第22話 パーティの打合せ

 武術大会が終わり外へ出ようとするとテレサ、ミューシー、ガラムスの三人が通路で待っていた。


「いま外に出ると大勢の貴族につかまって大変ですので少し休んでから出ましょう。」


 カグヤたちは光が入る明るい部屋に通され、そこで昼食を摂ることにする。


「そういえば、カニ玉丼があったのう。」


 カグヤは4人分の作り置きのカニ玉丼とワカメスープを出す。


「なんでも出てきますね。」


 テレサが呟く。


「暇ができたときに大量に作ってもらいストックしておくのじゃ。時間は停止しているからでき立てホヤホヤじゃ。」


 出されたかに玉丼とスープからは湯気が上がっていた。木製のレンゲを各自に渡し食べ始める。


「これもなかなかうまい物だな。」

 ガラムスが呟く。


「ラーマでは、普段はどんな物を食べていたのですか?」

 ミューシーがガラムスに尋ねる。


「硬いパンに塩とサラダと塩漬け肉とワインがほぼ毎日だな。たまに腐りかけの魚料理もあるが、うまいというより珍しいといった方がいいだろうな。

 もちろん、貴族や裕福な家はもっとうまい物を食べてはいるが普通はムリだ。やわらかいパンなんてのは生まれて初めてみた。」

 ガラムスはやわらかいパンの感触を楽しむようにニギニギしている。


「なるほど、食事はこのトリシア王国でも似たようなものですね。」

 ミューシーは少し安心した顔をしながら納得する。

 生まれ育った国が他国より劣っているとは考えたくないのが人情だ。


「このパンはどうやって作るのですか?」


「酵母菌を入れて練って寝かせて・・・後は普通じゃな。」


「コウボキンですか?」


「ブドウなどにたかるカビじゃな。果物ならなんでも良いが砂糖が少しいるか。匂いをかいで変なにおいがしたら失敗、良い匂いなら成功じゃ。」


「他の大陸ではそんな文化があるのですね。」


・・・そう言うことにしておくか。


 その後は、港に行き海産物の買い付けだ。


「今日も大漁じゃのう。」


「みな張り切っております。」


「ウム、しかし来れるのはあと2日ぐらいじゃ。3日目以降は来れぬからの。」

 念を押しておいた。


 一旦テレサの家に帰り、落ち着いてからテレサとともに馬車に乗って家を出る。歩いて王宮に行けばバカにされ続けるのは目に見えている。馬車は宮殿の入り口に横付けされ、そこで降りると大扉の前にいた使用人たちが出迎える。


「この方が黒き蝶の羽カグヤ様です。」

 テレサの従者がカグヤを紹介する。


「これはまた・・・本日の主賓がこのようなお嬢様とは存じませんでした。ではご案内いたします。」


 案内係の男に付いていく。案内されたのは控え室だ。出番が来るまで待機させられる。


「貴族のイベントに付き合わされるとは思わなかった。」


「カグヤ様の場合は特別ですので・・・。」


 しばらくすると男たちが10人ほど入ってくる。王の側近たちだ。今後のことも含めて打ち合わせをしたいらしい。お互い軽く挨拶を済ませ本題に入っていく。


「数年後にスタンビートが発生することは神殿でも天啓がありました。それを防ぐために今回の武術大会で無類の強さを誇ったカグヤ殿に、いままで未開地だったカズラ平原を管理、掌握をしてもらいたいのです。」


「それは構わぬが、確認したいことがあるのだが良いかの。」

 神のような者たちが素直に天啓をするわけがないこと。

 武闘大会で優勝したぐらいで広大な領地を管理させる話など聞いたことはないこと。

 カグヤは思考を巡らせていた。


「まずはスタンビートのことじゃが、魔物と言っておったかの確認じゃ。」


「スタンビートといえば魔物の大発生のことだと認識していますが違うのですか?」

 男たちは顔を見合わせながら答える。


「それはなんともいえぬ。魔物の大軍が押しかけてくるだけなら話は簡単だが、そのときになってみなければわからぬのじゃ。」


「魔物以外に何かあるとでも言うのですか。」


「もう一つは、武闘大会の度にそんな広大な領地を与えるのかという話じゃ。」

 カグヤは質問には答えず次の話に進む。


「疑っているのですか。」


「いや、問題がわかっておれば早めに対策も立てられる。魔物の森との緩衝地帯なので危険だということはわかるのが、それ以外に過去に何があったか知りたいだけじゃ。」


「それもそうですね。」


「それは私から答えよう。」

 後方からカグヤのことを観察していた中年の男が前に進み出てくる。


「問題だけを列挙するなら、魔物が頻繁に出没して人が襲われるのは当然として、その対策のための方法と資金不足。

 植民都市として定住させるための人材と資金不足。

 うまく行き始めても、周辺領地の貴族や遊牧民たちの略奪による壊滅。

 何者かの策謀による農村の逃散。などだ。」

 男はそう言い放つと見下すような目でカグヤを見る。


 その目は、お前のような小娘に何ができる。サッサと消えろ。といわんばかりの冷たい視線であった。


「なるほど、金も軍も出す気は無いということなら、好きにしてよいのじゃな。」


「好きにとは、何をする気だ。」


「もちろん商売に決まっておる。」


「税の支払いを怠れば討伐対象になるのを忘れるな。」


「もちろんじゃ。」

 カグヤは快く返事をする。

・・・フフフッ、どうせ申告制だろうし、いくらでもごまかせるのじゃ。


「監査は私がじかにおこなうので不正の無いように。」

 カグヤの心根を見透かすように釘を刺す。


「んな。」


 カグヤは軽く驚いて奇声を発するが、その男は見逃さなかった。


「あの草原の地にいったい何があるというのだ。」


「今は何も無いがこれからいろいろ作るのじゃ。」


「ほう、ならば兼任という形で赴任できるよう手配しておくか。」


「いや、無理はしなくて良いのじゃ。無理はいかんのじゃ。来なくて良いのじゃ。」

 カグヤの口からは本音がただ漏れだ。


「私は王の側近で働く財務官のゲオリールだ。これから頻繁ひんぱんに会うことになりそうだ、覚えておいてもらおう。」


 話は勝手に進んでいく。話し合いというよりは、決まっていることの確認と言った方が良い。


「その話はそのぐらいにしてもらって、こちらの話も聞いてもらおうか。」

 長いあごひげを持つ初老の男が口をはさむ。


「いや、無理に話さなくても良いのじゃ。」

 カグヤは無駄とわかってはいたが、とりあえず断ってみた。


「領地経営ともなれば人手が必要であろう。」


「まぁその通りじゃな。」

 断る気満々でいたが、話が普通過ぎて反論の余地がない。


「最近、周辺国で戦争が多発しているため難民の流入が激しいのだ。」


「この地が平和でよかったではないか。」


「そこでだ。貴女に難民たちを引き取ってもらいたいのだ。」

 長いあごひげを持つ初老の男は、話しながらカグヤに顔を近づけてくる。


「近い、近い。」

 カグヤはそう言いながら軽くデコピンを食らわせると、男ははね返され後方に転倒する。


「ウオッ・・・いったいどこからそのような力が出てくるのだ。」

 初老の男は首をさすりながら立ち上がる。

 

「どのみち人手も足りぬので難民の受け入れはするが、定住するかどうかはわからぬぞ。」

 たとえ断ったとしても、理由をつけて難民たちを送ってくるのは目に見えていた。


「カグヤ殿はこの短期間でマホ族を支配下におき、海賊を3隻拿捕したという功績もある。そこで褒美として一代限りの名誉子爵として爵位と、王族の土地のカズラ平原を管理させる、という形にしたい。これは王族からの依頼でもあるのだ。」


「乗りかかった船じゃしの、できる限りのことはするつもりじゃ。」


「この知に永住していただいてもかまいませんが・・・。」


「それは無いの、ワシは世界を旅する宿命にある。これは神の意志でもある。誰にも曲げられぬのじゃ。」


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