第11話 川下り
翌日、カグヤは宿屋を引き払ってから少し早めに城門に向かう。
・・・我ながら慌しいのう。しかし、大量の金貨を手にするためなら仕方あるまい。
カグヤはワクワク気分で城門に行くとたくさんの人が集まっていた。
・・・お偉いさんでも通るのか迷惑な話じゃ。
カグヤは城門の外に出ようと行列に並んでいると、ギルド長エルロスに呼び止められた。
「みなさんお待ちです。こちらへ。」
城門の外まで付いていくと領主グレゴリーの他、身なりの良い者や騎士団の面々も集まっていた。
「何の集まりなんじゃ?」
カグヤはエルロスに問う。
「エアバスというものを見るために集まっておられます。」
「アー、見せるのは良いが、あれは実用からはほど遠いのじゃ。」
そう言いながら集まった人たちを見ると黙ってこちらをみている。カグヤに拒否権はなさそうだ。カグヤは少し離れたところにエアバスを出す。
ミューシーとテレサが大勢の者たちを引き連れ、説明しながら近づいてくる。すっかり慣れたようで総勢50人ほどを乗せてから、テレサがカグヤに声をかける。
「おねがいしまーす。」
「・・・。」
諦めて城壁を一周することにした。みな大喜びで興奮していた。
「これの量産は可能か!」
領主グレゴリー辺境伯が顔を近づけて興奮気味に聞いてくる。
「魔力をバカ食いするのでワシ以外動かせる者がおらん。あきらめよ。」
グレゴリーは諦めきれずに食い下がる。
「我が家の魔力持ちをつれてきた。試しに運転させてやってみてくれ。」
用意が良すぎる。知らないところで勝手に話が進んでいっているようだ。カグヤは魔力持ちという男を運転席に座らせ、このハンドルが魔力を勝手に吸ってくれるのでしっかり握って足元のアクセルを踏んでスピードの調整をするように伝え出発する。
しかし、ものの数十秒ほど走ったところでその男は気絶した。魔力がなくなって気絶したのは誰の目にもあきらかだ。
「あーあ、ムリしよって・・・。」
グレゴリーが唖然としているのを尻目にカグヤは男を床に寝かせてやる。
「こういうことじゃ、魔石を使うにしても限度があろう。」
カグヤは城壁の近くまで運転して戻り全員を下ろす。
「疑問のひとつは解けたかの?」
グレゴリーは何か考え込んでいる。
その後カグヤは他のものの質問攻めにあれこれ答えてから
「では、行くか。」
カグヤはテレサとミューシーを乗せて出発しようとすると後ろから声をかけられた。
「オホン、少しよろしいかな。」
テレサとミューシーがその男の後ろから、カグヤに向かって両手を合わせてごめんなさいポーズをとっていた。
どうやら、最初からそのつもりだったらしい。
「王都に向かわれると聞いたが一緒に同乗させてもらうことは可能かな。」
「お、おう、構わんぞ。」
カグヤはいきなりの申し出に一瞬たじろぐ。するとその男の目がクワッと見開く。
・・・怒ったのか? なんて面倒な!!!
「それはありがたい。少々急ぎの用があってな。先ほどから見ていたがなかなかのスピードだったので興味も沸いたのだ。やんごとなき事情で名は明かせぬが、よろしく頼む。」
テレサが真っ先に案内に走る。
「では、こちらからお入りください。」
普段砕けた感じのミューシーがカグヤの隣でビシッとして立っている。テレサの後に30人ほどがの騎士やメイドさんたちがぞろぞろと続いて乗っていく。その中にやんごとなき少女も交じっていた。
「聖女様の馬車に乗せていただくなんて光栄ですわ。よろしくおねがいします。」
と言ってにっこり微笑む。
「フム、快適さは保障しよう、堪能すると良いのじゃ。」
「男は最後に乗りながら三日ぐらいで着くとありがたいのだが・・・」
と念を押してくる。
「距離はどのくらいじゃ。」
「川が800kmほどと聞いておる。」
「飛ばせば暗くなる前に着くかな。」
「それは今日か! いや、さすがにムリなのはわかったおるが、なるべく早めに頼む。無事に着いたら礼ははずもう。」
カグヤは運転席に乗り込むとメイドたちが壁に立っている。
「あーなんというか、この乗り物に乗ったら全員座らなければならないしきたりじゃ。順番として、身分の高いものは後ろで段々と前に乗っていくものじゃが、前の方がよく見えるので、前から乗るのもありじゃな。」
「ホー、しきたりか、それならば倣うしかあるまい。それでは順番に座るように。」
男が指示する。
「私はよく見える前に乗りたいです。」
女の子が前にチョコンと座る。
全員が座ったのを確認してから、
「シルフ、飛ばすから道案内と加速の手伝いを頼む。障害物があったら早めに教えてくれ」
光の粒たちが一斉に飛んでいく。カグヤはそれについていく。
しばらくすると広大な河に出た。そのまま下れば王都という話だがテレサに確認する。
「あの河を下ればいいんじゃな。」
「はいそうですけど、まっすぐ行くと河に落ちますよ、曲がって曲がってください。落ちる。落ちる。」
テレサは必死に声を上げる。
「本来これは水上船なのじゃ。」
カグヤは河にそのまま突っ込む。エアバスは河に突撃してもなお水しぶきを上げて突き進む。テレサはしばらくすると冷静になって感嘆する。
「さすが魔法の馬車ですね。」
しばらく水上を走ると帆を張ったガレー船を見つける。
「ワハハハハ、ぶっちぎりじゃぁぁぁ。」
エアバスは水しぶきを上げて爆走する。
「ウーン、運転してるときのカグヤ様って人が変わるようなー・・・。」
「き、気のせいじゃ。」
カグヤは日も高くなったのに気づくと、
「そろそろ昼じゃな、サンドイッチでも食べるかの。」
と言ってストレージからサンドイッチとバナナとミカンと紅茶のセットを次々と出していく。お湯が入った魔法瓶も5個ほど出す。
紅茶を入れてくれるようテレサに頼むが、魔法瓶の使い方がわからないらしくもたもたしている。と、メイドが近づいてきて、すぐに使い方を理解し淹れてくれた。
なかなか有能なメイドを抱えているようだ。
王都でもパンは固いらしくサンドイッチは好評だった。
3時ぐらいになるとカグヤも運転に飽きたので、ポイトチップスと黒い炭酸を出しながら、楽器を持たせ妖精たちの音楽会をはじめる。マーチから行進曲、歌謡曲、アニソン、カグヤの好きな激しい曲を次々と奏でてもらう。
カグヤのモチベーションも回復し、客人たちの反応も良いようだ。
暗くなり始めた頃にテレサが、あの左前方の小高い所に見えるのが王都です。
「ほんとに着くとは驚きです。」
「必死に頑張ったのじゃ。」
入る城門は表の西の城門ではなく裏の東側の城門に回るよう支持されそちらに回る。
「城に近いし、出入りの人も少ないからな。」
到着すると男はエアバスから降り、城門の兵士に通すように伝える。ノーチェックで城門の中に入る。
「そのまま城まで向かってくれ。」
男に指示されるまま城の門まで走る。
「ここでよかろう。」
カグヤは指示通り止まる。
「ごくろうであった。これはささやかであるが収めておいてくれ。」
男は少女と目を合わせ頷いてからカグヤに小金貨5枚を渡す。
「それではまた、ごきげんよう」
少女は軽く会釈して伴と一緒に城に入っていった。
あたりはすっかり暗くなっていた。
「さて、宿屋はどっちじゃ。」
カグヤはつぶやく。
テレサはミューシーと目を合わせうなずき、
「私の家でよければご招待します。明日は街を案内しましょう。」
「それはありがたいが良いのか?」
「はい、滞在中はズッと泊まっていただけるととても助かります。」
テレサは顔をグィッと近づけてくる。監視は当然として他にも何かあるのだろう。
「そか、ではやっかいになるのじゃ。」
ミューシーは報告等で数日は忙しいようで、いつかまたとそこで別れる。
カグヤはテレサの実家の邸宅に招かれる。
「貴族階級じゃったか。」
カグヤは邸宅を見て思わず口にする。
・・・貴族の娘がなぜ騎士団に?
「いえ、当家は代々近衛騎士団の要職にあるのでお屋敷をいただいています。」
「ホー、信用されておるのぅ。」
「エヘヘ」
テレサは満更でもない顔で照れる。
門を勝手に開けて、屋敷のドアをバーンと開け
「ただいま戻りましたぁ。」
・・・エッ、いいのか?
と驚いて見ていると、
「あなたはまた連絡も無しに突然帰ってきて、大きな声で入ってくるとは何事ですか!!!」
・・・ま、そうなるわな。
しばらく説教されていると女がこちらに気づき、
「コホン、紹介してくださらない。」
と音色の変わった声で尋ねる。
「はい、今は普通のお客のカグヤ様です。」
女性はつぶやく。
「いまは・・・それにしても見たことの無い服ね。どこのお国の物かしら?」
テレサはカグヤに向かい直し
「私の母、オーラト小国のオーラト公爵家五女のタチアナ・モンスです。」
「ワシはカグヤ・ムーン・アイナリントじゃ。これは海の遥か向こうの大陸の正装のようなものじゃ。」
と、カグヤは袖を軽く上げて見せる。
「海の向こう・・・ずいぶんお若いようですけど。」
「永遠の13歳じゃ。何年生きたかは覚えておらぬ。」
「そう、ゆっくりして行ってください。」
テレサがキョトンとしている中、タチアナは軽くお辞儀をして去っていく。
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