第39話 閃光王子 五
「じゃあなジイさん達! 長生きしろよ!」
「おう! またな坊主!」
レオンとメイは老人二人と仲間のヘンリーに別れを告げて酒場を出た。
「いやー楽しかった」
「よかったね。あんたの宇宙とユグドラシルとかいうヨタ話を聞いてくれる人がいて」
「ヨタ話じゃないっての」
二人が駐車場を歩いていた時だった。レオン達は店の中にいた男達五人に急に囲まれた。
「ん? どうしたあんた達?」
「ようお姉ちゃんかわいい顔してるね。この辺の人?」
「いや……違うけど」
「俺達と一緒に遊ばない?」
「えっ……嫌です。もう帰る所だから」
「そうつれない事言うなよ。な?」
レオンが二人の間に割って入った。
「いや俺達もう帰る所だから! ごめんなさい明日の仕事早いんですよ!」
「お前、レオン・ファルブルだろ?」
「いや、違うよ。それあっちに行った人でしょ」
男達は顔を見合わせた。
「お前、ふざけてんのか? さんざん中で騒いでたじゃねえか。間違える訳ねえだろ」
「やっぱり駄目か。これで切り抜けられる時もあるんだけど」
「王子様ならお金持ちなんだろ?こんな所で会ったのも何かの縁だ、少し俺達下々の者にも恵んでくれよ」
「あ、一緒に飲み直す? 酒代くらいなら出すよ」
「そういう事言ってんじゃねえんだよ!」
男がレオンの胸倉を掴んだ。レオンは両手を上げた。
「あー待ったすいません! 暴力反対! やめてぶたないで!」
横にいた男達はヘラヘラ笑い出した。
「なんだなんだ!? ファルブル家ってのはとんだ腰抜けだなぁ?」
「そうなの! 俺は平和主義なの! でも父上は違うよ!? 警察とか関係無いんだから! 俺を殴ったりしたらきっと殺されちゃうだろうな!?」
「パパー魔法で助けてーってか!? ギャハハハ! こりゃダメだ! あんたもこんな弱虫のお坊ちゃんより俺達と一緒にいた方が楽しいぜ? 今から俺達と遊びに行こうぜ」
男の一人がメイの肩に手を回した。その途端、レオンの怯えた表情が消えた。
「おい」
「あん?」
「なに気安くメイに触ってんだよ」
レオンの声が急に低くなった。
「え?」
「調子に乗りやがって。お前等本当に俺がただの腰抜けだと思ってんのか?」
レオンの眼の虹彩がギラギラと輝き始めた。
「うおっ!」
男が掴んでいた手を慌てて放した。レオンの体が内側から輝き始め、放電するように光が明滅し始めた。
「俺はファルブル家なんだぜ? 俺も魔法使いだって事忘れてんだろマヌケ共」
「ひっ……!」
男達が後ずさった。レオンの瞳と体が闇夜でより一層不気味に輝く。
「お前等が灰にならずに今そうやって生きてるのはただの俺の気まぐれなんだよ。見逃してやるからさっさと失せろッ!」
「ひえええ!」
「すっすみませんでした! 失礼しました!」
男達は慌てて逃げて行った。
男達がいなくなるとレオンとメイは歩き出し、メイの車に二人が乗り込むとレオンは冷や汗を吹いてため息をついた。
「あーびっくりした。もう少しで漏れちゃう所だった」
レオンの横顔を見てメイは吹き出した。
「あははは! マジうける! 見たあいつらの顔!? あんたの魔法に超ビビッてんの!」
「いやー便利だな魔法ってのは。酔っぱらい脅かすのに最適」
「目全体でやって! 目!」
「ルームライト!」
メイを見たレオンの目がピカーッと光って車内を照らした。
「あははははは! はー……いやすごいねその魔法。光る魔法ね」
「ああ。親の七光りってよく言うけど、まさか本当に光るだけとはなー。まあ形と強さは自由自在だけど。何か他に効果があるのかと期待してたのに何にも無いの」
「キャンプする時便利じゃん」
「うんまあね。俺はキャンプしないんですけど。父上は若い時ね、草原のど真ん中で銃持った反乱軍三千人相手に百人でサーベル持って突撃とかしてたらしいんですよ。やばすぎでしょマジでその時代、俺なら即死だわ。いやー父上の代じゃなくてよかった」
「私も父上の書斎にあったから『大根王子』読んだけど、アルベルト様ってほんと童話の主人公みたい。あんたも白馬に乗って迎えに来てよ……あ、でも免許無いか」
「馬は免許無くても乗れるっての。……ま、そういう訳だ。何かあったら俺を守ってくれ」
「どういう訳なんだか。ふふ。さっきみたいにハッタリで何とかしたら?」
「実戦では役立たずなの俺は」
「しょうがないなあーまったく」
メイがエンジンをかけて車が走り出すやいなや、レオンはスヤスヤと寝息を立て始めた。
メイはニコニコして車を走らせながら小声で呟いた。
「役立たずなんかじゃないのになー」
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