第9話
アンズを眠らせ、オレは夜風にあたり頭を冷やす。
言い過ぎたと後悔したが、アンズが何も知らないまま生きてくれるなら後悔なんてないのと同じだ。
この十五年間、ずっとあの子の側で育ての親として、友達として見守ってきた。それでも、あの子の心に空いた孤独はきっとオレでは埋めることは出来ない。
アンズは何も知らない。産みの親だって顔も覚えていないだろう。それにオレだって、アンズに話していないことは沢山ある。
誰も悪くないだろう。それは分かっているし理解している。
好きだからこそ、悲しませたくないのだ。守りたいのだ。
あの笑顔を守れるのなら、オレはどんな非道なことも出来るだろう。
初めて赤子のアンズをこの手に抱き上げた時のことは昨日のように覚えている。少しでも力強く握れば簡単に捻り潰せてしまいそうな人の子。
オレだって、本人が望むなら父親に会わせてやりたい。それでも、アンズを一度捨てた奴は許せないし、彼奴は正直言って嫌いだ。
何時か、隠していたこと全てを話せる時が来るのだろうか。
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