終章(二)

 男が一人、砂浜に立っている。彼は裸足になると、海へ入っていった。そして、懐から、ガラスの小瓶を取り出す。小瓶の中には、白い粉のようなものがいっぱいに詰められていた。男はその小瓶をしばし見つめてから、抱きしめるように、胸元でぎゅっと握りしめた。それから、小瓶のふたを開けると、白い粉を手の平に出していく。その間にも、手の平の粉は風に吹かれて舞い散っていた。中身を全て出し終えると、彼はその手を天に掲げた。白い粉はきらきらと舞って、海に消えていく。男はそれを、見つめていた。全ての粉が海に還り、手の平にもう何も残っていなくても、ずっとずっと見つめ続けていた。

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巡愛 雲居彩 @kumoininarinutomo

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