第50話 それは、穏やかな崩壊

――カナデside――



それは、緩やかな崩壊。

前魔王と和平を結んでいれさえすれば起こりえなかった事。

その報いを、人間たちは徐々に受けていく。

当然冒険者不足に陥った村や町は国に魔物を倒す依頼を出す。

最初こそは出せていた。

困っていれば手を差し伸べる事が出来ていた。


――だが、ある日気づく。

国庫が劇的に減っていることに。


それが何を意味するのか、瞬時には理解が出来ないだろう。

勇者や魔法使いが使い切れるだけの額ではないと思う事だろう。

だが、事実勇者や魔法使いが国庫を食い荒らしているのには変わりはなく、城は荒れる。

誰が、どこの部署が使ったのか。

片っ端から探し出すようになるだろう。

それでも、どこからもそんなものは出てこない。

お互いを睨み合ってギスギスしていたのに、お互いで無かったとしって気まずくなるだろう。


――そして気づいた時には更に国庫は食い荒らされていて……。

その相手が勇者だと気づいた時、どうなるでしょうね?

更にその頃になれば被害は甚大となり、最早取り返しがつかない。



「カナデ君楽しそうね」

「ええ、これからの事を考えると、大変楽しいですね」

「人間の国の事?」

「ええ、前魔王様と和平さえ結んでいれば、曾婆様もここまでエグイ事をなさらなかったでしょうに」

「確実に、そして気づかれにくいやり方だものね」

「和平交渉に持ってくるかしら……」



そう不安げに口にしたのはピアだった。

曾婆様のことだ、恐らく和平交渉の場には行かないだろう。

仮に行ったとしても、同行者に俺は入るだろうし、それプラス誰かを連れて行くだろう。

だが、既に一度裏切って全魔王を殺した人間共の言う事を信用しろと言う方が無理な話だ。

交渉の場に何を持ってこさせるのか……。



「それより、勇者が急にカナデ様に対して謝罪して来るのが気持ち悪いですわ!」

「それはそうね……。何か下心があるのよ」

「ああ、曾婆様に惚れ込んだそうですよ。勇者と言う責務よりも曾婆様の傍に来られるように便宜を図ってほしいと言われました」

「「うわぁ……」」



そう、あれからキョウスケからは只管謝罪の言葉を投げかけられている。

隣のユキコも俺のブランドを聞いたりと煩いったらない。

俺がそれだけ自分で稼いでいると理解しているのだろう。女は目ざとい。

だが、あんな下品な女を俺が相手するとでも思っているのだろうか?

ピアにも劣る外見。性格は全く好みでも何でもない、どちらかと言えば一切お近づきにすらなりたくない性格をしている。

ミツリはまだしも、ユキコは無い。

アレこそ勇者の相手に相応しいだろう。



「まぁ、まだまだ面白い段階に行くには時間が掛かるでしょう」



鏡を見るに、まだ国庫が減っている事には気づいていない様子。

呑気なものだな。

勇者が国庫を食い尽くす害虫に成り代わっているというのに、勇者としての責務を放棄しているというのに。



「そう言えばまた10組の冒険者が第三層にたどり着いていたわ」

「今回は多めに入りましたね」

「そこに、ドルの町の冒険者ギルドマスターのドナさんがいたの」

「ギルドマスター……」

「調査だと言っていたわ。彼は危険ね」

「誘惑にも効きそうにないんですの?」

「どうかしら……しばらく様子を見るわ」



どうやらドルの町の冒険者ギルドマスターが来ていたようだ。

確かに精神力は凄いものがあるだろう。

中毒性になっていないのだとしたら相当だ。

曾婆様に話を通しておくべきでしょうね。



「ミツリはそのままドルとかいう男のチェックを怠らないように」

「はい!」

「俺はこの話を曾婆様に持っていきます」

「私も行きますわ!」



こうして二手に分かれると、ミツリは三階へ、俺とピアは曾婆様の元へと向かった。

しかし、運悪く先ほど「貸しにしていいので是非拠点を作ってほしい」とまでドワーフ王に懇願された曾婆様はドワーフ王国に出立したばかりで、ドナと言うギルの冒険者ギルドマスターの話をすることが出来なかった。



「モーダン、確認したいんだが」

「何で御座いましょう」

「4層の守りは強いとは思うが、ボスはタリスから分裂したモリスだけか?」



――そう、あれからタリスから分裂して、モリスというレジェンドスライムが誕生している。

曾婆様に特に懐いており、従魔契約も行ったモリスの大好物は飴玉だった。

そのモリスだが、第四層のボスなのだが……。



「現在、自分たちは暇になったからと、トリス様とタリス様も第四層の守護神として日々過ごしておられます」

「……そうか」

「レジェンドスライム3匹に襲われて生きている人間がいるとしたら、生きている間に見てみたいものですな」

「それもそうだな」



どうやら心配は杞憂に終わった。

ホッと安堵の息を吐いて魔王城から下の階層の様子を見れる水晶に触る。

曾婆様と俺だけが使える水晶の一つだ。

魔王城やダンジョン内しか見る事は出来ないが、あのドルと言う男がどんな感じなのか知りたかった。

禿げた頭に濃い髭の男が映し出され、魔王城カードを見るにこの男がドルらしい。

ステータスを見るに、若干の中毒性にはかかっている様だ。

そして、第三層の香りに既に脳が半分やられている。

ステータス異常に『気つけ薬中毒』とある為、何とか堕落せず済んで居たのだろうが、その気つけ薬も最早意味がない。

何とか三層まで来れたようだが――後は堕ちるだけだろう。



「本当に杞憂でしたね」

「どうかなさいましたか」

「ええ、どうやら骨のある冒険者がいたようですが、それも杞憂に終わりそうです」

「そうでしたか。まぁ第四層に行けたとしても、あの三匹を相手に生き残れる冒険者がいるとは思いませんが」

「全くもってその通りですね」



こうして水晶を止めてモーダンとその後少し会話をしたが、ドワーフ王には困ったものだと語るモーダンに俺は苦笑いをしながら「何の心配もいらないよ。キヌ様は夫であった方が大好きだからね」と言うとホッとしていた。

泣き虫なのにいざという時は強くて、命を張って迄キヌ曾婆ちゃんを守り通したという曾爺様。

曾婆様と仲の悪かった曾爺様のお母さんとの問題で、家を捨てた曾爺様。

本家の跡継ぎだった曾爺様にとって、それはどれほどの覚悟があっての事だろうか。

大正生まれで、明治のあの時代――余程の覚悟がないと出来ない事だろう。



「俺はね、曾爺様程、曾婆様を守れる男はいないと思っているよ」

「そうですか……」



だから、曾婆様は結婚指輪を必ず手放さない。

別居婚していても、外している所を見たことがない。

アレは、曾婆様の覚悟なのだ。

――唯一、曾爺様だけを愛するという証なのだ。


だからドワーフ王よ、何を言っても無駄だよ。

曾婆様の心を動かしたいなら、それ相応の覚悟と働きを見せないとね?

曾爺様を超えられるかな??




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