第47話 閃光王子 十三

 グリード・ヴェインは拍手の中カメラの前に姿を現し、ドーン連邦それぞれの王やブルズカンパニーなど世界の大手企業の社長達と握手を交わした後、マイクの前で演説を始めた。

「我々ヴェイン公国は、長年ファルブル家のために尽力し、フェルト国に技術を提供し続けて来た。そしてその技術とファルブル家の力を以って我々は世界の悪と戦って来た! そしてようやく世界に平和が訪れたのだ。しかしフェルト国はアルベルト・ファルブルと我々が戦っている間何をしていた? ただ我々の技術の恩恵に預かり、ファルブル家の力に頼ってあぐらをかいていただけだ!」

 歓声と拍手が起こる。

「フェルト国内の歴史を見れば、ドーン連邦から富を搾取して来た事がよく分かる。フェルト国内では有名な話なのだが、ファルブル家は魔法で戦う特殊部隊なのだ。海外の統治者のために書かれたマーク・アレックス著の『大根王子』でもその事が書かれている。

 しかし! ユリアン・ファルブルが活躍した章、その中で彼が発見した金塊を平等に分配したエピソードはでたらめだ!」

 グリードは『大根王子』を掲げて叫んだ。

「この中に亡くなった冒険家が見つけた金塊を巡る戦いが書かれている部分がある。金塊の存在が知れ渡り、洞窟に入ったユリアンが天まで届くような金塊を見つけた時、その脱出方法が問題になった。彼は物を浮かせる事ができ、自らも浮きながら洞窟の奥深くに進入したため、そもそも彼の魔法が無ければ金塊を持って洞窟を出る事ができなかったのだ。

 ユリアンは、最初に探検のため洞窟に入った冒険家が水位によって脱出が困難になり、途方に暮れていたが植物を金塊に変える魔法を習得し、金塊と共に脱出したのではないか、そしてそれが騒動の発端なのではないかと予想した。

 しかし、今までファルブル家の魔法が重複した事は無い! 黄金を生み出す魔法を持っていたのはアルベルトの祖父、ガラフだけだ! そして洞窟内に閉じ込められたファルブル家でもない冒険家が突如魔法使いになり、洞窟を脱出するなどもちろんあり得ない! よってガラフ時代以前に魔法でできたような所在不明の金塊が大量に見つかるなどあり得ない話なのだ!

 つまり洞窟内にあった金塊は、本当は当時のドーン国に管理されていたドーン国の刻印が入った金塊であり、実際はフェルト政府が一方的に金塊を奪い、後からガラフがフェルト政府による過去の蛮行に心を痛め、罪滅ぼしのために魔法で作った金塊を諸外国に配って帳尻を合わせただけなのだ!

 本当のユリアン・ファルブルはフェルト国内の貧しい者や社会からはじき出された者達を集め、ヘルデを作って発展させて来た人格者だ。決して他国から金塊を持ち去るような人物ではない! 歴史はフェルト政府とアレックスによって捻じ曲げられていたのだ!」

 再び歓声と拍手が起こる。

「海外向けにファルブル家視点で書かれたこの本がまるでフェルト国の正史のような扱いを受けているが、もっと真実に目を向けるべきだ! フェルト政府がこれ以上ファルブル家の力を笠に着て野蛮な振る舞いを行わぬようアルベルト・ファルブルが勇気を持って王政を廃止し、民主主義に体制を変えたのと時を同じくして、ついに我々も立ち上がる時が来た! 我々はフェルト国への長年の貸しを精算する機会を得たのだ。そう、それが今回の石油だ!

 私はファルブル家と粘り強く交渉し、人命が失われないよう努力した。これから我々ヴェイン公国とドーン連邦が油田を管理し、世界を本当のあるべき姿に戻す! 不当にまた搾取するような事があってはならない! 我々はドーン連邦と協力し、現在発掘予定地に展開している全ての軍と連携してフェルト国に対抗する!」

 拍手とフラッシュの中でグリードの演説は続いている。


 アランとアルベルトは王宮でテレビを見て絶句していた。アランは立ち上がって叫んだ。

「馬鹿な! 何だこの演説は! 発掘予定地の軍事的緊張は全て芝居だったのか! 初めからフェルト国を締め出そうと……なんてことだ!」

「レオン達が誘拐された時に身代金などではなく油田に手を出すなという交換条件だったのも、私がすぐに発掘地に行って戦闘が始まってしまわないよう時間を稼ぐためだったんだな。黒幕はヴェイン公だったんだ」

「それにフェルト国内の大手企業まで向こうに付いている。これではもし今からフェルト軍を向かわせたら本当にフェルト政府による侵略行為に見えてしまう」

「しかしこの言い方はまるで初めからファルブル家と政府が別々に動いていたかのような印象を持たせようとしているように見える。何故こんな言い方を?」

 アランは椅子に座ると背もたれに体を預けた。

「おそらく今回の事に君を介入させたくないからだろう。あくまでフェルト国と他国の問題にしたいのだ」

「私がこのまま口出ししないと思っているって事か? なぜそう思うんだ?」

「僕が実際に軍を挙げて戦争にならなければ君がいたずらに人を殺めるような事はしないと踏んだのでは? ヴェイン公は君がもう国政には関わらないと思っているんだ」


 時を同じくして酒場でテレビを見ていたアサヒが笑みを浮かべた。

「どうやら世界平和とやらが訪れた今、ヴェイン公はアルベルトが退位したフェルト国を切り捨てたようだな。しかしずいぶんとそれっぽい話をでっち上げたもんだ」

 レオンが口を開いた。

「うーん、メイのお父さんて意外と馬鹿だったんだな。それとも石油の利権に目が眩んだかな」

 ヘンリーは首を傾げた。

「なんで? どういう事よ?」

「そりゃーお前、これを見た人はドーン連邦は被害者だ、でもファルブル家は悪くない、悪いのはフェルト政府だったんだって思うかもしれないけどさ、父上に向かって自分が石油を頂戴します、俺の誘拐を手引きしたのは私ですって白状してるような物じゃんか」

「あーまあ……でも世間体があるしさ、レオンの事があるとはいえアルベルト様もいくらなんでもヴェイン公の所にいきなり乗り込んでったりは……」

 レオンは首を振った。 

「いいや、するねあの人は。父上を止めないとな。このままじゃメイのお父さんが真っ二つになっちまう」

「俺も行こう。アフターサービスもしっかりしないとな」

 レオンはアサヒと共に酒場を出た。


 アルベルトは立ち上がった。

「アルベルト様?」

「レオンを誘拐した黒幕が分かったんだ。ヴェイン公の所に行って来るよ」

「待つんだ!」

「悪党がああやって顔を揃えているんだ。待つ必要は無いだろう?」

 アルベルトは部屋を出て行こうとした。

「待つんだ」

 アランのいつもと違う声にアルベルトは立ち止まって振り返った。

「……アラン?」

「アルベルト様……今回はフェルト国も戦わなくてはならない」

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