モノクロに色がついた時、私は世界の尊さを知った。

たい焼き。

君に出逢えて良かった

 子どもの頃から、とにかくドン臭くて両親に怒られたり呆れられたりしてきた。


敏子としこ、早くしなさい」

「いつまでソレやってるの」


 注意されない日はなかったし、私の親は人前でも平気で私をこき下ろしていたせいか周りの大人にも何かと言われることが多かった。


「内村さんちの敏子ちゃんは、いつもマイペースねぇ」

「お母さんはハキハキしてるけど、敏子ちゃんは似なかったわね〜」


「そうなのよ、ホントうちの子ったら……」



 苦しい。

 私をこき下ろす為に話の中心に持ってこないで。

 耳を塞ぎたい。


 何度も声に出したかったけど、なぜか喉から先に声が出てくれなかった。

 私は「嫌だ」という意思表示すらできない意気地なしだ。


 そんな自分に私自身も嫌気がさして、失敗する度に心の中で自分を責めた。




 そんな毎日を送っていたら、世界から色が消えた。


 当たり障りなく、ただただ世界の片隅でひっそりと生きる。

 そうすれば、誰にも迷惑をかけない。迷惑をかけなければ、人から文句を言われたり蔑まされたりもしない。


 私の一生はずっと色のない世界で終えるんだ。

 よくある来世に期待、ってヤツ。



 それなのに、まさか私の世界に色がつく日がくるとは思わなかった。


 むにっとしっとりした感触が優しく手の甲に伝わる。


「にゃぁん」

「ん〜?ミーコどしたー?」


 ミーコは一度短く鳴いたあとは何を言うでもなく、じっと私の目を覗き込む。

 まっすぐこちらに向けてくる目は、黒く潤んでいて私を心配しているようだった。

 ぼんやりと昔を思い出していたら、ミーコに心配されてしまったみたい。


「ミーコ、心配してくれてる?」

「んなぁお」


 肯定とも否定とも取れない声で返されたけど、部屋の隅っこでボーッとしていた私のそばから離れずに丸まっている姿を見ると、心配してくれているのかな、と少し心が温かくなる。


 このアパートに、ミーコに出逢えて本当に良かったと思う。

 ミーコと話が出来るわけじゃないけど、それがかえってお互いの行動が表面上じゃないのがわかっていいなと思う。


 私を決してこき下ろさない。

 私ももちろんミーコを酷く扱ったりなどしない。


 これからもミーコと世界の片隅でささやかな幸せを噛み締めながら、慎ましく生きていきたい。




「あ。あの時の店員さんにミーコの写真見せた方がいいのかな」

「んな?」


 私の独り言にミーコが上目遣いでポーズを決めてくれた。

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モノクロに色がついた時、私は世界の尊さを知った。 たい焼き。 @natsu8u

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