第48話 閃光王子 十四
レオンが公共のバスに乗り込もうとした瞬間、先に乗り込んだアサヒが引き返して来てレオンの腕を引っ張ってバスを降りた。
「駄目だ。バスに乗るのは無しだ」
「え?」
「敵がいる。前の座席の奴等は素人じゃない」
「マジ?」
レオン達が歩き出すと敵四人はバスを降りた。
「こっちだ」
アサヒが目で誰かに合図しながら足早に歩き出した。レオンは黙ってついて行き、角を曲がる。
男達も同じ速度で尾行して来る。もう一度角を曲がってしばらく歩くと、ビルの間のゴミ捨て場がある少し開けた道に入った。
人目が付かないその道に男達が入って来た途端四人は剣を抜き、駆け出して間合いを詰めて来た。
アサヒも小太刀を抜き、先頭の男のサーベルを受けると手首を掴んで男の懐に潜り込み、左から詰めて来た二人目に小太刀を突き刺した。
「ぐっ!」
横の店の窓からアサヒの仲間のホークが音も無く出て来た。
アサヒは刃を横に一閃して一人目の右に抜けるとホークと共に三人目に接近した。ホークがわざと受けきれる速度で上段斬りを繰り出し、男がホークの剣を受けて鍔迫り合いになったわずかな時間にアサヒが横から薙ぎ払った。
アサヒはそのまま走り込んで四人目に踏み込むと同じように鍔迫り合いの状態に入り、今度はホークが四人目を刺殺した。四人の絶命を確認すると二人は素早くレオンの近くに戻った。
「他にはいないか?」
「ああ。見た限りではそれらしいのはいなかった」
五秒程の間に走りながら四人を葬った手際にレオンがポカンとしていると、アサヒとホークは武器をしまい、ホークはレオンに一礼した。
「ホークです。アルベルト様が王に即位するまでの期間警護を務めて参りました。現在はアサヒと共に行動しております。以後お見知り置きを」
「あ、ああ……どうも。ええ、何この……何? アサヒさん本当強いんだね」
「まっ自分の身を守れる程度にはな。それよりこいつらの戦い方、俺達と同じだな。ずいぶん練度が低いが」
「ああ。こいつらおそらくウォーケンの息子の部下だな。今の若い奴等は元々お前が指南してやった動きだって事を知らなかったんだろう。左連角を想定してない旧式のままだ」
「ウォーケン? 誰でしたっけ?」
「ま、歩きながら説明する。どうやら本気でお前を仕留めに来てるようだな。王宮まで行くのは骨が折れそうだ。さて、どうするか……」
フェルト国民は突然のヴェイン公国とドーン連邦の敵対に動揺し、この先どうなるのか分からないという不安に押し潰されそうになりながら、フェルト政府の次の動きを待った。
そしてテレビから政府の会見の放送が流れるという予告があり、国民はその時刻になるとテレビの前に釘付けになった。
アラン議長とその幹部達、円卓に座っている様子が映し出された。アランの横にはアルベルトが座っている。アランがアップになるとアランは机の上で手を組み口を開いた。
「フェルト国国民の皆さん、そして世界の首脳陣へ伝える事があります。先刻のヴェイン公の放送を受け、私達フェルト政府は決断を下しました。
彼等はファルブル家の歴史とフェルト国政府の歴史を捏造して語りました。しかしフェルト国は、ファルブル家と正義を愛するその仲間達が悪と戦い、乗り越えながら歴史を紡いで来た国です。私達は断固として彼等の誤った主張を認める訳にはいきません。
また、石油は北大陸で発見されたものであってフェルト国が所有するのは当然の権利です。我が国の発展のため、そして正義を守るために絶対に退く事は許されない。
よって、フェルト政府はアルベルト・ファルブルと共に全軍を展開し、石油の発掘地の奪還作戦を行う事とします。現在発掘地やその周辺で展開されている軍事勢力は全て敵とみなし、発見しだい排除します。発掘地を完全に奪還するか、あるいはヴェイン公が過ちを認め、軍を解散するか発掘地を放棄次第この作戦は終了とします。
フェルト国国民の皆さん、ここが我が国のターニングポイントです。ここを乗り越えずして我が国に未来は無い。皆さん一人一人の勇気がこの国を救います。共に戦いましょう」
軍隊が軍靴を鳴らし、隊列を組んで街の広場を行進している。
放送後、数日でビルギッタの空気は一変し、戦争一色となった街はポスターなどがあちこちに貼られ、志願する若者を勇気ある者として称えている。
開戦の時はすぐそこまで来ていた。
ビルギッタの北東にあるノービスの街でも同様の光景が見られる。兵士が乗り込んだ自動車が走り去る様子を見ながら、レオンとアサヒは蒸気機関車で来たノービスの街を歩いていた。
ノービスにはまだ携帯電話を繋ぐ電波塔が無い。酒場に入るとレオンはマスターに電話を借りてアランにかけた。
「もしもし、レオンです」
「レオン! 無事だったか」
「父上は?」
「既に飛び立ったよ。ヴェイン公を叩きに行くつもりだろう」
「うーん、間に合わなかったか。今から別の飛行船で行って間に合うかな?」
「難しいな。いざ戦闘が始まって飛行船が落とされたら君も危ない。それに止める理由も無いだろう?」
「……いや、あるかな。一応」
「そうなのか?」
アサヒがレオンの肩を指でトントンと叩き、親指を立てて店を出るよう促した。
「レオン、心当たりがある。ついて来い」
「え、ほんと? アランさん、また後で連絡する」
「ああ。気を付けろよ」
「ありがとう、じゃあ」
電話を切ると二人は繋いであった馬を借りて走り出した。
「どこに行くんだい!?」
兵士を横目に二人は疾走する。
「俺の知り合いの所だ! 親父さんには黙ってろよ!」
「え!? なんで!?」
「斬られちまうからな!」
「えっ何!? 何て!?」
街を出るとアサヒが遠くの平原を指差した。
「ほら、あれだ!」
レオンが促された方向を見ると遠方に大きな白いコンテナ形の建物が見えた。
「え? 何だろ、倉庫? いや、あれってまさか……」
近くまで来るとプロペラ飛行機が停まっているのが見えた。
「おおー! 飛行機じゃん!」
馬を繋ぐと、ゴーグルをかけた男が出て来た。
「ようアサヒ、準備できてるぜ」
「悪いな急な話で」
「この人がアサヒさんの知り合いですか。どうも、レオン・ファルブルです」
「ひっ! ファ、ファルブル!?」
男は見るからに動揺した。
「アサヒてめえハメやがったな!?」
「違うよ船長。息子はそういうんじゃないから安心しろ」
「え? なになに? どうかした? 父上と何かあったの?」
「こいつは世界最後の海賊の生き残りだよ。他の海賊は皆死んじまったからな。お前の親父さんが王に即位した途端、さっさと海賊は止めて貿易会社に鞍替えしてな。今は世界初の航空会社の社長って訳さ」
「へー。本物の海賊って俺初めて見たよ。すごいじゃん社長! 未来を先読みしてたんだ!」
男はレオンの様子を見て安心したのか得意げに語り出した。
「お、おうよ。ガラハドを邪魔したのが王様になったとあっちゃあ海賊を見逃すはずがねえ。海賊は止めて人脈を活かして貿易を始めたんだ。これが上手くいったんだ。
そんで海ときたら次は空だろ。飛行船よりスピードも出るしよ。こいつを見た瞬間思ったね。これからは飛行機の時代が来ると、間違いない」
「ガラハド……はて?」
「お前を捕まえた奴だよ」
「おお! あいつか」
「そういう訳で俺は面白可笑しくこの世を渡り歩いて来たんだが、お前のお父上にバレたら俺は即あの世行きだ。どうかご内密にお願いします」
「よかったなレオン。タダで船長と副船長がお前を乗せてくれるぞ」
アサヒが先に乗り込んだパイロットを指差すとパイロットは複雑な表情でアサヒを見ていた。
「で、どこに行きゃあいいんだ?」
「ヴェイン公の屋敷。父上が向かってるって」
「……マジかよ……」
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