第27話 大金の使い道

「さてと、せっかく来たのじゃ、港に寄ってからオークションにでも見にいくかのう。」


「港ってお魚市場のことですか。とても楽しみです。」

 王女であるキャロルは珍しい魚料理を食べることはあっても、それが売られている様子や庶民たちが買い物をしている姿をまじかで見たことがなかった。


 市場に着いたキャロルは、目の前に広がるいろいろな種類の魚や貝を見て回る。籠の中でガサガサ動き回る蟹と亀。壺の中でうねうねと動く蛸。水桶から飛び出してビタンビタンと跳ねる魚。見るものすべてが珍しく、時間が経つのも忘れてジィッーと見つめていた。


「なんじゃ。ほんとに初めてのようじゃな。」


「はい、お話には聞いていましたけど、生きているのですね。」


 カグヤは木の棒を拾うと蟹のハサミにはさませて遊ぶ。


「挟んだ挟んだ。アハハハハハ。」

 キャロルは童心に帰って笑いころげていた。



 港を出てからゆっくり歩いて劇場に到着する。


 劇場内の歓声は劇場外にまで聞こえていた。

 席は満員で立ち見になると言われた。

 少し様子を見てすぐ帰るつもりだったので、名を名乗りそのまま中に入れてもらおうとしたら呼び止められ、帰りに必ず顔を出すよう念を押された。


 劇場の中に入ると熱狂に包まれていた。


 何が出品されているかわからないが、大金貨で一千から二千の値が付いて次々落札されていっているようだ。


「何がそんな高く付いているのかのう。」


『出品番号302番エリクサー、部位欠損も治る幻の完全ポーションです。』


 同時にたちまち値が上がり、大金貨1万まで吊り上げられていく。


「あるところにはあるのう。」


「他国の商人も来ていますものね。隣の大国からもたくさん来ているそうですよ。」

 テレサが説明する。


「この街はこの大陸の玄関口になっていますので・・・。」


「ここでは他国の通貨も使えるのかのう?」


「はい、金の含有量は決まっていますので、そこは他の国も従っています。昔、含有量を少なくした国がありまして、有力商人はすべて手を引き、その国では物価が高騰しました。

 さらに食料が不足しているのに他国に輸出するしかなくなり、国が貧乏になったところへ遊牧民の侵攻で滅ぼされた国もありました。

 都市に住んでいた者たちは、殺されたか奴隷として売られたようです。」

 


「愚かじゃな。」


「はい、愚王として名を残しています。」


 最後の出品物が終わったところで会場を出て事務所に顔を出すと、立派な応接室に通され待機するよう言われた。


 待たされている間、カグヤたちは今後の相談を始める。キャロルの従者やメイドたちが50人ほど付いてくるという話だった。


「ンー、そんなもんかのう。」


「護衛の数が少なすぎます。」


「護衛なら精霊たち、料理はブラウニーたちができるので大丈夫じゃ。」


「貧乏な貴族や騎士階級たちを雇い入れるというのもありますよ。」


「領地経営もあるし、気が利いて信用できる者がいるなら相応の報酬を払っても良いが、貴族たちとの折衝ができて、平民のセバス、メアリーの言うことを聞く者ではないと使えぬぞ。」


「お城に帰ったらお母様に相談してみます。」

 


「大変お待たせしました。」


 だいぶ時間が立ってからから事務員たちが大きな箱をいくつも持って入ってきた。


「ウム、もう清算できるのかの。」


「はい、額が大きいので早めにお渡ししようと思いまして、10%税を引いて大金貨20万枚ほどとなりました。箱に入っているのがそうですが、まだありますのでしばらくお待ちください。」


「こ、これ全部金貨なのですか!」


「ほうほう、これだけあれば大規模開発も可能じゃな。川下に綿花でも作るか。中流は水田地帯にして、上流は果物がよいかの。街の名をテミスと名づけすべての道をつなげるとして、フフフ。そうなるとインフラ整備を急がねばならぬか・・・。」


「それではお確かめください。」


 キャロルたちが唖然として見守る中、カグヤは箱の中身を確認してストレージに仕舞っていく。


「それだけあれば国中の貴族を買収することも可能ですね。」


「フフ、安心せよ。新しい街と土地の開発にすべて使う予定じゃ。新しい商品も出回ることになる。期待して良いぞ。」


「なるほど、それは楽しみですな。」


「そういえば、明日ここで音楽を演奏することになってしまったのじゃが、何か聞いておるかの。」


「はい、もともと明日の午後はバストル王子殿下の演奏会でしたが、急遽変更されたとお聞きしております。明日は、王の演説に始まり、軍の儀式、神殿の祝詞と教会のミサとコーラス。カグヤ様の演奏は午後からでございます。」


「あいわかった。食事してから昼前には来るのじゃ。」


「準備は大丈夫ですか? なんでも言ってください。折角開くのですから大成功に導きたいと思います。」


「特に必要もないが、早めに来て軽く演奏をはじめることぐらいかのう。観客も少なそうじゃ。演目も必要なかろう。」


「いえ、音楽などの芸術には特に造詣の深いバストル王子のご推薦です。目新しい物好きの貴族たちや他国のお客人も多くご来場されましょう。」


「そ、そうか。宣伝は無しでお願いするのじゃ。」


「皆楽しみにしております。よろしくお願いします。」


 カグヤは屋敷に戻るとクモガタや精霊ノームたちに手伝ってもらいながら庭の造園を始める。

 最初は精霊の祠を壁沿いに4つ作り防御結界を張り、屋敷の左右に二つ置いて屋敷を保護する結界を作る。

 扉のみだった入り口も大きな玄関の間を設けて立体的にし、馬車が2台は余裕で着けられるぐらいの広さにし、その上には屋根つきテラス風のバルコニーを設けた。


「フフフ、天気の良い日はお茶ができるの。」


 バルコニーから門を見て右に馬車置き場を広く取り、左に魔素を水に変換して噴水場にして庭園を造っていく。噴水の回りにはアーチ型のバラを侍らせ、ナンテンにフェイジョアに藤とハナミズキを植えてみた。


「なんでも採っておくものじゃのう。」


 ストレージからホイホイ出して魔法で土に穴を開けて植えていく。


 しばらく庭園作業に勤しんでいるとテレサが奴隷のガムラスを連れてくる。


「あっ、忘れてた。」


「それはないだろう。ボスには俺に食事を与える義務があるのだ。体も元気になったし仕事も割り振ってもらおうか。」


「オ、オウ、当分は屋敷の護衛じゃな。ときどき街に出て巡回しながら街の声を拾ってきてくれれば良いぞ。給金も出すし、暇なら様子を見て雑用を手伝ってくれてよい。」


「そんなことで良いのか?」


「フフ、ワシのことよりキャロル王女の護衛を主な任務と考えてもらってくれ。王女の護衛じゃからの、街の声も敏感に感じ取って集めてほしいのじゃ。場合によっては治安の維持に協力してくれても良いぞ。なにかあったらワシの名を出すのじゃ。」


「俺がおかしなことしたらどうする気だ。」


「そのときはそのときに考える。なにか仕出かしたときはそれなりの理由があるのであろう。全面的に信じておるぞ。」


「わかった、そう言われると悪い気はしない。期待に沿うよう努力はしよう。」


「ま、気楽にやってくれ、ワシも先のこと考えて行動しているわけではないのじゃ。厄介事が列を成してやってくるのを整理して処理しているだけなのじゃ。」


「あのう私もカグヤ様に着いているよう言われてきました。」

 テレサが恥ずかしそうに言う。


「そか、それは助かるのじゃ。とくに隠すことも無いでの。それと、テレサにも給金を出しても大丈夫か?」


「そうですか、定期的に軍に報告する義務はありますが特に問題はありません。」

 テレサはうれしそうだ。


「では二人とも、食事しながら部屋でも決めるかのう。」


 ブラウニーたちが食事を運んでくる。今日はシチューにサラダとパンと厚切りのハムとイカのゲソ焼きだ。カグヤはパンにジャムをたっぷり載せてレタスとハムを挟んで食べはじめる。ブラウニーたちも集まってきて一緒に食べ始める。


「ボスは使用人たちと一緒に食べても気にしないのか?」


「ウム、食べたくなったら好きに食えば良い。客がいるときだけ遠慮してくれればいい。そもそも精霊たちに食事は不要じゃがな。こいつらは食いたいときに食いたい物を勝手に作って食ってるだけじゃ。腹が減ったらブラウニーたちに言えば何か出してくれるぞ。」


「そうか、それはありがたいが、金は大丈夫なのか?」


「それは問題ない。足りなくなったら売るものはいくらでもあるのじゃ。」


「そういえば、クモガタと言いましたか? あれも精霊の一種なのですか?」


「あれはワシの魔力と回りの魔素を取り込んで動力としておる。

 複雑に動けるのは複雑に魔法陣を組み込んでいるからじゃ。個々に意志があるのは精霊の応用じゃな。

 思考の母体はワシの中にある。ワシに用があるときはクモガタに話しかければすぐ繋がるのじゃ。

 あれらは16体でひとつじゃ。各々の知識と経験は共有しておっての、ときどき混乱するのでよく観察していると面白いのじゃ。」


「エート、意志がカグヤ様と繋がっていると・・・。」


「そういう認識で大丈夫じゃ。」


 食事が終わると2階に大理石で作ったフロに入る。豊富にある魔石を使っているため流しっぱなしだ。ガムラスたちには1階の岩石で作ったフロを使用するよう伝えてある。各階とも男女別の構造だ。


 翌日、明るくなってから目が覚める。外を見るとガムラスが剣を振っていた。


「今日は気分を変えてみるかの。」


 演奏会用の薄いブルーのパーティードレスに着替えてから1階に降りるとテレサが待っていた。


「うわぁ、かわいくて綺麗ですね、とてもお似合いですよ。」


「ウム、演奏会用の衣装じゃ。折角なので精霊たちの衣装に合わせたのじゃ。」


「ヒラヒラしててすごくいいですね。プロフィール付きのお見合いの絵が殺到しそうです。」


「余計なゴミはいらんぞ。」


「食事が終わったら劇場に向かいますよ。」


「あれ、ワシの出番は昼からでは?」


「カグヤ子爵様も出席するのです。」


「あー、貴族の付き合いのことか・・・。」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る