第48話 勇者は魔王キヌに心を奪われる

――勇者キョウスケside――



それからもカナデの事はよく目に入った。

俺の方が何倍もイケてる男だっていうのに、勇者だっていうのに、冒険者達や魔族たちから『カナデ様』と呼ばれて笑顔で仕事をしている奴が気に入らなかった。

強い護衛が二人もついて、あんな美少女を婚約者に添えて……畜生、畜生が!!



「おいカナデ、昔のよしみなんだからコンビニの商品安くしろよ。高すぎんだよ」

「この世界では適正価格ですよ」

「俺とユキコだけでも日本の値段にしろって言ってんだよ!!」

「出来る訳ないでしょう。文句を言うならコンビニを出入り禁止にしますよ」

「な!!」



それだけ言うとゴミを見る目で俺を見てから去っていった……。

あの野郎っ!! 俺を、この勇者の俺を……っ! ゴミを見る目で!!!



「ふざけやがって!! 何がカナデ様だ!! 奴隷だった癖によ!!」

「何だとお前……」

「カナデ様を奴隷にしてたってのか? 屑かお前、屑なんだろ」

「な、なんだよ……」



俺の言葉に周囲の休んでいた冒険者たちが近寄ってきた。

質の悪いチンピラみたいで思わず後ずさると、バン!! と壁ドンされてビクリと体が撥ねた。



「このダンジョンではな、キヌ様の血縁者であるカナデ様を馬鹿にすれば生きていけないんだよ……」

「そういや、勇者の屑野郎に無理やり奴隷にされてたって聞いたよな」

「お前その勇者か?」

「あ、いや、その」



詰め寄られて言葉が出てこない。

このダンジョンでは「勇者だぞ」と言っても無意味なことは嫌程理解している。

どうしたらいい!?

どうしたら切り抜けられる!?

そう思っていると――。



「およし~な。馬鹿は死んでも治らないんだから」



そんな色気のある声に耳がぞくりとして声のした方を見ると、年齢は言っているがとんでもない美女が立っていた。

顔を見ればカナデの血縁者だと分かる。

黒い艶やかな紙に黒い瞳、俺と同じ日本人だと分かる。

何よりその美貌だ。

豊満な胸にキュッとしまった腰、安産型のいい下半身はピッチリタイプのパンツをはいていてヒールの高い靴。

顔はカナデに近いが、小さな口はふっくらとしいてしゃぶりつきたくなる程の美貌の持ち主だった。



「「「キヌ様!」」」

「此奴には何を言っても無駄だよ。相手するだけ時間とポイントの無駄。いないものと思って放置しな」

「「「分かりました!!」」」



そういうと荒くれ共は俺から離れ、あまりの美しさに呆然としていると「助けてやったのにお礼も無しかい?」と鼻で笑われ慌てて頭を下げた。



「すすすす……すみません! 助かりました!」

「ハッ! ここでは勇者なんてゴミ屑だからね。死にたくなければ言葉使いには気を付けな」

「はい!!」



そういってビシッと背筋を伸ばして頭を下げていると、カナデの血縁者は鼻で笑って俺の前をカツカツとヒールを鳴らして去っていった。

――あんな美人見たことねぇ!!!!

カナデの血縁者でキヌマートのオーナーか!!

母親……? か?

母親にしては随分と若いぞ。

いや、そんなことはどうでもいい。

とんでもねぇ色気のある女だった……。

今まで出会ってきた美女の中でも群を抜いて美人だ!!

何より色気たっぷりの声は耳がゾクリとするほどのいい声だった。

色々経験してきた雰囲気のある大人の女だと理解すると、カナデが自分の血縁者を馬鹿にされて嫌な気分になったのが理解できた。


あんな美人を悪く言われたら嫌だろう。

あ――たまんねぇなぁ!!!!


あんな美人とお近づきになれたらどれだけ幸福だろうか!!

そう思っているとコンビニからあの美女が出てきてカツカツと歩きながら俺の前を去ろうとした。



「あの! カナデの血縁者だと聞いていますが!」

「あ゙?」

「カナデのお母さん? いや、お姉さんですか?」

「アンタに話す筋合いはないね」

「!」

「しっかり稼ぎな」

「また会えますか!?」

「会いたくもないねぇ」

「!?」

「だってそうだろう? 大事なカナデを奴隷に堕とした野郎の顔なんざ見たくもない」



それだけ吐き捨てるように言って去っていった美魔女に俺は呆然とした。

周囲の冒険者がクスクス笑っているが知った事じゃない。

ショックだった……。

あんな美女にあそこまで邪見に扱われ、毛嫌いされている行動をとった過去の自分。

それさえなければ、カナデをただの仲間にしていればあの美女とお近づきになれたのに、過去の自分は奴隷欲しさに生意気にモテるカナデを無理やり奴隷に堕とした。


当時に戻って自分を殴ってやりたい!!!

それさえしなければどれだけの幸福があったと思ってるんだ!!


フルフルと自分自身に怒りを感じていると、ユキコがゲーセンから出てきた。



「お待たせ~ってどうしたの?」

「カ!! カナデの血縁者に会った!! と、とんでもねぇ美魔女だった!!」

「へ~? カナデ君美形だもんね。相当美人だったんじゃない?」

「今までの女どもが霞むな……」

「そこまで?」

「畜生! なんで俺はカナデを奴隷になんてしちまったんだ!!」

「あははは! 今更後悔? バカみたい!」

「うるせぇ!!!」



命を助けられただけじゃなく、俺の事を毛嫌いされて……お礼を言っても、まるで俺には全く興味がない、むしろ心底嫌ってるあの態度。

あれが真逆だったらどれだけ良かったか……。



「これからカナデには喧嘩は売らねぇ」

「それがいいよ。カナデ君はキヌマートの、」

「そうじゃねぇ。カナデには許してもらう迄謝罪する」

「へ?」



カナデが許してくれたらあの美魔女も俺を許してくれるに違いない。

近くに置いてもらえるかもしれない!!

国の勇者? 勇者としての責務? 知った事か!!

それよりあの美魔女だ!!


俺の頭の中はあの【キヌ様】と呼ばれていた美魔女一色に染まっていた。

嗚呼……本当に過去の俺は……本当に……。



「そう言えば、今度は何時どこで会えるんだ」

「知らないわよ」

「今までカナデには何度も会ってるが、キヌ様に会うのは初めてだったぞ!」



そう憤っていると――。



「キヌ様の良さが屑でも分かったか」

「あの方は二階三階が持ち場らしいぜ。会えればラッキーな訳よ」

「一階はカナデ様に任せておられるからな」

「だな」

「二階三階……」

「ちょくちょく会うためにも稼がねぇとなぁ」

「休憩終わったら頑張って稼ごうぜ」

「おう!」



そういって冒険者たちは消えていった。



「俺達も稼ぐぞ!!」

「当たり前でしょ!」



こうして俺達も気合を入れなおすとスロットを回しに向かったのであった――。




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