗仔猫 VS わんわん警察 陽菜花 @hn0612

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