第10話
目の前には紙と筆がある。
それを文机の上に置いて凝視する。あの男性に手紙を書こうと思ったのだが、何を書けば良いんだろう。
カタクリは男性が持って来た栗を剥いて食べている。美味しそう、、、、私も食べたい。
「ねぇ、カタクリ。何を書けば良い?」書く内容が思い浮かばないのでカタクリに助けを求める。カタクリは剥いていた栗を一旦置き、
橘を手に取り、頭を捻る。これを送れという意味なんだろうか。
「オレもあの男に手紙を出そう。墨壺の中身は?」
「ない!」さっき開けてみたが中身は空っぽだった。
カタクリは部屋を見渡した後、自分の手に目を向けた。
、、、、自分の血で書く、と言い出しそうだ。
「替え用の墨、探すよ」
「そうか」
何処に置いたかな、、、と記憶を辿るが全く思い出せない。
「棚の上に茶色の箱に詰めて保管していたんじゃないか?」
「あ、、、」
棚の上に置いてあった箱をカタクリに取ってもらい、箱を開けると替え用の墨が入っていた。違い棚なら取れるが、棚は高いところに設置されているので私では届かない。
「良かった〜。これで書ける」
「どうせなら、男を困らせるか」悪戯っぽそうに口元がニヤけているカタクリ。
橘を見る。短剣で傷を付けて果汁を墨壺に絞る。
「覚えていたんだな」
幼い頃、橘の実を使って紙に絵や文字を書き、それを私が当てるという遊びをしていた。書かれた文字や絵は透明になって、浮かび上がらせれるまで見ることはできない。
「楽しかったね〜!」
「オレはお前が紙ごと自分を燃やしてしまいそうで、肝を冷やしたよ」
カタクリが肝を冷やすって、幼い頃の私はそんなに使い方が危なかったのかな?
「それだけじゃない。桜の木に登って落ちそうになった時とか、沢で転けた時とか、、、、」全て心当たりがある。そして全てカタクリに助けられてお説教。
少し前、社の裏手にある沢で転んで翌日に風邪を引いた。治るまで看病をしてくれたが、治ると一時間近くまでお説教された挙げ句に「しばらく沢に行く時はオレに言うように」と忠告を受けた。
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