第12話

カタクリは少しして戻ってきた。

そして私の手元を見た。

「アンズ、それ、、、、」

「渡り廊下の戸の鍵を探していたら見付けて、、、」

口数が少ない。会話が続かない。カタクリの目をまともに見れない。喉が乾く。

「カタクリ、、、、マヨイさんの夫さんってもしかして、、、あの男性?」

「、、、、そうだよ」私の目の前に座り、諦めたように言った。

「マヨイさんの娘さんは死んじゃったの、、、、?」自分でも声が震えているのが分かる。

足を踏み込むべきではない。足を踏み込めばもう戻ることは叶わない。危険を知らせる音が頭の中で鳴り響いている。

「、、、、」

両者無言。しばらくして口を開いたのはカタクリだった。

「今も元気に生きてるよ」申し訳なさそうに微笑んで私を見る。

どうして私を見るの?ねぇ、カタクリ、、、、もしかしてその娘さんは私とかではないよね?娘さんが三月二十一日に生まれたなら、私と同じだけど、、、、そんなの偶然だよね?

「全てを知る覚悟はあるか?」

「え、、、、」

ずっと知りたかったこと。私に関してのこと。カタクリが隠してきたこと。知りたい、でも、知ってしまったらどうなるの?

「知りたいなら教えよう」

カタクリは本気だ。だったら私も覚悟を決めなくてはいけない。私は、、、、私は、、、、

「知り、、、たい」

「そうか」

ずっと知りたかった真実。この機会を逃せばもう聞けないだろう。

「昔、マヨイという生き神がいた。マヨイは元々、村に住んでいた娘で夫がいた。生き神になってからも交流は続き、何時しかマヨイの腹には赤ん坊が宿っていた」

話を聞きながら考える。

「赤ん坊は無事産まれたが、男は生き神を汚した罪悪感と申し訳なさで、赤ん坊の顔を見ずに走り去ったんだ。そしてマヨイは体が耐えれなかったんだろうな、赤ん坊を産んで亡くなった、、、」

カタクリは全て見てきたかのような話し振りだった。少し前に言っていた月峰神のことも知っている気がする。

「オレはマヨイと約束したんだ。このことは前に言っただろう?そして、マヨイの子供なのが、、、アンズ、お前だよ」

、、、、、、、、、、。

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、えっ?

「知らないよ。そんなの少しも、、、」

マヨイさんが私のお母さん?そんな夢物語みたいな話ある訳、、、、、、でも全て辻褄が合う。

私に両親がいないのも、私が此処で住んでいるのも、、、全て。

ならカタクリは?カタクリも私とあまり年齢は変わらないはずだし、見た目だけなら十八歳ぐらい、、、もしかしてカタクリと私は兄妹とか?そんな考えは次の言葉で消え失せた。

「オレは月峰神だよ」

「!?」

理解が出来なかった。ずっと一緒にいたのに気が付かなかった。なら私はずっとカタクリに迷惑をかけていたんだ、、、。

今、頭の中にあるのは謝罪の言葉。

「よーしよしよし」

カタクリはいつの間にか涙を流していた私を抱きしめてくれている。温かい、、、。

「うっ、あっ、、、ごめっ、、、ごめん」

今までの十五年間、何度もカタクリに聞いた。『何で私には親がいないの?』って何度も聞いた。カタクリはいつも答えにくそうにしていた。きっと思い出したくないはずなのに、、、、、、。

「アンズは何も悪くない。子供は一度抱いた疑問は納得するまで知りたがるんだ。落ち着くまで泣くと良い」

背中をさすってくれるが涙が溢れるばかりで止まってくれない。

カタクリは私の育ての親として一生懸命育ててくれた。そこにきっと恋愛的な感情はない。ただ約束したから育てている、ただそれだけ、、、。

そう理解すると今までカタクリに抱いていた感情も意味がなくなる、、、?

十五年間、カタクリに一度も言えなかった『好き』を伝えることはもうないだろう。

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