第49話 じわじわと崩壊し始めた人間国に笑みを零し、ドワーフ王には溜息が出る

勇者達がそんな事を言い合っているなど全く気にも留めていないアタシは、いつも通りの日常を送りつつ、人間共の冒険者ギルドも確認をしていた。

冒険者を多くこの魔王領のダンジョンに送り付けた冒険者ギルドと国。

そのおかげで、魔物たちによる被害は広がって行っており、甚大な被害が出た村もあるようだ。



「いい傾向だね」

「頼りの冒険者は魔王領のダンジョンにいますからね。低レベルの冒険者に駆除を頼もうにもレベルが足りない……。いい感じに被害が拡大しています」

「ダンジョンはどうだい?」

「こちらも同じですね、適正レベルが足りない冒険者を投入する訳にはいきませんから」

「これからジワジワとだよ……ヒヒヒ」



こうやってジワジワと国を追い込んでいるが、まだ大きな波にはなっていない。

これが大きな津波となった時に、国は亡びるんだ。例え勇者がいたとしてもね……。

たった一人の勇者如きでは国を守り切ることは出来ないのを理解するがいいさ。

魔王との和平を拒んだんだ。そのツケってのは来るもんだよ? ヒヒヒ。


国中に沢山いた中レベルから高レベルの殆どがこの魔王領のダンジョンで【活動】している。

戻るように言ってもどうしようもできない。

さてさて、どうなるかねぇ?

楽しみで仕方ないよ。


戻ったとしてもドルの町に戻って金策だろうし、ドルの町でも視察にいくかねぇ?

支店なんて出しはしないが、今あのドルの町が一番活気づいているだろう。

行きたいが――。



「ドワーフ王からドワーフ王国に拠点を作らないかと言う提案が来てるんだよねぇ」

「曾婆様随分と気に入られましたね」

「そうなんだよ……。アタシは未亡人だっていうのにねぇ?」

「多分そこがまたドワーフ王にとってはそそるんでしょうね」

「やだねぇ。104歳のババア捕まえて何が楽しいんだか」

「見た目が40代ですからね……いつまでも若い妻を持ちたいという者はいるでしょう。再婚は考えないんですか?」

「何言ってるんだい。考えやしないよ」



そう呆れ笑いしながら答えると、カナデも「そうでしょうねぇ」と呟きつつ、小さく「曾爺様が好きですもんね?」と言われ、「まぁ、あの人とは別居婚していたが、悪い爺様ではなかったよ」と答えると苦笑いされた。



「曾婆様が男性に求めるものとはどういうものです?」

「男性に求めるもの? 健康だね」

「健康ですか」

「人の人生、健康があってこそ色々成り立つんだよ。病弱な男よりは健康な男の方がいいだろう?」

「ささやかな求めるものですね」

「年とりゃね、嫌でも色々出てくんだよ。人間40超えれば特にね」



そういって溜息を吐くと、「その中で104歳生きている曾婆様は凄いですね」と言われ「馬鹿にするんじゃないよ」と告げると苦笑いしていた。

だが、実際アタシが夫に求めたのは『健康』だったのは確かだ。

70そこらで死んじまって……全く馬鹿な男だよ。

酒だってね、一人で飲んでもつまらないんだよ。



「ま、アタシは年寄り連中と飲んだ方が気が楽だね」

「ドワーフ王はお可哀そうに」

「再婚はしないって言ってるだろう?」

「ドワーフ王はだいぶ本気みたいですが」

「やだねぇ。タイプじゃないよ」

「曾爺様がタイプなんですよね?」

「馬鹿言うんじゃないよ」

「ふふふ」



嬉しそうに笑う曾孫にどことなく夫の姿が重なって見えるのは、やはり血筋かねぇ。



「いいかいカナデ。一度操を立てた相手を裏切ることをアタシはしない。それが大正生まれのアタシの意地で誇りだよ」

「ご立派な考えです」

「だから、アタシの夫はあんなんでも曾爺様だけでいいのさ」

「曾爺様、曾婆様をいつも守ってたそうですもんね」

「ハッ! 守って貰わないといけないような女じゃないってのが分かんない男だったねぇ!」

「全くですね!!」



そういって笑う曾孫の頭を小突き、アタシはドワーフ王に返事を書く。

再度愛を乞われても、一度操を立てた相手を裏切る真似は一切しない事。

それが自分の意地であり誇りである事。

酒飲み友達ならまだしも、それ以上は求めるなと言う内容で手紙を返したが、その後もドワーフ王は諦める事はなかったのは言う迄もないね。

全く、困った坊やだよ。


それより、飢饉が起きている筈だが大丈夫なのかと手紙でやり取りすると、人工栽培が完成していて国の民が飢えない程度に何とかなっているらしく、ホッと安堵の息を吐く。

知り合いの国が大変っていうのは嫌だからねぇ。

無論、人間の国はどうなろうとしったことじゃないが。



「それはそうと、第三層はどうだい?」

「人数は増えていると思います。必死にポイントを貯めてやってきた場所は娼館だらけのパラダイス。男女共にのめり込んでますよ」

「そいつは僥倖」

「ショッピングモールを作ったのも大きいですね。理性を緩くする香のお陰でドンドン商品が売れてますし、女性だと化粧品に群がるとか」

「ははは! そいつはいいねぇ! 一階の化粧品売り場は小さいからねぇ」



そういって笑うと、群がっているのは人間だけじゃなくサキュバスやインキュバスもだというのだから笑っちまう。

美への追及は男女ともに変わりがないのかもしれないねぇ。



「さて、アタシも次に動くべく――」

「失礼します! 大変です魔王様!!」



そういって扉を開けて入ってきたのはモーダンで、何事かとアタシとカナデが立ち上がると――。



「人間の国王から書状が届いて……」

「へぇ……。なんて書いてあったんだい?」

「キヌマートを人間の国にもとの要請です」

「ハッ! 御断りの手紙を書こうかね」

「宜しいので?」

「魔王との契約で人間の国には出さない契約になっていると返すさ」



そういうとアタシは書状への返事を返し、キッパリとお断りの手紙を書いた数日後――。人間の国の王の使者というものたちが押し寄せ、キヌマートのアタシとの面会を希望していたが、全て突っぱねた。


そして、冒険者たちが攻略をしている訳ではなく、楽しそうに過ごしている姿に驚愕した使者たちは、この事を王家に持って帰る事になるのだが――その時はすでに遅し。



――冒険者の殆どが、ダンジョンの中毒性に掛かっていて、元の生活に戻ることは不可能になっていたのだった。




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