第21話 決勝

 武術大会の最終日。カグヤは9時前に闘技場に到着する。

 闘技場の入り口にはカグヤを含めた16名の絵姿が飾られていた。


「うーむ、すっかり見世物になってしまったのう。」


 中に入ると、鎧で身を固めた物々しい出で立ちの騎士たちが集まっていた。武器も防具も持たず黒い着物姿のカグヤは浮いていた。

 受け付けの手続きのための列に並ぶが、明らかに注目を集めていた。カグヤの順番となり木札を手渡すと、


「あのう、本選最後では魔法武器などの使用も許可されています。もし防具などを持っていないということでしたらお貸しすることもできますよ。」

 受付嬢は軽装のカグヤを心配して提案する。


「そうだぜ嬢ちゃん。ここまで勝ち抜いてきた実力は認めるが上には上がいるものだ。悪いことは言わんから借りておけ。」

 隣で受付をしている騎士にも防具を身に着けることを勧められる。


「ひよっこ相手に防具なぞ無用なのじゃが、せっかくなので蝶型の髪飾りでもつけておこうかのう。」

 カグヤはストレージから蝶型の髪飾りを出すと頭につけ始める。


「おいおい、手加減なんかしてやらねぇからな。大怪我しても知らねぇぞ。」

 鎧を着た男は吐き捨てるように言うとその場を去っていった。


「やれやれ、沸点が低すぎるのは心に余裕の無い証拠なのじゃがのう。」

 カグヤは殺気でピリピリしている受付を離れる。


「お気をつけて。」

「頑張ってください。」

 カグヤの背には受付嬢たちの声援が投げかけられていた。



 闘技場に16人が揃うと、8組に分かれ試合は同時に開始される。


 開始と同時にカグヤは対戦相手に突進する。鎧で固めた相手は盾を構え、盾の隙間から覗き込むように剣が光る。

 カグヤは剣にたいして真っ直ぐ直進し、突き出された剣を鉄扇で受けそのままパワーで押し返す。


 ガキーン。


 バランスを崩した相手の懐に入り肘で溝落ちあたりを上に突き上げる。相手はなすすべもなく中を舞う。

 落ちてきたところをタイミングよく鉄扇で追い討ちを掛け地面に激突させる。跳ね上がった相手にさらに鉄扇で上から叩きつける。


 ガシャン。


 兜は吹っ飛び鎧は大きく凹んだ。相手は気絶しそうな衝撃に耐えるのが精一杯のところへ蹴り上げられ、再び宙を舞う。

 飛びそうになる意識をなんとかこらえ、宙を舞いながらカグヤに向かって剣を振り回す。だが、剣は空を切った。

 カグヤはその剣を持っている手に強烈な小手を決め剣を叩き落とし、転がっている相手の首筋に剣を立てる。


 ザクッ


 数mmほど皮膚の皮を切るとスーと血が流れる。


「ま、まいった。」


「そこまで」


 相手は重鎧のためなかなか起き上がれず審判に起こしてもらっていた。


「いちいち鎧を叩き飛ばさないとダメとは、やれやれじゃ。」


 回りを見ると他の7組はまだ戦っていた。殺し合いなら戦いようもあるだろうが、貴族が混じっているとうかつに致命的な一撃が撃てないのだろう。皆、剣でお互いの鎧を叩き合っていた。


「なんだか無様じゃな、戦争時もこんなもんだったかのう。」


 しばらくすると疲れきって倒れた者が負けを宣言し始める。試合が終わると回復術師たちが魔法をかけて回る。勝った者たちには鍛冶師たちが鎧のほころびを直していた。


「競技会にメーカーが付いてるようなものか。」


 一旦、休憩をはさむと4組に分かれ次の試合がはじまる。


「はじめ。」


 カグヤが突進すると同時に相手は1mほどの火の玉を撃ってきた。カグヤは立ち止まり鉄扇に魔力をこめてはじき返す。


「なんじゃ工夫もないのか、魔法とはこう使うのじゃ。」


 そういうと同時に鉄扇を振ると相手の回りに8つの魔法陣を展開し、顔に向かってソフトボールぐらいの水弾を連続発射させる。

 相手は転げまわって逃げようとするが、八方から打ち込まれる水弾は追尾するように相手の顔に襲い掛かる。相手の頭には滝のように水が落ち続ける。とうとう、息ができない上に大量に水を飲み溺れたような形で気絶してしまった。


「それまで」


「アッ、やりすぎたか。」


 カグヤは相手の腹に手を当て腹の中に空気を送り込み水を吐き出させる。


「ゴボッゴボッ」


 相手は目をさまし激しく咳き込む。隣には、火炎魔法が付与された剣が落ちていた。

 すぐに相手の支援者たちが駆けつけ、ゆっくり起こして連れて行く。

 しばらくするとガシャガシャと剣を叩き合いながら戦っていた3組の試合が終わった。


 いよいよ準決勝。一試合ずつ時間をずらして行われる。カグヤは二戦目だ。


「一戦目は雷神のなんとかと誰かじゃな。」


 剣で叩きあい、ときには取っ組み合いをし、最後は力尽きたほうが負け。静かに見ていると、自分が場違いなことをしているような気持ちになっていた。


 カグヤの番になった。


「はじめ」


カグヤが突進開始すると同時に相手は熊のバーサーカーを召還する。


「サラマンダー。」


 カグヤは火に包まれたトカゲの精霊を呼び出す。バーサーカーは鋭い爪でサラマンダーの体を切り裂こうと何度も切りつけるが、サラマンダーの硬い鎧の皮を傷つけることも出来ない。

 サラマンダーはゆっくりした動きで猛毒の牙をバーサーカー立てる。その間、相手はサラマンダーの無防備な背中を剣で何度も切りつけていたが、虚しくに跳ね返される。バーサーカーは一撃で霧散する。サラマンダーの目は相手をギョロリと見つめる。


「ヒィィー、降参だ。降参。」


「そこまで」


 相手の手には召還の魔石が握られていた。


「あれ、精霊はワシが倒せばよかったのか・・・。」


 サラマンダーがゆっくり顔を向ける。


「よくやってくれた。これでも食うか?」


 カグヤは野ウサギをサラマンダーの前に出す。サラマンダーはゆっくり口に銜えて目を細めて租借する。しばらくすると霧となって消えていった。


 いよいよ決勝。審判に声を掛けられる。


「休憩はいるか?」


「疲れてないので大丈夫じゃ。」


 カグヤはそのまま土台の上に残る。相手が土台に上ってくる。


「殺す気で行くぞ、覚悟しろ!」


「雷神だったかの。遠慮はいらんぞ。」


「はじめ」


 開始の合図同時にカグヤは突進する。相手は守りの体勢に入る。間合いに踏み込もうとした瞬間、足場が泥沼に変わる。


「なるほど。」


 カグヤはニヤリと笑みを浮かべると、足裏に魔力を発生させスノーボード板のような形にし、空間を足で滑らせるように滑らせる。

 同時に突進の動きを直線から弧に変える。右回りに円を描くように滑り込んで相手の盾に激突する。


 バーン。


 大きな音とともに雷神の男が後方へ飛ぶが体勢は崩さない。


「予測しておったか。」


 カグヤはそのまま左旋回で空中を疾走。相手の間合いに入ると雷を撃ってきた。

 カグヤは左の鉄扇を振って雷を打ち消し、右の鉄扇で剣を受け流し、相手の懐に入ると左の鉄扇で胴を叩く。


 ガン。


 雷神は鎧は大きく凹ませながら後方へ飛ばされていく。そのまま追い討ちをかけるカグヤ。

 飛ばされた雷神は空中で体勢を整えながらイフリートを召還。召還されたイフリートは左手を前に出して火矢を連続発射させながら、右手を上に上げて火の玉を作って大きくしていた。

 同時に、雷神もカグヤに突進しながら剣を横から切りつけてきた。


 カグヤは剣と火矢を避けながらイフリートの間合いに入り鉄扇を一振りするとイフリートは霧となって消えた。

 カグヤはそのまま足元を滑らせながら上昇すると鉄扇を振って火の玉も消滅させる。

 上昇したカグヤは二つの鉄扇を前に交差させ、体を屈めて真っ直ぐ相手に突っ込む。


 ドカーン。


 雷神はカグヤの突進を盾で右に受け流し、カグヤの横っ腹めがけて剣を横に振り抜く。

 カグヤはスランディングするように盾の下に潜り込み、剣をかわしなから後ろに回る。

 後ろに回り込むと急激に急上昇して雷神の頭の上を経由して背中に回る。

 雷神は後ろを振り返るが、一瞬カグヤを見失った。顔を前に向けた瞬間、カグヤは真ん前の懐に入り込んで攻撃態勢に入っていた。


「なに!」


 カグヤは下から二つの鉄扇でアッパーをかます。

 相手の兜は吹っ飛ぶと同時に後方に飛ばされすごい衝撃とともに転げ回る。

 気づくと強烈な小手を入れられて剣が手から離れていた。

 転がりながらカグヤを盾で叩こうとするが空振りに終わり、カグヤの追撃の蹴りが入りさらに転がる。

 ブルングルドは意識が飛びそうになるのを必死に耐え、ようやく止まったと思ったら剣が目の前に刺さる。いつの間にか右腕もねじ上げられていて身動きが取れなくなっていた。


「降参だ」


「そこまで」


 審判が片手を挙げて試合の終わりを告げると大歓声が沸きあがった。


 カグヤは片手で鉄扇を掲げ歓声に応えていた。


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