第10話 旅の目的
カグヤたちはマホ族の地を後にしロート市に戻る。
「あのう・・・街を作るのですか?」
ミューシーはカグヤに尋ねる。
「なんかそうなったのう。」
そういいながらカグヤは笑う。
「ウーン、ものすごく計画的のような気もしますが、気のせいだったのですね。」
テレサが呟く。
「次はロートの領主を脅すお仕事じゃ。いろいろと面倒なものじゃな。」
カグヤがため息を吐く。
「お、脅すのですか?」
テレサは聞き返した。
「フーム、ミューシー参謀がなんとか取り持ってくれると思っていたがのう。」
カグヤはミューシーをチラリと見る。
「あーもー、ちょっと待ってください。いろいろありすぎて報告自体が間に合っていません。」
ミューシーは頭を抱える。
「友好関係を結んでくれないと、ワシがマホ族を率いてロート市を占拠しなくてはならなくなるのじゃ。やり方としては・・・巨大ゴーレム100体を先頭に精霊大行進。空にはドラゴンの群れを飛び回すのがいいかと思っておる。ロート市が壊滅するような大変な事態じゃな。」
カグヤは人事のように話す。
「ドラゴンまでもお仲間なんですか? ロート市が滅んじゃいます。」
テレサが反応する。
「話はしてみますが、どうなるかわかりませんよ。」
ミューシーが思案顔で話す。
「それは助かる。ワシは早く片付けてオークションに行ってがっぽり稼ぎたいのじゃ。」
カグヤは小さな手を握り締めて語る。
「なるほど、オークションですか、珍しいものとかいろいろ持っていそうですもんね。」
「まずは普通に出品されている物とかの情報がほしいのう。何か知らんかのう。」
カグヤは続きを促す。
「武器、防具、宝石の付加価値付きとかは大金貨単位です。あと高価な素材とかですね。たまにポーションとか、巻物、アダマンタイト鉱物とか出ることがあります。」
「ホホウ、それならいけそうじゃな。」
「出品するのでしたら早いほうがいいですよ。目録とか出回りますし・・・。」
「何、では明日出発するかの。」
「ダメです。明日は領主や団長たちと会ってください。」
魔道具であちこちに連絡していたミューシーが止めに入る。
「しょうがないのう。」
「誰のせいだと思ってるのですか。」
「世間じゃ。」
あたりが暗くなり始めた頃、カグヤたちはロートに到着する。
「よし到着、ほぼ予定通りじゃ。馬車を返しにいくかの。」
カグヤは何事もなかったかのように言うと城門を通り冒険者ギルドに向かう。
ギルドのカウンターにはオリシア嬢が座っていた。
「いま戻ったのじゃ。馬車も無事じゃ。」
「えっ、あの、少々お待ちください。」
オリシア嬢は慌てて奥に走っていった。
すぐに奥の部屋に通されると、そこにはギルド長エルロス、トーマス団長、ザルツ団長他十名ぐらいが集まっていた。
最初に領主を紹介された。
「この付近を治める領主グレゴリー・ベイソンだ。」
「辺境伯様です。」
テレサが後ろから囁く。
「カグヤ・ムーン・アイナリントじゃ。」
「配下の者に文献を調べさせたところ、神代の時代のムーン帝国の二代目女王から始まり、各地で聖女や精霊の巫女使いや、悪魔の化身、滅びの魔女などいろいろと情報があり、何が本当なのかわからぬ。そのうえ近くに街を作りそこに拠点を作るとか、何か思惑でもあるのか? 」
「拠点にするのは、何年か後に魔物の大群が大発生するのでその防波堤を作るためじゃな。」
「魔物の大群か、公式発表はされていないが、教会でそんな神託を受けたと噂になっているのは確かだ。」
「神も少しは仕事をしているようで何よりじゃ。」
「ま、事前にわかっていれば対策の方法もある。その方が関知すべきことではないぞ。」
「S級以上が万単位で出てくるが対策できるのかのう。」
カグヤは意地悪い目つきで領主を見る。
「なに!・・・。」
皆一様に驚く。
「ほんとうなのか。そのようなことどうやってわかるのだ。」
ザルツ団長が声を上げる。
「過去の経験上とでも言っておくか・・・もし、ワシが何もしなかった場合。この大陸の国はすべて滅びることになり、魔物しか住まない土地となる。他の大陸にはそういうのがいくつかあるぞ。」
「では、出ないようにする対策は?」
ミューシーは冷静に聞いてくる。
「フフフ、魔素は大陸プレートの下から噴出してくる。ワシでも手の出しようが無い。そういえば、遥か昔にとある神が、魔素の噴出は人族への恵み、とか言っておったな。意味はワシもわからん。何かあるのじゃろうな。」
「たいりくぷれーと? よくわからんが神々と話せるのか。」
「うーん、改めてそう言われると自信がないのう。頭に響くというか、思念が流れ込んでくるというか・・・そもそも神の存在自体がモヤッとしたものなのじゃ。」
「さすがカグヤ様。私はすべて信じますよ。」
エルフ族のギルド長エルロスはニコニコしている。
一同は静まり返っていた。
「まあ、拠点の件はこんなところじゃ。国を作ろうとも、どこか攻めようとも考えてはおらぬ。できれば毎日温泉入って、ときどき魔物退治で軽い運動して、うまい物食って、音楽奏でて毎日ゴロゴロしていたいのじゃ。それを実現するための街作りということになるかのう。」
反応が薄いのでカグヤは少し力説してみた。
「それからワシのことじゃが、過去は過去じゃ、夢物語だと思えばよい。それよりこれからのことを話そうではないか。」
カグヤは無駄な議論を避けようとして話を先に進ませる。
「それではカグヤ殿からマホ族との交渉の報告をお願いします。」
ザルツ団長が助け舟を出す。
「ウーン、精霊を信仰するマホ族と接触し、精霊を見せながらの話し合いの結果、恭順を示したので食料を援助して病人の治療をして感謝感激された。今後は友好関係を結び交易したいそうじゃ。」
カグヤは胸を張って、話を終える。
「馬車を借りてちょっと遠乗りして友好関係築いてきました、みたいなノリですね。」
ミューシーが呟く。
「私も、あれは夢だったんじゃないかと、自分の記憶を疑い始めてます。」
テレサも呟く。
「恭順ということはトリシア王国の庇護下に入り、今後はトリシア王国の元で税金を払い、戦争時は兵も出すということでよいのか?」
グレゴリー辺境伯は静かに聞き直す。
「そういう認識で合っておるの。」
カグヤは即答する。しかし、カグヤの後ろでテレサはカグヤとの認識の隔たりに混乱していた。
「どうしたテレサ、何か不自然な点があるなら申せ。」
ザルツ団長がテレサに振る。
「はい、あの、私の認識では、マホ族の先遣隊を力でねじ伏せ服従させ、そのまま村に乗り込んで精霊の力を借りて威圧し、それでも逆らうものはまた力でねじ伏せ、一族すべてをカグヤ様に服従させ、その後、精霊を使って信服させた。と認識しております。」
「プッ、アハハハハハ。」
隣で聞いていたミューシーは思わず噴出した。人の認識の差とはこんなにも違うものか。
「あーなんだ、そもそも一日で行って帰れる距離ではあるまい。それをどう説明するのだ?」
ザルツはため息をついてミューシーに話を振る。
「ハ、失礼しました。私から説明させていただきます。」
ミューシーは順を追って説明する。
聞いていたカグヤは
「さすが参謀じゃな、どこかのアホの子と違って説明がうまいのう。」
テレサは反論する。
「カグヤ様だって大してかわらないじゃないですかぁ。」
ミューシーの話が終わりしばらく沈黙が続いた後、グレゴリー辺境伯が口を開く。
「カズラ高原は魔物が跋扈するカズラ大森林との緩衝地として誰も住もうとはしなかったが、そんなところに街をつくって大丈夫なのか。」
「大森林を大規模に開発伐採して農地にし、森林と大森林の境目に大きな河を流す予定じゃ。ラーマ帝国があちこちで戦争して回っているようなので難民も急増しよう。そういう者たちを入植させれば良い。
魔物対策としてはマホ族を使う。ヤツ等は昔から勇敢な種族じゃったからの、南に下った他の三種族も取り込む予定じゃ。面倒はワシが見よう。王国としても強力な軍と穀倉地帯が手に入るのじゃ。喜ばしいことではないかの。」
一同はざわめく、本当にそれが実現できるのなら願っても無いことだが、それはできればの話に過ぎない普通では不可能な夢物語だ。
「ま、信用できないのが当然じゃ、しかし遊牧民の脅威は去った、しばらく様子を見てもらえると助かるのう。」
カグヤはギルド長エルロスに視線を送って早く終わらせろと急かす。会議はギルド長エルロスの必死な強引さに引きずられ、しばらく様子を見ることで幕を閉じた。
報告会が終わり、カグヤが帰ろうとするとザルツとトーマスの両団長に引き止められた。
「カグヤ殿の働きのお陰で、全滅も覚悟していた騎士団が死者も出さずに全員帰還できる。まことに感謝する。これからも何かあったら頼るかもしれないが、そのときはよろしく頼む。」
「ウム、殴って解決する案件なら大抵は快く引き受けよう。」
そのままその後の予定の話になる。カグヤは武器等をオークションに出品したい旨を伝える。
「オークションですか、どんな物を出品するのですか?」
カグヤは性能の低い武器を取り出して見せる。
「アダマンタイトの二倍武器に火や水が付いてるとか、同じくダメージ半減、各種加護のついた指輪、エクスポーション、解呪の巻物・・・」
「ミューシー鑑定してくれ」
「どれどれ、うお、本物ですか。」
「・・・止めておいたほうがよさそうかの。」
「いまさらです。」
「そ、そうか」
「今年のオークションは盛り上がりそうだな。」
「ところで武道会も開かれますが、カグヤ殿も出場されるので?」
「興味はないのう。」
「爵位がいただけます。爵位を持っているものなら陞爵されます。」
「それはいらないのう。」
「街を作るなら爵位がないと許可されません。」
「王と話ができる機会があるかもしれませんよ。」
「王に会いたいのではなく、国の責任者と今後の話をしたいのじゃが・・・。」
「では、優勝したら話し合いできるように私どもが後押ししますがいかがでしょう。」
「王国の強いヤツを叩き伏せるのではダメなのか?」
「国の威信にかかわります。」
「まー、行ってから考えよう。」
カグヤは前途多難さにため息を吐く。
「王都に行くのでしたら引き続きテレサとミューシーの二人を護衛につけましょう。」
「それは助かるのう。報告も正確にやっているようだし、なんだかんだと役に立つしな。出発は明日したいのだが・・・。」
カグヤは二人をチラリと見る。
「なんとか間に合わせましょう。明日十時ぐらいに城門でおねがいします。」
ミューシーは答えた。
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